明らかに戦前の日本をモデルにして揶揄している内容ですね。特に問題だと追われるのは「天人」のモデルが〇〇であると見受けられるところ。直視すると目が潰れると言われたのは、日本には八百万の神々という、あらゆるものに神が宿るという考え方がありますので、ある高貴な方には大龍神が宿るとされ直視してはならないと言われました。
別にこれは昔の話でもなく、現在でも国会では平身低頭してお迎えいたしますし、映画に登場したりする際には、足元しか写さないというお約束があります。
他にも国難の際に死地に赴いた英雄と、醜悪な化け物に自ら食される狂人達を同一視するような描写があり、この辺は時代にそぐわない描写だと思います。人々のために命をかけることと、洗脳されて敵に自ら殺されに行くことは全く意味合いが違います。
ヒロインが「何のために死ぬか」が大切だと語るシーンがありますが、あれはまさに戦前の日本人の死生観です。仏教に基づく輪廻の価値観が色濃く出ていました。ただそれは、当然ですが「敵に喜んで殺されに行く」ような狂人を称賛するものではなく、寿命の長さだけが幸福ではない、何かをやり切って死んでいけるならば、ただ無為に長く生きるよりも幸福だ、と言う話です。
この作品の一番の問題点は、洗脳された人々を揶揄しているようで、主人公が実は洗脳されている、とも取れなくもない部分です。仮に「天人」がほんとうに下民のために尽くしているにも関わらず、主人公にはある時から本書のように世界が見えてしまう、、、のだとすれば恐ろしい話です。
努力していないから石を投げられて殺されるような話は言語同断ですが、努力して社会のために、人々のために尽くした人間が賞賛されるのもまた当然だと思います。比較されると、努力しなかった人々は石を投げられているような気分になるのを揶揄しているのでしょうが、社会においてかような一種の「厳しさ」は必要なんじゃないかと思います。
まあ、群集心理というものが時に恐ろしく暴走するのは確かにその通りですが、そういうものを描きたいのであればもっと別の、適切なモデルを採用すべきであったと思います。
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