アヤトピアのファーストアルバム。
テーマ、曲調、歌詞、いずれの点でも面白く特徴的のある曲が並んでいる。
アレンジも数人が担当し、飽きないつくり。
彼女の歌とアコースティックギターやウクレレをベースにしたサウンドは、
弱くも強くもなく、ゆるすぎず、力まず、少しおかしみもある。
一部の曲のアレンジにおいてもう少しこうしたほうがいい、と思わないでもないが、
それはたぶんによこしまなことだろう。
いまどきのヒット曲にありがちな、歌い手に不相応な誇張したサウンドの風潮とは無縁だ。
この「ちょうどよさ」はどこから来るのだろう。
アヤトピアはいわき市(浜通り)出身で、3.11を同市で経験したという(朝日新聞の記事より)。
私は、どの曲にもその経験が布一枚くらいの感じで底に敷かれているように感じる。
誇張なしの生成りのような存在感をもって、歌を紡いでいるかのようだ。
申し訳ないが、こういう空気感のアルバムは現在における商業的成功には遠いと思う。
しかし、一人ひとりの心に入り込む浜風のような自然さをもっている。
それだけではなく、よく聴くと彼女の歌には「毒」も含まれる。
楽曲とジャケットの絵がマッチしていないのは残念。
このアルバムで私が特に好きなのは「Oh! Monster」と「眠ラヌ姫」だ。
この2曲の切り替わりに感情的、あるいは感傷的ななにかを感じてしまう。
彼女が3.11以降に見て感じてきたものと、私の無意識の感情が交差する瞬間がそこにある。
アヤトピアはいま、房総半島に住んでいるという。
海のある場所から届いた、まだなにかが続いているという気づきを与えてくれるアルバムだ。