面白い本だ。メディア関係者は必読だろう。
本書前半のクライマックスは「ライントピックス」訴訟の第一審だ。2002年、見出しの著作権他をめぐり、神戸のベンチャー企業が、読売から6000万強の損害賠償を請求される、読売の大弁護団に、神戸の新人弁護士がひとり対峙する。本書で「ダビデとゴリアテの戦い」とされるこの訴訟で、読売が完敗するのである(のちに控訴)。ここは映画化してほしいくらい面白い。
この時の読売の弁論は、「記者が夜討ち朝駆けで苦労して取ってきた情報をネットがタダで使うなんて」という論理だった。「労働価値説」とでも言うのか。本書はそれを「いわば内輪の論理で、外から見るとまったく非常識に見えた」と書く。結局、ここに、それ以降、新聞がネットに負け続ける理由が表れていると思う。新聞は長い間、世論を自由に操ってきたので、自分たちの慢心に気づかなかった。
そのあと、朝日、日経、読売の強者連合「ANY」で「あらたにす」というウェブサイトができる。日経はその時点で自社サイトの課金を決めているのに、ANY加入はそれに矛盾する行動だ。その日経の不思議な行動の理由を、本書はいちおう説明してみせるが、それが真相なのか、いまひとつ納得できない。日経は本書の取材に非協力的だったようなので、別の真相があるかもしれない。
このANYから排除された弱者「毎日」の朝比奈役員(のち社長、会長)が、2007年の新聞大会の舞台裏で、読売の山口寿一(のち社長)に食ってかかる場面などが面白い。しかし、このANYもすぐ失敗する。「この三社のサイトは、あくまで新聞記者の意識を前提におきながら、それを世の中が読むべきだ、読むのが当然だ、という考えで作ったことが大きな失敗の原因となってくる」(P158)。つまりは慢心である。
新聞の強者連合も敗れ、結局ヤフージャパンが勝者となる、というのが本書のストーリーだ。それはそれとして、新聞はデジタル戦略で致命的に敗れたのに、新聞経営者は誰も責任を取っていないらしいことが気になった。日経は最終的に勝者らしいのでよいとして、読売の山口、朝日の秋山、毎日の朝比奈各社長などはその責任をとったように見えない。
本書では2000年代半ばまで新聞の部数はそれほど減らなかったとしているが、実際には1990年代後半がピークであった。もっと早く、賢明な経営判断がありえたはずだ。最近、毎日のデジタル担当だった役員が、妻の覚醒剤所持で辞任した。週刊誌は次期社長候補だったと書いていた。毎日はいちばんの敗者で、その責任者のはずなのに、その責任ではなく、妻の不始末でしか辞任しないわけである。産経と毎日の一般社員はリストラでどんどん「クビ」になっているという。
デジタル部局やネット生え抜きの社員をいつまでも傍流扱いして、「夜討ち朝駆け」自慢の政治部や社会部出身者が出世するシステムを変えなければならないはずだが、よほどの外圧がない限り無理なのだろう。本書でも少し触れられているが、新聞社は特殊な法律で守られ、株式が公開されず、株主総会のコントロールが効かないので、要するに現経営者とその取り巻きの「独裁」が会社がつぶれるまで続くのだろう。
ところで、本書はやたら読売の山口寿一社長を持ち上げるのが気になる。よほど取材に協力してもらったのだろうが、ということは、渡辺恒雄会長の意思が働いているということだ。読売こども新聞の宣伝みたいな部分もある。新聞社では日経だけがネットの勝ち組になりそうな業界事情の中、読売が何か仕掛けてきたのかもしれない、とちょっと感じる。ともかく、そのせいか、日本の古い新聞文化を象徴するような渡辺会長への批判がないどころか、ちょっと持ち上げてもいる。
しかし、そもそもネットに理解がないどころか敵対してきた読売の会長さんが世論を牛耳ってきたせいで、新聞業界はもちろん、日本のIT産業とネット文化が、致命的に遅れたのではないか。民主党政権時代に文科副大臣を務めた、著者と同じ慶大教授の鈴木寛が、デジタル教育導入をナベツネに妨害されたことを本に書いている(『テレビが政治家をダメにした』双葉新書)。2010年には読売は「デジタル化が日本を滅ぼす」という講演を含むイベントもやっている。「この裏には、読売新聞のデジタルコンテンツ化は主要メディアの中でも最も遅れていて、教科書のデジタル化が進むと世の中全体のデジタル化も進み、経営に大打撃になるという理由があったようです。」と鈴木は書いている。
読売ならずとも、日本の新聞は2000年代になっても、日本はネットやソフトはやらずにパソコンづくりという「ものづくり」をこれまで通りに真面目にやりつづければよい、という論調であった。ネットではイデオロギー的理由で特定の新聞をつぶそうとかいう運動があるが、そういうものではなく、新聞社を日本のためになるように、市民国民の利益になるように変えていく必要があると思った。
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2050年のメディア 単行本 – 2019/10/25
購入を強化する
読売、日経、ヤフー、波乱のメディア三国志!
