小説以外の書物を極力排する塩味が、どうしても読まねばならぬと思ったノンフィクションです。何故なら塩味は40年来の大洋ファン。生地が下関というこ ともあって物心ついたころにはホエールズの濃紺にWのキャップを被っていたからです。しかし大洋が初優勝したのは私が生まれる1年前で1960年。私が物 心ついて応援していた大洋は既に弱かったのです。やがて本拠地は下関球場から川崎球場へと移転しますが、一番近くの広島球場へは広島対大洋(横浜)戦だけ は足しげく通いました。広島球場のカープファンは当時は大変品が悪く巨人等の強いチームのファンに明らかに敵対ムードでしたし、市内のタクシーの運転手で さえカープ一色で阪神や巨人の帽子を被っていると乗車拒否していました(本当ですよ)。ところがとことん弱い大洋ファンには大変やさしくて、当時あった 「爆鯨会」という大洋の私設ファンクラブは唯一広島球場でカープファンからも温かいまなざしで迎えられていました。そんなことを思い出しながら楽しく読ま せていただいた大洋・横浜の負の球団誌です。
前置きが長くなりましたが、大洋ホエールズ・横浜大洋ホエールズ・横浜ベイスターズ・横浜DeNAベイスターズは、セリーグが発足した1950年から 2012年までに、12球団最多の4522敗を喫しています。5年連続で最下位、この15年間で10回も最下位なのです。通算勝率は4割4分。しかも 2008年からの5年連続最下位時代の勝率は首位打者の打率より悪い3割台というまったくのお荷物球団でした。
2014年(昨年)は前半を終えた時点で首位で折り返し、中畑監督やるなあと、密かに(実は大っぴらに)喜んでいたのですが、シーズンが終わったらまさ かの定位置最下位といったファン泣かせの、というかファンを裏切らない絶対の弱さを発揮してくれました。そして今年ラミレス深監督の元での船出はここまで 5勝12敗(2割9分4厘)というこれまでにも増してベイスターズらしい安定感のある弱さを継承しています。
なぜ、ホエールズ・ベイスターズファンは弱くても応援し続けるのか。この答えの一端を本書は詳らかにしています。
ここからやっと書評に入ります。ファンですからついついベイスターズを語ると長くなってしまって申し訳ありません。
平松政次や近藤昭仁、山下大輔、遠藤一彦、高木豊、オバQ田代、ヒゲの斉藤明夫などホエールズ時代の主力選手、石井琢朗や谷繁元信、鈴木尚典、佐々木主 浩、波留、駒田、進藤、中根といった伝説の1998年の優勝メンバー、内川聖一や古木克明、木塚敦志といった“不遇な時代"を支えた主力選手たちなどへの インタビュー取材を敢行して、4522敗も喫してきた大洋・横浜の歴史を語る一大抒情詩です。そこにはグランドで敗戦を重ねる兵隊の美学も語られますが、 敗戦を導いた大本営にあたる経営陣・フロントの無策ぶりが糾弾されており、太平洋戦争史に通じる興味深い構成となっています。
「なんでこんなに弱いのか」「なんでこんな球団になったのか」という怒りと責めを熱狂的なファンの視線で哀愁と愛着を持って語っています。同じベイスターズファンとして一言一句うなずきながら読み進めることが出来るのが嬉しい限りです。
ベイスターズは、主力選手が次から次にFA宣言して出ていきます。ソフトバンクを支える内川聖一であり、巨人を支える村田修一であり、中日を支える谷繁 元信であり、広島を支えた石井琢朗であり、外人だって古くはシピン、トレイシー最近では超特急クルーン…ヲイヲイ!!ベイスターズから生まれたスター達が 他球団で(しかも多くはセリーグで)中心選手になって古巣を攻撃しているこの構図はいったい何なんだ!!!。
ドラフトは「だれ?この選手?」という指名。監督ほぼ2年ごとにコロコロ変わり(ちなみに中畑は長いほうでした)、横浜時代はスポンサーもつかず市民球団。まさに泥沼。
本書では4522回の個々の敗北の理由を述べていません。いい加減、豪快、大雑把、それでも誰も期待も予想もしていなかった優勝を遂げた1998年があ ります。それが良き伝統であり悪しき習慣でもあるホエールズ・ベイスターズ。弱小球団ベイスターズを語る渾身の一冊です。ファンである塩味にだけ捧げられ た珠玉の1冊でした。巨人ファンが読んでも面白くないと思うよ。
4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史 (日本語) 単行本(ソフトカバー) – 2013/6/26
村瀬 秀信
(著)
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本の長さ304ページ
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言語日本語
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出版社双葉社
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発売日2013/6/26
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ISBN-104575305189
-
ISBN-13978-4575305180
