John Surman、Evan Parker、Terje Rypdal、Paul Bleyなど個性的なミュージシャンと共演を重ね、多くのリーダーアルバムをリリースしてきたBarre Phillips は、1934年、サンフランシスコ生まれのベーシスト。
ECMレーベルからは、Dave Hollandとのベースデュオ「Music from Two Basses」を設立間もない1971年に、以来、「Mountainscapes(1976年)」「Journal Violone II(1979年)」「Aquarian Rain (1991年)」などのアルバムをリリースしてきました。
この「End To End」は、2016年の夏、PhillipsからECMの創設者であるManfred Eicherに「最後のソロアルバムを作りたい」との申し出があり、制作に至ったのだそうです。
ブックレットには、庭やスタジオ内でくつろぐPhillipsとEicherの姿が掲載されています。
かつてベルリン・フィルのコントラバス奏者であったEicherは、ベースという楽器を通じてPhillipsと心を交わしながら、このアルバムを制作したような気がします。
Bill Evansに「自己との対話(Conversations With Myself)」というソロアルバムがありました。Evansはピアノ、Phillipsはベースという違いこそあれ、この「End To End」にもそんなタイトルを付けたいくらい、自己の内面にひたすら沈潜していく印象を受けました。
アルバムは、「Quest」「Inner Door」「Outer Window」の3つの章に分かれており、ピッツィカートのみならずアルコ奏法も駆使し、Phillipsはベース一本で、記憶の迷路を手探りで行きつ戻りつするかのように、表情豊かなサウンドを紡ぎ出しています。
様々な出来事や人物が去来する中で、たゆまぬ努力により音楽の探求を続けてきたこれまでの人生(遠い少年時代、音楽との出会い、切磋琢磨し合った音楽仲間達、恋した女性、親との別れなど)を、音として表現したかったのでしょうか?
超絶テクニックとは言えないまでも、録音当時82歳とは思えないほど、そのベースの音には、張りと艶が感じられます。
全13曲、約44分。曲は全てPhillipsのオリジナル。
ほぼ即興と思われる各パートには、特定のリズムも際立ったメロディもありませんが、このサウンドに胸を打たれる方は多いと思います。
録音は、2017年3月、フランスのペルヌ=レ=フォンテーヌにて。プロデュースはもちろんManfred Eicher。
聴く側も、来し方行く末に思いを馳せたくなるような、深みのあるアルバムです。