紙かデジタルか? 技術革新かスクープか?
「読売はこのままでは持たんぞ」
2018年正月の読売賀詞交換会。いつも「経営は磐石」と太鼓判を押す渡邉恒雄がその年は違った。「紙の王国」に大きな危機が訪れていた。
分水嶺は2005年に訪れていた。
1995年には存在すらしていなかったヤフー・ジャパン。
そのヤフーは、読売からのニュース提供をうけて、月間224 億PVという巨大プラッットフォームに成長。
危機感を抱いた読売新聞の社長室次長山口寿一(後のグループ本社社長)は、ヤフーに対抗して新聞社が独自のプラットフォームを持つことを思いつく。
日経、朝日に声をかけ、ヤフー包囲網がしかれたかに見えたが・・・。
同じ時期、日本経済新聞社長の杉田亮毅は、無料サイトにみきりをつけ、電子有料版の準備をひそかに進めていた 。
序章 読売はこのままでは持たんぞ
二〇一八年正月の読売賀詞交換会。いつも「経営は磐石」と太鼓判を押す渡邉恒雄がその年は違った。遺言のようだ、と感じた社員もいた。紙の王国に大きな危機が訪れていた。
第一章 最初の異変
「新聞の切り抜きを使った授業はもうできないんです。新聞をとる家庭がもうないから」そう言われて北区で複数の読売の新聞専売店を経営する副田義隆は衝撃をうける。
第二章 中心のないネットワーク
後に「日本のインターネットの父」と呼ばれるようになる慶應義塾大学の村井純は、この技術が、産業のあらゆる分野で変革を起こすようになるとは夢にも思っていなかった。
第三章 青年は荒野をめざす
二〇一六年には読売、朝日、日経を全て足した売上よりも大きな売上をあげるようになるヤフー・ジャパンの設立は、九六年一月のことだった。旧メディアから若者たちが集まる。
第四章 読売を落とせ
激烈さをますポータルサイト同士の競争のなか、「ヨミウリ・オンライン」は喉から手がでるほどほしいコンテンツだった。遅れをとったヤフーの井上雅博はいらだつ。
第五章 ライントピックス訴訟一審
ハイパーリンクというインターネットの最大の発明を使って様々なビジネスが花開く。神戸の小さな会社が始めた「ライントピックス」というサービスもそのひとつだった。
第六章 戦う法務部
守るだけではなく、攻めなくてはだめだ。山口の信念のもと読売法務部は変わっていく。「ライントピックス」訴訟控訴審。グーグルの上陸で掛け金ははねあがる。
第七章 日経は出さない
各社が自社サイトやヤフーで紙面掲載のほぼ全てを見せているなか、日経だけは3割ルールをもうけて制限をしていた。このことがデジタル有料版への重要な布石になる。
第八章 真珠のネックレスのような
二〇〇五年は分水嶺の年だった。ヤフーの売上が一〇〇〇億円を突破し、警戒感を高めた新聞各社は、自分たちがポータルサイトを作ればということを考え始める。
第九章 朝日、日経、読売が連合する
後に「あらたにす」として結実することになる朝日、日経、読売の共通のポータルサイトの案は読売を出発点として、販売協力の話しから始まっている。三社の社長の駆け引き。
第一〇章 「あらたにす」敗れたり
包囲網をしかれたヤフー、必死の巻き返しが始まる。読売には強いメディア戦略局長が誕生。朝日の田仲、日経の長田に責められ、読売の山口は苦渋の立場におかれることになる。
第一一章 アンワイアード
インターネットは有線につながないと見ることができなかった。それを移動中でも見ることができるようになる技術が開発されようとしていた。村井純は大きな変化を予測する。
