これほど面白いアメリカ関連本はないのではないか、というほどの一冊。
食を通してみるとアメリカという国と歴史をさらに理解出来る。
ポップコーンはインディアン由来、バーベキューは黒人奴隷がインディアンから教わって生まれ、フライドチキンは黒人奴隷のスパイスを使った味付けと白人貧困層の揚げる手法の融合で生まれた。このように意外にも、アメリカを代表する食べ物は「非西洋の遺産」ともいえる。
世界史を学んだ方は、ボストン茶会事件はご存知だろうが、今日のアメリカでは、旧イギリス領であるが例外的に紅茶を飲む習慣がなく、リーフから淹れることがないため、高級レストランでもティーバッグが出てくるそうだ。
いまや世界的飲料であるコカコーラが拡まったのには、禁酒運動の高まりが起因しているようだ。競合のペプシ社の社名は、消化を助けるイメージとして胃の酵素ペプシンに由来するといい、当時の清涼飲料は薬でありアルコールの代用品の存在であったらしい。
また市民に浸透した背景には、アメリカはドラッグストアという薬と食品両方を扱う店舗が存在し、薬品と食品の境目が明瞭でなかった点があったというが、いまや我が国も至る所に同様のドラッグストアが林立している状況である。
最も興味深く読んだのは、ファーストフードについて書かれている箇所である。ファーストフードとは「収益を最大化しながら同時に消費者を密かに飼いならすという、経営者にとっては夢のような」ビジネスモデルだ。その筆頭マクドナルドは、アメリカ人の8人に1人が、生涯のうち1回は働いたことになるというから驚きのデータだ。なぜファーストフードが急成長を果たせたのかは、レーガノミックス以降の経済的変化で、「没落する中産階級や増大する貧困層という潜在的顧客が増加したところへ、より低コストを実現できる移民労働力が供給される事態が重なった」ことによるという。
ファーストフードの台頭に対抗すべく新たに生まれたビジネスモデルが宅配ピザだという。元々ピザはイタリア全土ではなくナポリ低所得層のストリートフードであり、スライスで売られ、トッピングも質素なマルゲリータやマリナーラだった。それがアメリカではペパロニなどの肉類をトッピングした豪華で丸ごと提供するスタイルへと変貌を遂げた。ピザが受け入れられた契機は、2つの世界大戦で米兵がヨーロッパ戦で本場イタリア料理に触れたかららしい。そして宅配ピザはまずは大学学生の集会用に需要があった、ここはハンバーガーのシェアがカバー出来ていないニッチだったようだ。
ファーストフードは、不法移民を牛解体業で働かせるなど含め、「格差社会の底辺の移民労働力によって支えられ、没落した中産階級以下の顧客から確実に収益を吸い上げることによって、格差社会から恩恵を得つつ、格差社会の搾取の構造の固定化に加担してきている」と記される。
ファーストフードに対する告発は「スーパーサイズミー」による健康被害がよく知られる。またファーストフード一辺倒に一石を投じたのは、フードコートであった。メニューの限られたファーストフードに比して、複数店舗が集まることでメニューの種類を増やすことができた。
さらに脱ファーストフードとしては、フードトラックいわゆるキッチンカーだ。
フランチャイズ展開ではないので調理人は、料理に独創的な工夫が出来、腕を奮うことが出来る。
またクラフトビールの興隆もある。今や4000を超えるマイクロブリュワリーが全米にあるという。
そしてファーマーズマーケット。近在農家が仲買を介さず露店で販売する定期市だ。
多民族国家であり、歴史的経緯で様々な地域・人種によってもたらされたアメリカの食。確かに実験的性質を帯びている。今後どのような変化を遂げるのだろうか?
1つ気になったのは、ファーストフードはもちろん、ドラッグストア、清涼飲料水、宅配ピザ、フードコート、キッチンカー、クラフトビール、ファーマーズマーケットは、いまや日本で定着しているものばかりである。
ゆえに、あらためて日本はアメリカの食をそのままコピーしたような側面があり、アメリカの食におけるあらゆる問題は、そのまま日本にも当てはまるということをまざまざと思い知らされたのが読後の印象であった。
この商品をお持ちですか?
マーケットプレイスに出品する
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません 。詳細はこちら
Kindle Cloud Readerを使い、ブラウザですぐに読むことができます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ (中公新書) 新書 – 2019/4/19
購入を強化する
先住インディアン、黒人奴隷、各国の移民らの食文化が融合したアメリカの食。そこからバーベキュー、フライドチキン、ハンバーガーなど独自の食文化が形成されたが、画一化されたファーストフードや肥満という問題をも引き起こした。そしていまアメリカではスシロールに代表される、ヘルシーとエスニックを掛け合わせた潮流が生まれ、食を基点に農業や地域社会の姿も変えようとしている。食から読む移民大国の歴史と現在。
- 本の長さ257ページ
- 言語日本語
- 出版社中央公論新社
- 発売日2019/4/19
- ISBN-104121025407
- ISBN-13978-4121025401
よく一緒に購入されている商品
この商品を見た後に買っているのは?
