日本では長らく「日本の土地は絶対に下がらない」という土地神話をベースに、不動産すごろくというゲームが成り立っていた。最初社宅などの借家に入り、次にマンションを購入し、最後は郊外の庭付き一戸建てというアレだ。しかし、こうした不動産すごろくを可能にしていたのは、首都圏を中心とする大都市圏にとめどなく人口流入が続き、大都市圏での住宅に対する需給が圧倒的に売り手市場になっていたからこその話で、要するに需給が圧倒的に需要に対し供給不足だったからこそ、大都市圏の不動産の値段が吊り上っていた。それだけの話だったのである。この需給バランスが近々不可逆的に逆転する。日本は急速な少子高齢化時代に突入し、人口減少時代に突入する。2022年には団塊の世代が全員後期高齢者となり、あれだけ旺盛だった住宅需要は逆転し、住宅過剰時代に突入する。この時期を見透かしたように、大都市圏での生産緑地の税免除が解除され、営農放棄した生産緑地に宅地並み課税が実施される。そうなってはたまらないから、莫大な量の土地が更に売却され、土地価格は暴落するのではないか。そういう話なのである。
だったら「これからしばらくは不動産には手を出すな」が正しい選択に見えるのだが、本書には必ずしもそう書いてないところが、腑に落ちないところだ。さすが不動産屋の端くれがかいただけのことはある。著者によれば、最寄駅から五分以内。築5年~10年のナイスな不動産を購入し、賃貸に回せば、年利回り5%程度で回すことは十分可能だという。そうやって2億4千万円の不動産を運用する「鼻くそ部長」が本書に登場する。鼻くそ部長は不動産管理会社を設立し、法人経由で不動産を取得し家賃収入1200万円を得ているそうなのだが、なぜ間に会社をかますのか調べてみたら、謎が解けた。株式のような金融商品の場合は、いくら利益を出しても源泉分離課税なので税率は一律20%で、自分の給与所得との合算(損益通算)もないので問題ないのだが、不動産の場合、自分の給与所得と合算されて「総合課税」されるので、累進課税制度が適用され、税率が最高50%にまで跳ね上がる仕組みになっているのだ。だからサラリーマンが不動産投資をする場合は、儲かってもそうならないよう、法人を設立して法人経由で不動産投資をし、いくら不動産で利益が出ても損益通算されず、ただ法人税のみを納めるという、そういうスキームを作る必要があるというわけだ。ただし、会社設立に30万円ほどかかり、年間の税務申告で30万円くらいかかるので、タックスメリットを受けようと思ったら、それなりの規模が無いとあまりメリットがないし、そもそも退職したりして合算すべき給与所得が無くなれば、益々法人設立の意味がなくなると、まあこういう仕組みでもあるのだが。ただ、不動産には争族という意味では大きなメリットがあって、金融資産を相続する場合、金額丸々評価されるが、不動産の場合、評価が圧縮されるのである。これが賃貸に回されていたりすると、更に評価が圧縮され、それだけ相続税額が少なく計算される。だからこそ、これだけ人口減少が叫ばれているなか、いまだに日本では年間100万戸の住宅が建設され続けているのである。それでも人口が右肩上がりに増えているうちは、まだよかった。空家になっても、それは一時的で、やがては借り手が現れ、家賃を払ってくれるようになる可能性が高かった。これからの時代は違う。人口が減少するということは、不動産に対する需要が激減するということで、それは郊外から始まっている。苗場、越後湯沢や熱海のリゾートマンションでは備忘価格で売りに出されているものがごろごろあるし、千葉ニュータウンでも「原価割れ」としか思えないマンションの売れ残りが大量にある。それがだんだん中心部に攻め上ってきているのである。相続税対策と称して埼玉県川越市あたりでは畑の中に大量の貸家が建設されているが、もしこれらの大量の貸家にテナントがつかなかったら、ただ財産を散財しただけで、その意味では「節税」にはなるだろうが、負動産を相続する方はたまったものではないだろう。誰が何といおうとこれからの不動産は全体として大暴落に向かい、残ったマンションも厳しい選別の時代に入る。
ついでながら東京湾岸に大量に建設されたタワーマンションは、維持費に大量の資金が必要な不良物件揃いで、まさに「買ってはいけないマンション」なんだそうだ。なぜなら外壁の大規模修繕はゴンドラに頼らざるを得ないため高コストで、高速エレベーターの維持管理費はそれに負けず劣らず高コストで、更に全電源喪失に備えて設置されている発電機も交換に莫大な費用がかかり、免震タワーマンションの免震装置も交換時に莫大な費用がかかる。こんな高コストをだれがどうやって負担するのかという、そういうお話なのである。
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