第一二章 イノベーションのジレンマを破る
「大企業は、技術革新によって生まれた新市場に出て行こうとしない」。ハーバード大の教授がとなえた「イノベーターのジレンマ」に読売は囚われ、日経はそれを破ろうとした。
第一三章 日経電子版創刊
「もうひとつの日経をつくる」。有料電子版の開発の責任者だった徳田潔はそれぐらいの難事業だと覚悟していた。いかにイノベーションのジレンマを破り、ゼロの市場にでていったか。
第一四章 内山斉退場
渡邉恒雄が自著で後継者の「本命」と太鼓判を押した内山斉に退場の日がやってくる。
ANYの協調路線が、ドンの拡大路線とあいいれなかったのか? 新しい世代の登場。
第一五章 「清武の乱」異聞
かつて読売には自由闊達に外の人間とつきあい、市井の人々の声を拾う社会部記者の系譜があった。その系譜につながる最後の記者が反乱を起こす。鎮圧の役を担ったのは山口だ。
第一六章 論難する相手を間違っている
無敵の読売グループ法務部に一矢むくいたのが週刊文春編集部の西崎伸彦を書き手とする取材班だった。西崎は、長い裁判闘争の中で、読売は論難する相手を間違えている、と考える。
第一七章 ニューヨーク・タイムズの衝撃
二〇〇八年日本を訪れたタイムズの調査報道記者が放った「新聞は死んでいる」の言葉から六年。社内有志の調査「イノベーション・レポート」が世界の新聞社に衝撃を与える。
第一八章 両腕の経営は可能か?
販売店網を維持しながら、デジタルを追及するということは可能だろうか。社長室長が推進した「読売タブレット」はまさにそのことを目指した。実証実験が始まる。
第一九章 スマホファースト
ヤフー・ジャパンもまたパソコンでの成功が、スマホへの対応を遅らせるという「イノベーターのジレンマ」に囚われていた。井上雅博が退陣、宮坂学が一気にスマホへ舵をきる。
第二〇章 ヤフー脱藩
トップページの寡占を利用しヤフーが広告収入の7割から9割をとるビジネスは将来いきずまる。ヤフーの中で、まったく新しいプラットフォーム構想を持つ男が現れる。
第二一章 ノアドット誕生
ヤフー・ニュースのビジネスモデルを根幹から変えようとする「セグンド」の事業はなるか? 脱藩した中瀨が、ヤフーに残った佐藤・高橋とともに、「ノアドット」をつくるまで。
第二二章 疲弊する新聞
新聞の部数が激減し、会費分担金収入が減った新聞協会で、異様な「急進的なる成果主義」が着手される。始末書をとり、降格をし、年収をダウンさせる。多くの職員が辞めていく。
第二三章 未来を子どもにかける
読売は本紙が一〇〇〇万部の大台をきった二〇一〇年、新らしい紙のメディアを創刊する。読売KODOMO新聞。未来の読者を育てるというその願いははたして届くだろうか。
第二四章 未来をデジタルにかける
かつて午前一時の降版の時間にむけて全社がまわっていた日経は、電子版の普及とともに変わった。午後一〇時には編集局にはほとんど人がいない。報道の中身も変わっていく。
第二五章 未来をデータにかける
ヤフーはまた大きく変わろうとしている。「メディア企業」から「データ企業」へその衣を脱ぎ捨てていく。宮坂学や奥村倫弘など草創期に参加したかつての若者はヤフーを去っていく。
終章 2050年のメディア
読売の山口が郵送してくれた一遍の論文。そこには、新聞の今後を考える意味で重要な示唆があった。新聞社の強固な防衛力となる日刊新聞法。が、それは、変化を縛っていないか?
紙かデジタルか? 技術革新かスクープか?