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
12球団最多4522敗、5年連続最下位。でも、応援するんだよ。“98年の奇跡”から一転、泥沼にはまった最弱球団が「熱く熱く立ち上がる」まで。現役選手、OB選手、歴代の監督やコーチ、球団社長など総計34人の関係者が語り、生まれついての横浜ファンの作家が魂を削って綴った、ホエールズ&ベイスターズの歴史を徹底総括する渾身のノンフィクション。
著者について
1975年神奈川県生まれ。茅ケ崎西浜高校野球部卒。
全国を放浪後、出版社・編プロ勤務を経て独立。
エンタテイメントとプロ野球をテーマに「Number」「週刊文春」「週刊プレイボーイ」「GOETHE」などの雑誌へ寄稿。
幼少期からの大洋・横浜ファンのため、勝敗に左右されずプロ野球を愉しむ術を自然と体得。
著書として最新刊は「プロ野球 最期の言葉」(イーストプレス)。
全国を放浪後、出版社・編プロ勤務を経て独立。
エンタテイメントとプロ野球をテーマに「Number」「週刊文春」「週刊プレイボーイ」「GOETHE」などの雑誌へ寄稿。
幼少期からの大洋・横浜ファンのため、勝敗に左右されずプロ野球を愉しむ術を自然と体得。
著書として最新刊は「プロ野球 最期の言葉」(イーストプレス)。
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.6
星5つ中の4.6
78 件のグローバル評価
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2016年5月2日に日本でレビュー済み
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42人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2020年4月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
子供のころからジャイアンツファンの自分ですが、ベイスターズの前進大洋、ものすごく面白いチームだった。
ジャイアンツのドル箱チームだったけど(どのチームにも弱くて)でもいい選手はいました。
ベイスターズファンの知人が面白いから読んでみてくださいと言われたので、アマゾンに文庫本で有ったので早々購入しました。大洋のころから始まって面白いです。私も横浜生まれなので興味あり読みました。
ベイスターズファンは是非とも。
ジャイアンツのドル箱チームだったけど(どのチームにも弱くて)でもいい選手はいました。
ベイスターズファンの知人が面白いから読んでみてくださいと言われたので、アマゾンに文庫本で有ったので早々購入しました。大洋のころから始まって面白いです。私も横浜生まれなので興味あり読みました。
ベイスターズファンは是非とも。
2016年12月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
近年、親会社が度々代わってしまうという不運もあるのでしょう。
低迷を続けて久しいベイスターズの、ホエールズ時代からの軌跡を
熱いファン視点で綴られた良書です。
自分は関西生まれ関西育ちなため、タイガースやバファローズファンの気質に
ついては言わずもがな、なのですが、あーなるほどベイスターズのファンというのは
こういう考えなのか。良い意味で感動し、新鮮味を感じました。
そりゃそうでしょうねぇ。
ヤクルトで「育てる監督」として高い評価を得ている関根監督が「長嶋を呼ぼうとした」
という理由で大洋ファンから冷たい目で見られていたり、他球団のファンである私から
すれば屋敷や高木豊らの大量解雇事件はどっから見ても不良債権の整理にしか
見えなかったわけですが、あぁホエールズファンからしたら驚天動地の出来事だった
ということを再認識させられました。
世間的にウケのよかった近藤貞夫監督の「スーパーカートリオ」にほとんど触れられて
いなかったりする点も、あぁ生粋のファンには目立ちたがり屋のパフォーマンスでしか
なかったのかな(苦笑)。
また、ドラフトで戦力が均衡化され、広島や近鉄、ヤクルトといったかつての弱小球団が
次々とペナントを制覇しているのに、横浜(大洋)だけが失礼ながら番外地の状態に
置かれて久しいというのは、どう考えてもフロントに問題があるという証明であって、その
哀れな歴史についての記述には目を見張るものがあります。
強豪チームの名参謀として名を成した近藤昭監督などは実績のあるOBであるにも
関わらず、ベイスターズの体質には全く合わなかったというのも悲しいエピ。
自分的に横浜大洋ホエールズが強烈な記憶になっているのは昭和50年代中期。
松原、基、山下、田代の素晴らしい内野陣に加え、投手陣も野村、斎藤明、遠藤、
平松という素晴らしい先発スタッフ。黄金時代のカープに真向から挑めたのは
別当監督時代のホエールズのみ。あの時代のこともちょっと書いて欲しかった気がします。
低迷を続けて久しいベイスターズの、ホエールズ時代からの軌跡を
熱いファン視点で綴られた良書です。
自分は関西生まれ関西育ちなため、タイガースやバファローズファンの気質に
