オーストリアのグリッチ、ノイズ系アンビエント・プロデューサー兼ギタリスト、Christian Fennesz。
2008年の"Black Sea"以来実に6年ぶりとなる新作は、かの名盤"Endless Summer"にコンセプト的な繋がりを持つ、実質的な「続編」だそうです。
一体どんな出来なんだろうかとこちらもちょっと緊張しながら聞いていたせいか、最初は"Endless Summer"と少し違う点ばかりに目が行きました。
まず音質。最近のMego関連作の例に漏れず、ノイズやギターの音像は極めて鮮明。ライブで聞いているんじゃないかというくらいの物凄いマスタリング。
個人的にはあのちょっと靄のかかったようなサウンドも好きでしたが、慣れるとそんなに違和感は無いです。
それを活かして、2曲目"The Liar"なんかでは音圧の高い暴力的なドローンも披露しています。
もうひとつは即興的なライブ・ドラムと打楽器の導入。出番は少ないものの、"Liminality"や"Sav"なんかでは極めて重要な役割を演じたりもしています。
しかし、本質的な部分はやはり"Endless Summer"そのもの。
あたりの空間を占拠する猛烈なグリッチ・ノイズ、その狭間から漏れ出る感傷的なアコースティック・ギター、そして雄大な展開。終わらない夏を夢想させる全てが、再びここにあります。
奇妙なモジュラーシンセとシンバル、アコギが交じり合う倒錯的な”Static Kings"、
ノイズの大爆音の背後からクラシカルかつ壮大なメロディがわずかに聞こえる幻想的な表題曲"Becs"。
ギター・ソロのような形から徐々に静謐なシンセとノイズが混じっていくクローザー"Paroles"等、
聞いていると涙が出そうになる美しい曲ばかりですが、その中でも特に良かったのが、"Endless Summer"の魅力が凝縮されつつ、新しい要素も絶妙に取り入れた10分超の大作"Liminality"。
轟々と鳴り響く甘く歪んだギターや、寄せては返すさざ波のようにローリングするドラム、次第にそれらを包み込んでいくノイズを聞いていると、夕日の水平線に沈んでいく情景が鮮明に浮かび上がっていきます。
ノイズ・ミュージックがかつて無い勢いを保持しているここ10年間。今思えば、その契機のひとつは間違いなく"Endless Summer"でした。
壮大でメランコリックな音響、そしてアコースティックとデジタルを共存させるFenneszのスタイルが、今や本当に多くのノイズ・ミュージシャンに息づいていることを改めて感じます。
そんな現代のシーンの中で、"Endless Summer"の続編は一体どういうふうに聞こえるのか、正直不安も少なからずありましたが、Fenneszはその一見不可能にも思える仕事を見事にやり遂げました。
このアルバムがFennesz自身にとっても、また彼のスタイルを真似てきたノイズ・ミュージシャン達にとっても一つ区切りとなって、
この先にあるまだ誰も見たことのない領域に足を踏みだそうとする人が出てくるかもしれない。そんな予感すらさせる作品です。