「読売はこのままでは持たんぞ」
2018年正月の読売賀詞交換会。いつも「経営は磐石」と太鼓判を押す渡邉恒雄がその年は違った。「紙の王国」に大きな危機が訪れていた。
分水嶺は2005年に訪れていた。
1995年には存在すらしていなかったヤフー・ジャパン。
そのヤフーは、読売からのニュース提供をうけて、月間224 億PVという巨大プラッットフォームに成長。
危機感を抱いた読売新聞の社長室次長山口寿一(後のグループ本社社長)は、ヤフーに対抗して新聞社が独自のプラットフォームを持つことを思いつく。
日経、朝日に声をかけ、ヤフー包囲網がしかれたかに見えたが・・・。
同じ時期、日本経済新聞社長の杉田亮毅は、無料サイトにみきりをつけ、電子有料版の準備をひそかに進めていた 。
序章 読売はこのままでは持たんぞ
二〇一八年正月の読売賀詞交換会。いつも「経営は磐石」と太鼓判を押す渡邉恒雄がその年は違った。遺言のようだ、と感じた社員もいた。紙の王国に大きな危機が訪れていた。
第一章 最初の異変
「新聞の切り抜きを使った授業はもうできないんです。新聞をとる家庭がもうないから」そう言われて北区で複数の読売の新聞専売店を経営する副田義隆は衝撃をうける。
第二章 中心のないネットワーク
後に「日本のインターネットの父」と呼ばれるようになる慶應義塾大学の村井純は、この技術が、産業のあらゆる分野で変革を起こすようになるとは夢にも思っていなかった。
第三章 青年は荒野をめざす
二〇一六年には読売、朝日、日経を全て足した売上よりも大きな売上をあげるようになるヤフー・ジャパンの設立は、九六年一月のことだった。旧メディアから若者たちが集まる。
第四章 読売を落とせ
激烈さをますポータルサイト同士の競争のなか、「ヨミウリ・オンライン」は喉から手がでるほどほしいコンテンツだった。遅れをとったヤフーの井上雅博はいらだつ。
第五章 ライントピックス訴訟一審
ハイパーリンクというインターネットの最大の発明を使って様々なビジネスが花開く。神戸の小さな会社が始めた「ライントピックス」というサービスもそのひとつだった。
第六章 戦う法務部
守るだけではなく、攻めなくてはだめだ。山口の信念のもと読売法務部は変わっていく。「ライントピックス」訴訟控訴審。グーグルの上陸で掛け金ははねあがる。
第七章 日経は出さない
各社が自社サイトやヤフーで紙面掲載のほぼ全てを見せているなか、日経だけは3割ルールをもうけて制限をしていた。このことがデジタル有料版への重要な布石になる。
第八章 真珠のネックレスのような
二〇〇五年は分水嶺の年だった。ヤフーの売上が一〇〇〇億円を突破し、警戒感を高めた新聞各社は、自分たちがポータルサイトを作ればということを考え始める。
第九章 朝日、日経、読売が連合する
後に「あらたにす」として結実することになる朝日、日経、読売の共通のポータルサイトの案は読売を出発点として、販売協力の話しから始まっている。三社の社長の駆け引き。
第一〇章 「あらたにす」敗れたり
包囲網をしかれたヤフー、必死の巻き返しが始まる。読売には強いメディア戦略局長が誕生。朝日の田仲、日経の長田に責められ、読売の山口は苦渋の立場におかれることになる。
第一一章 アンワイアード
インターネットは有線につながないと見ることができなかった。それを移動中でも見ることができるようになる技術が開発されようとしていた。村井純は大きな変化を予測する。
第一二章 イノベーションのジレンマを破る
「大企業は、技術革新によって生まれた新市場に出て行こうとしない」。ハーバード大の教授がとなえた「イノベーターのジレンマ」に読売は囚われ、日経はそれを破ろうとした。
第一三章 日経電子版創刊
「もうひとつの日経をつくる」。有料電子版の開発の責任者だった徳田潔はそれぐらいの難事業だと覚悟していた。いかにイノベーションのジレンマを破り、ゼロの市場にでていったか。
第一四章 内山斉退場
渡邉恒雄が自著で後継者の「本命」と太鼓判を押した内山斉に退場の日がやってくる。
ANYの協調路線が、ドンの拡大路線とあいいれなかったのか? 新しい世代の登場。
第一五章 「清武の乱」異聞
かつて読売には自由闊達に外の人間とつきあい、市井の人々の声を拾う社会部記者の系譜があった。その系譜につながる最後の記者が反乱を起こす。鎮圧の役を担ったのは山口だ。
第一六章 論難する相手を間違っている
無敵の読売グループ法務部に一矢むくいたのが週刊文春編集部の西崎伸彦を書き手とする取材班だった。西崎は、長い裁判闘争の中で、読売は論難する相手を間違えている、と考える。
第一七章 ニューヨーク・タイムズの衝撃
二〇〇八年日本を訪れたタイムズの調査報道記者が放った「新聞は死んでいる」の言葉から六年。社内有志の調査「イノベーション・レポート」が世界の新聞社に衝撃を与える。
第一八章 両腕の経営は可能か?