ついては言わずもがな、なのですが、あーなるほどベイスターズのファンというのは
こういう考えなのか。良い意味で感動し、新鮮味を感じました。
そりゃそうでしょうねぇ。
ヤクルトで「育てる監督」として高い評価を得ている関根監督が「長嶋を呼ぼうとした」
という理由で大洋ファンから冷たい目で見られていたり、他球団のファンである私から
すれば屋敷や高木豊らの大量解雇事件はどっから見ても不良債権の整理にしか
見えなかったわけですが、あぁホエールズファンからしたら驚天動地の出来事だった
ということを再認識させられました。
世間的にウケのよかった近藤貞夫監督の「スーパーカートリオ」にほとんど触れられて
いなかったりする点も、あぁ生粋のファンには目立ちたがり屋のパフォーマンスでしか
なかったのかな(苦笑)。
また、ドラフトで戦力が均衡化され、広島や近鉄、ヤクルトといったかつての弱小球団が
次々とペナントを制覇しているのに、横浜(大洋)だけが失礼ながら番外地の状態に
置かれて久しいというのは、どう考えてもフロントに問題があるという証明であって、その
哀れな歴史についての記述には目を見張るものがあります。
強豪チームの名参謀として名を成した近藤昭監督などは実績のあるOBであるにも
関わらず、ベイスターズの体質には全く合わなかったというのも悲しいエピ。
自分的に横浜大洋ホエールズが強烈な記憶になっているのは昭和50年代中期。
松原、基、山下、田代の素晴らしい内野陣に加え、投手陣も野村、斎藤明、遠藤、
平松という素晴らしい先発スタッフ。黄金時代のカープに真向から挑めたのは
別当監督時代のホエールズのみ。あの時代のこともちょっと書いて欲しかった気がします。
2017年8月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
今年読んだ本の中で一番面白かった。
400ページ超と厚めの本だが、中身はその厚さよりも何倍も濃い。
横浜に移ってからのホエールズとベイスターズの歴史を、当時の選手、監督・スタッフ、球団社長などへのインタビューを元に綴っている。
スポーツライターとしての冷静な視点とファンとしての熱い思いがよい按配で混ざり合った軽妙かつ的確な筆致が心地よく、笑いながら涙ぐみながら読むはめになる。
この球団はなぜこんなに負けたのか、ファンはそんな球団をなぜ応援し続けたのか。
いやいや、そりゃそうだよね、そうなるよね、でもね、なんかね、ほら、いつかきっとね・・・。
この球団の負けっぷりをインタビュー証言から見事に分析・解説しているが、これは歴史書として面白いし、経営論としても大変現実的でタメになる。
ホエールズ&ベイスターズならずとも、野球ファンでなくとも、どこか/なにか/だれかのファンであれば、本書を読むとファンがもつ熱い思いに共感することと思う。
下世話な人は●●秘話的な話、逸話の真偽に食いつくかもしれない。
何をどう読んでも面白く感じられるのだが、それもこれも著者の球団に対する愛情がインタビュー相手の心を開いたからこそ、と思う。
本編では少ないファンの発言・証言を「解説」で補強しているところも本作の完成度を上げていて、編集者の出版愛も感じてしまう。
結局、最後に大切なのは「愛だろ、愛」、なんてことを素直に感じ入る、とてもよい本でした。
400ページ超と厚めの本だが、中身はその厚さよりも何倍も濃い。
横浜に移ってからのホエールズとベイスターズの歴史を、当時の選手、監督・スタッフ、球団社長などへのインタビューを元に綴っている。
スポーツライターとしての冷静な視点とファンとしての熱い思いがよい按配で混ざり合った軽妙かつ的確な筆致が心地よく、笑いながら涙ぐみながら読むはめになる。
この球団はなぜこんなに負けたのか、ファンはそんな球団をなぜ応援し続けたのか。
いやいや、そりゃそうだよね、そうなるよね、でもね、なんかね、ほら、いつかきっとね・・・。
この球団の負けっぷりをインタビュー証言から見事に分析・解説しているが、これは歴史書として面白いし、経営論としても大変現実的でタメになる。
ホエールズ&ベイスターズならずとも、野球ファンでなくとも、どこか/なにか/だれかのファンであれば、本書を読むとファンがもつ熱い思いに共感することと思う。
下世話な人は●●秘話的な話、逸話の真偽に食いつくかもしれない。
何をどう読んでも面白く感じられるのだが、それもこれも著者の球団に対する愛情がインタビュー相手の心を開いたからこそ、と思う。
本編では少ないファンの発言・証言を「解説」で補強しているところも本作の完成度を上げていて、編集者の出版愛も感じてしまう。
結局、最後に大切なのは「愛だろ、愛」、なんてことを素直に感じ入る、とてもよい本でした。
2013年11月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
というほどのものではないが、このチームの歴史を簡単に振り返るには格好の参考書。あまりにも弱い理由が最近ファンになった人にもなんとなくつかめるでしょう。できれば誰でも知っている表面的な事実だけでなく、フロントやスタジアムその他いろいろ新聞では書きたくても書けないような秘密も暴露してほしいところ。