世界の全体像を更新したい40代以上の人にはもってこい、の本です。特に生活レベルを四段階に分けて世界を眺めているのは秀逸なアイディアです。とても分かりやすく、本をあまり読まない人にもお勧めです。
しかし、何故、評価の星が二つなのか? それは余談が多すぎるのと繰り返しの説明が多すぎるのです。重要なのは多めに見積もっても、初めの100ページ程度。日頃、ニュースの裏側や世界について考えている人には、不要と思われます。
本当は星三つぐらいは付けてもいい内容なのですが、この著者の世界観には共感できません。この本にたびたび「世界はよくなっている」とでてきますが、この場合の「世界」とは「人間社会」のみを限定的に指しているに過ぎません。
自然保護区が陸地の約15%に達したと本書にはありますが、地球上の森林の約50%はすでに失われ、今現在も九州ほどの面積の森林が毎年消失し続けている事実は載っていません。そして、土地の干ばつ、乾燥化や砂漠化もとまりません。
トラやパンダ、サイなどの哺乳類は絶滅寸前の危機的状況から改善しつつある、という事実は載っていますが、生物の絶滅のスピードが最小限に見積もっても自然絶滅の100倍以上の速さで進み、急速に生物の多様性が失われているという事実は載っていません。
更に「DDTで死んだ人間はいないのだから、使えばよい。難民キャンプで蚊が媒介する伝染病を防げるから」と書いていますが、ネオニコチノイド系の農薬によって蜜蜂やトンボが大量死している事実には触れていません。
海洋資源については一言も触れておらず、水温の上昇や乱獲、水質汚染、マイクロプラスチックやバラスト水による生態系の変質などより、年々、悪くなっていることも(意図的に?)無視しています。海の森林と呼ばれるサンゴ礁の死滅などは全世界的に進行し、もはや壊滅状態です。
約400ページもある本で世界について語っているのに、今、現在も続く大量生産・大量消費の社会(レベル4の生活)について何の懸念も書いていないのは違和感があります。
この本の中に、「あなたには(著者のこと)ビジョンがない」とアフリカの女性に批判されたエピソードが載っています。正にその通りです。「このままで、結構いい感じじゃない?」という結論で終わっています。世界について語っている本なのに、この本にはビジョンがないのは残念としかいいようがありません。
追記(2020.12.31):『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)にこの本について書いている所があるので紹介します。
P142 『ロスリング家の3人が書いた「ファクトフルネス」は素晴らしい本だが、気候および持続可能性の危機については差し迫った問題として扱われていない。』
この文章の後、希望的観測を謳うファクトフルネスに対して、それでいいのかと疑問を呈する文章が続きます。興味のある方は是非ご一読を。
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