販売店網を維持しながら、デジタルを追及するということは可能だろうか。社長室長が推進した「読売タブレット」はまさにそのことを目指した。実証実験が始まる。
第一九章 スマホファースト
ヤフー・ジャパンもまたパソコンでの成功が、スマホへの対応を遅らせるという「イノベーターのジレンマ」に囚われていた。井上雅博が退陣、宮坂学が一気にスマホへ舵をきる。
第二〇章 ヤフー脱藩
トップページの寡占を利用しヤフーが広告収入の7割から9割をとるビジネスは将来いきずまる。ヤフーの中で、まったく新しいプラットフォーム構想を持つ男が現れる。
第二一章 ノアドット誕生
ヤフー・ニュースのビジネスモデルを根幹から変えようとする「セグンド」の事業はなるか? 脱藩した中瀨が、ヤフーに残った佐藤・高橋とともに、「ノアドット」をつくるまで。
第二二章 疲弊する新聞
新聞の部数が激減し、会費分担金収入が減った新聞協会で、異様な「急進的なる成果主義」が着手される。始末書をとり、降格をし、年収をダウンさせる。多くの職員が辞めていく。
第二三章 未来を子どもにかける
読売は本紙が一〇〇〇万部の大台をきった二〇一〇年、新らしい紙のメディアを創刊する。読売KODOMO新聞。未来の読者を育てるというその願いははたして届くだろうか。
第二四章 未来をデジタルにかける
かつて午前一時の降版の時間にむけて全社がまわっていた日経は、電子版の普及とともに変わった。午後一〇時には編集局にはほとんど人がいない。報道の中身も変わっていく。
第二五章 未来をデータにかける
ヤフーはまた大きく変わろうとしている。「メディア企業」から「データ企業」へその衣を脱ぎ捨てていく。宮坂学や奥村倫弘など草創期に参加したかつての若者はヤフーを去っていく。
終章 2050年のメディア
読売の山口が郵送してくれた一遍の論文。そこには、新聞の今後を考える意味で重要な示唆があった。新聞社の強固な防衛力となる日刊新聞法。が、それは、変化を縛っていないか?
- 本の長さ437ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2019/10/25
- 寸法13.9 x 2.7 x 19.5 cm
- ISBN-104163911170
- ISBN-13978-4163911175
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
読売、日経、ヤフー、インターネット後の地殻変動を描く。紙かデジタルか?技術革新かスクープか?慶應SFC、伝説の講座から生まれた一冊。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
下山/進
日本の新聞がこの10年で1000万部の部数を失っていることを知り、2018年4月より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として、講座『2050年のメディア』を立ち上げる。1986年早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1993年コロンビア大学ジャーナリズムスクール国際報道上級課程修了。上智大学文学部新聞学科非常勤講師も務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
日本の新聞がこの10年で1000万部の部数を失っていることを知り、2018年4月より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として、講座『2050年のメディア』を立ち上げる。1986年早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1993年コロンビア大学ジャーナリズムスクール国際報道上級課程修了。上智大学文学部新聞学科非常勤講師も務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2019/10/25)
- 発売日 : 2019/10/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 437ページ
- ISBN-10 : 4163911170
- ISBN-13 : 978-4163911175
- 寸法 : 13.9 x 2.7 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 37,138位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 11位新聞マスメディア
- - 23位メディアと社会
- - 62位ジャーナリズム (本)
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著者について
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2019年10月29日に日本でレビュー済み
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週末に一気読み。いやあ、滅茶苦茶面白い!
オビにもあるとおり、話の本筋は読売、日経、ヤフー・ジャパンの三者を中心にした、メディアの「プラットフォーム」を巡る争奪戦。ただ、著者はそれを、単にビジネスの話として無機質に描くのではなく、事業の担い手たちの感情と肉声といっしょに描き出すので、質の高いヒューマンドラマになっている。
この筆致は、仕事を始めたときの「初期設定」が週刊誌だった著者ならではと感じます。本を読むと、この20数年間にメディアが経てきた激変の輪郭が見えてきて、何度も本を持つ手が止まりました。
気づいたこと、考えたことはたくさんあるのですが、余裕がないのでここでは割愛。未読の方に言いたいのは一言、「読み始めたらやめられないので注意しろ」ということだけ。
何というか、私の大好きな東映ヤクザ映画にちょっと似てるんですよね、ストーリーが(笑)。
「シノギ」が厳しくなってそれまで敵対しあっていた日経と読売と朝日が手を組んで「あらたにす」を始めて見事に失敗するとか、ヤフーの中で新しいプラットフォームを考えた男が会社にそれを潰されそうになって「敵側」の共同通信に移籍するとか、締め付けの厳しすぎる組織に弓を引いて返り討ちに遭う「清武の乱」とか、出てくるエピソードがいちいちヤクザ映画っぽい。
しかも、著者の筆で描かれた登場人物たちも、みんな熱いこと熱いこと。読み進めている途中から、勝手に脳内配役が始まってしまいました。ナベツネさんは佐分利信(『日本の首領』なので)、ヤフーの宮坂社長は北大路欣也(若い時の)、読売の山口社長は成田三樹夫(親分の無茶をスマートに処理)、日経の社長たちはキャラ薄だけど重要なので脇役を演じる時の菅原文太と松方弘樹、清武さんが千葉真一(もちろん「広島死闘篇」の)といったところでしょうか。私の大好きな金子信夫タイプがいないなあと思ったのですが、パソコンで成功しすぎてスマホ対応に遅れたヤフーの井上社長に無理やり振ってしまいました(笑)。
それにしても、これだけ中身の濃い話を一気読みさせてしまう著者の筆力には脱帽です。テーマが重要だからといって「糞真面目な本」にしたら、誰も読んでくれませんからね。そこは文藝春秋でベストセラーを連発していた元編集者である著者の矜持を感じます。
オビにもあるとおり、話の本筋は読売、日経、ヤフー・ジャパンの三者を中心にした、メディアの「プラットフォーム」を巡る争奪戦。ただ、著者はそれを、単にビジネスの話として無機質に描くのではなく、事業の担い手たちの感情と肉声といっしょに描き出すので、質の高いヒューマンドラマになっている。
この筆致は、仕事を始めたときの「初期設定」が週刊誌だった著者ならではと感じます。本を読むと、この20数年間にメディアが経てきた激変の輪郭が見えてきて、何度も本を持つ手が止まりました。
気づいたこと、考えたことはたくさんあるのですが、余裕がないのでここでは割愛。未読の方に言いたいのは一言、「読み始めたらやめられないので注意しろ」ということだけ。
何というか、私の大好きな東映ヤクザ映画にちょっと似てるんですよね、ストーリーが(笑)。
「シノギ」が厳しくなってそれまで敵対しあっていた日経と読売と朝日が手を組んで「あらたにす」を始めて見事に失敗するとか、ヤフーの中で新しいプラットフォームを考えた男が会社にそれを潰されそうになって「敵側」の共同通信に移籍するとか、締め付けの厳しすぎる組織に弓を引いて返り討ちに遭う「清武の乱」とか、出てくるエピソードがいちいちヤクザ映画っぽい。
しかも、著者の筆で描かれた登場人物たちも、みんな熱いこと熱いこと。読み進めている途中から、勝手に脳内配役が始まってしまいました。ナベツネさんは佐分利信(『日本の首領』なので)、ヤフーの宮坂社長は北大路欣也(若い時の)、読売の山口社長は成田三樹夫(親分の無茶をスマートに処理)、日経の社長たちはキャラ薄だけど重要なので脇役を演じる時の菅原文太と松方弘樹、清武さんが千葉真一(もちろん「広島死闘篇」の)といったところでしょうか。私の大好きな金子信夫タイプがいないなあと思ったのですが、パソコンで成功しすぎてスマホ対応に遅れたヤフーの井上社長に無理やり振ってしまいました(笑)。
それにしても、これだけ中身の濃い話を一気読みさせてしまう著者の筆力には脱帽です。テーマが重要だからといって「糞真面目な本」にしたら、誰も読んでくれませんからね。そこは文藝春秋でベストセラーを連発していた元編集者である著者の矜持を感じます。
2019年10月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は、ネットが台頭した1990年代半ばから2019年までの新聞業界のオンライン化に対する動きを、初めてひとつの流れで語り通した画期的なノンフィクションです。ジャーナリズムとコンピュータと金融の攻防を描いた著者の前著『勝負の分かれ目』とあわせて読むと、より大きく一貫した潮流がみえてくるのでおすすめです。
同時に、いまやあらゆる業界がイノベーションによる変化を余儀なくされていることを踏まえると、<凋落からの脱出>を考えるための最適なケーススタディのひとつとして、メディア・ネット・広告関係者にとどまらず、より多くの人たちに示唆を与えてくれるはずです。
タイトルが「2050年のメディア」となっているため、2050年にメディアはこう変わる!といった未来予測本に思われるかもしれませんがそうした本ではありません。未来を知るためには歴史を学ぶことが不可欠なように、2050年のメディアを考えるために、変革の基点となった90年代半ばから現在までの動きを、読売・日経・共同通信とヤフー・ジャパンの現場担当者たちに取材をして得た証言をもとに再構築していく試みの一冊です。
にもかかわらずこのようなタイトルになっているのは、おそらく、本書がSFCでの講義をもとにつくられていることと関係しているのでしょう。本書をまとめることで、そこで描かれなかったこと、掘り下げられなかったこと、明らかにされなかったことなどを明確にし、今後大学生たちによる研究や取材によって、補い、膨らませ、かつここから始まる新たな章を書き継いでいってもらう。そのために著者から放たれた第一投として本書があるように読めました。
さらに、本書の登場によって、取材対象にならなかった当事者たちによる反論・反証の声があがり、違った流れが語られることもあるかもしれません。むしろそうした動きを喚起することで、より多くの人たちの参加を促しつつ、<メディアの未来>により多くの目が向くことを著者は企図しているようにも感じました。
分厚い一冊ですが、著者の文章はクセがなく気持ちよいまでに簡潔。それでいながらその語りには情報と情感がたっぷりと湛えられているので読み応えがあり、シーンの描き方やセリフの巧みさとあいまって、スルスルと一気に読み進めることができました。ノンフィクション好きだけでなく、経済小説や企業小説好きにも満足してもらえる、おすすめの一冊だと思います。
同時に、いまやあらゆる業界がイノベーションによる変化を余儀なくされていることを踏まえると、<凋落からの脱出>を考えるための最適なケーススタディのひとつとして、メディア・ネット・広告関係者にとどまらず、より多くの人たちに示唆を与えてくれるはずです。
タイトルが「2050年のメディア」となっているため、2050年にメディアはこう変わる!といった未来予測本に思われるかもしれませんがそうした本ではありません。未来を知るためには歴史を学ぶことが不可欠なように、2050年のメディアを考えるために、変革の基点となった90年代半ばから現在までの動きを、読売・日経・共同通信とヤフー・ジャパンの現場担当者たちに取材をして得た証言をもとに再構築していく試みの一冊です。
にもかかわらずこのようなタイトルになっているのは、おそらく、本書がSFCでの講義をもとにつくられていることと関係しているのでしょう。本書をまとめることで、そこで描かれなかったこと、掘り下げられなかったこと、明らかにされなかったことなどを明確にし、今後大学生たちによる研究や取材によって、補い、膨らませ、かつここから始まる新たな章を書き継いでいってもらう。そのために著者から放たれた第一投として本書があるように読めました。
さらに、本書の登場によって、取材対象にならなかった当事者たちによる反論・反証の声があがり、違った流れが語られることもあるかもしれません。むしろそうした動きを喚起することで、より多くの人たちの参加を促しつつ、<メディアの未来>により多くの目が向くことを著者は企図しているようにも感じました。
分厚い一冊ですが、著者の文章はクセがなく気持ちよいまでに簡潔。それでいながらその語りには情報と情感がたっぷりと湛えられているので読み応えがあり、シーンの描き方やセリフの巧みさとあいまって、スルスルと一気に読み進めることができました。ノンフィクション好きだけでなく、経済小説や企業小説好きにも満足してもらえる、おすすめの一冊だと思います。
2019年11月16日に日本でレビュー済み
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2050年のメディアというのは、著者が慶應SFCと上智大学で受け持っている講座名です。
文藝春秋社に32年間勤務した著者が、新聞業界、特に紙媒体を販売する業界の収益構造が、インターネットの出現により維持できなくなった経緯を、現場取材という形で綴ったノンフィクションです。
原著による過去32年間の事実から今後の32年を考えてみよう、という仕立てになっています。
今、ホットなYAHOOジャパンの成り立ちが既存体制との並行で描かれており、本書を手立てに将来に思いをはせるのも楽しいな、と感じました。
文藝春秋社に32年間勤務した著者が、新聞業界、特に紙媒体を販売する業界の収益構造が、インターネットの出現により維持できなくなった経緯を、現場取材という形で綴ったノンフィクションです。
原著による過去32年間の事実から今後の32年を考えてみよう、という仕立てになっています。
今、ホットなYAHOOジャパンの成り立ちが既存体制との並行で描かれており、本書を手立てに将来に思いをはせるのも楽しいな、と感じました。
2019年10月29日に日本でレビュー済み
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この手のメディア論は往々にして、海外の極端な例をあげて、そこから直接未来のありうべき姿を並べるだけのものになりがちだ。そこには日本の現状などが踏まえられておらず根拠が希薄だが、それでもそういう本が売れるのは、そういうものを読んでとりあえず心を落ち着かせたい、分かった気になりたい人が多いからだろう。
本書はその対極にある本で、ほとんどは過去の事実、それも勃興してくるネットメディア側ではなく、追い詰められていく新聞側の状況が書かれている点が異例だ。文中には激変するメディア界の空気がリアルに定着されている。
2017年秋、「紙の新聞の市場はこの先、急速に減っていく。その市場によりかかっている限り、読売新聞は、いずれいきづまる」という下山氏のまっとうな危機感に対し、読売新聞社員はこう答えている。
「しかし、今の時点で日経のようにデジタルに舵をきれば、紙の市場にも見放され急速な死が訪れるだけだ」
また、宮坂学氏と奥村倫弘氏が大変な矜持をもってヤフーを公共性のあるメディアとして運営していた場面も印象的だ。彼らは時代の変わり目にすでに退職。その奥村氏はヤフーでの最終講義で、こんなメッセージを残されたという。
「答えはネットの中にない。本の中にある」
この本はオピニオンよりも事実を大事にしている。したがって読後の印象や引っかかるところが読者によって異なるだろう。繰り返し参照しながら、来たるべきメディアの姿を含めてそれぞれの答えを見つけていける本だと思う。430ページ超で1800円(本体)。
本書はその対極にある本で、ほとんどは過去の事実、それも勃興してくるネットメディア側ではなく、追い詰められていく新聞側の状況が書かれている点が異例だ。文中には激変するメディア界の空気がリアルに定着されている。
2017年秋、「紙の新聞の市場はこの先、急速に減っていく。その市場によりかかっている限り、読売新聞は、いずれいきづまる」という下山氏のまっとうな危機感に対し、読売新聞社員はこう答えている。
「しかし、今の時点で日経のようにデジタルに舵をきれば、紙の市場にも見放され急速な死が訪れるだけだ」
また、宮坂学氏と奥村倫弘氏が大変な矜持をもってヤフーを公共性のあるメディアとして運営していた場面も印象的だ。彼らは時代の変わり目にすでに退職。その奥村氏はヤフーでの最終講義で、こんなメッセージを残されたという。
「答えはネットの中にない。本の中にある」
この本はオピニオンよりも事実を大事にしている。したがって読後の印象や引っかかるところが読者によって異なるだろう。繰り返し参照しながら、来たるべきメディアの姿を含めてそれぞれの答えを見つけていける本だと思う。430ページ超で1800円(本体)。