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
先住インディアン、黒人奴隷、各国の移民らの食文化が融合したアメリカの食。そこからバーベキュー、フライドチキン、ハンバーガーなど独自の食文化が形成されたが、画一化されたファーストフードや肥満という問題をも引き起こした。そしていまアメリカではスシロールをはじめとする、ヘルシーとエスニックを掛け合わせた潮流が生まれ、食を基点に農業や地域社会の姿が変わろうとしている。食から読む移民大国の歴史と現在。
著者について
鈴木透
1964年東京都生まれ。87年慶應義塾大学文学部卒業。92年同大学院文学研究科博士課程修了。現在慶應義塾大学法学部教授。専攻、アメリカ文化研究、現代アメリカ論。著書『現代アメリカを観る』(丸善ライブラリー、1998)、『実験国家アメリカの履歴書』(慶應義塾大学出版会、2003)、『性と暴力のアメリカ』(中公新書、2006)ほか
1964年東京都生まれ。87年慶應義塾大学文学部卒業。92年同大学院文学研究科博士課程修了。現在慶應義塾大学法学部教授。専攻、アメリカ文化研究、現代アメリカ論。著書『現代アメリカを観る』(丸善ライブラリー、1998)、『実験国家アメリカの履歴書』(慶應義塾大学出版会、2003)、『性と暴力のアメリカ』(中公新書、2006)ほか
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
鈴木/透
1964(昭和39)年東京都生まれ。87年慶應義塾大学文学部卒業、92年同大学院文学研究科博士課程修了。現在、慶應義塾大学法学部教授。専攻は、アメリカ文化研究、現代アメリカ論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1964(昭和39)年東京都生まれ。87年慶應義塾大学文学部卒業、92年同大学院文学研究科博士課程修了。現在、慶應義塾大学法学部教授。専攻は、アメリカ文化研究、現代アメリカ論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
Kindle化リクエスト
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社; 地域・文化版 (2019/4/19)
- 発売日 : 2019/4/19
- 言語 : 日本語
- 新書 : 257ページ
- ISBN-10 : 4121025407
- ISBN-13 : 978-4121025401
- Amazon 売れ筋ランキング: - 30,077位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 7位アメリカ・カナダ・オーストラリアの経済事情
- - 141位中公新書
- - 1,130位歴史・地理 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.0
星5つ中の4
38 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
ベスト1000レビュアー
Amazonで購入
47人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
ベスト1000レビュアーVINEメンバー
Amazonで購入
本屋でバラ積みとなっていることで本書を知り、衝動買いした。結論的に言うと、
実に面白い一冊となった。
本書で勉強になった点は食を記憶媒体として捉えるという視点である。言われて
見れば、食文化というものがある以上、各々の「食」には過去からの記憶の蓄積がある
ことは当たり前と言えば当たり前である。そこでの記憶とはどのようにして現在の
食文化が出来てきたのかという歴史であるわけだ。食文化の歴史自体は当然ながら
その民族や国民の歴史の一部を構成しているという指摘は明快であり、説得性がある。
著者はそんな「ものさし」を持って米国の食文化を分析していく。米国で辿ってきた
食の歴史が、そのままその時々の時代と歴史を背景にしていることが良く理解出来る。
そこから見えてくる米国とは「多文化・異文化の集合体」である。物事が集合
するに際しては暴力もあったろうが、寛容と融和があったことも確かだろう。著者
はそんな昔の米国に見られたであろう「寛容と融和」をやや懐かしんでいるようにも
見える。また、そんな歴史から現在の米国を照射しているとも読める。
それでは日本人の僕は本書から何を考えるべきなのか。これが本書を読む意義で
ある。
安易かもしれないが、日本人である僕としては「日本食」というものに隠された
記憶を考えるという作業が一番馴染むかもしれない。
僕は2017年来、三回目の海外生活を送っている。海外でいわゆる「日本食」が
人気になってきたことは肌感覚で理解できる。それは日本人としては嬉しいわけだが、
ではその「日本食」とは何なのかを自分として理解しているのか。覚束ない気もしてしまうとしたら
その日本食に秘められた「記憶」をきちんと整理できていないからだろう。卑近な例
でいうなら、「なぜ日本人は回転寿司を好んだのか」というような問いかけにも未だ
僕は答えを持っていない。
そんな「答えを持っていない」ことに気づかされたことが本書を読むという経験に
なった。実に面白いではないか。
実に面白い一冊となった。
本書で勉強になった点は食を記憶媒体として捉えるという視点である。言われて
見れば、食文化というものがある以上、各々の「食」には過去からの記憶の蓄積がある
ことは当たり前と言えば当たり前である。そこでの記憶とはどのようにして現在の
食文化が出来てきたのかという歴史であるわけだ。食文化の歴史自体は当然ながら
その民族や国民の歴史の一部を構成しているという指摘は明快であり、説得性がある。
著者はそんな「ものさし」を持って米国の食文化を分析していく。米国で辿ってきた
食の歴史が、そのままその時々の時代と歴史を背景にしていることが良く理解出来る。
そこから見えてくる米国とは「多文化・異文化の集合体」である。物事が集合
するに際しては暴力もあったろうが、寛容と融和があったことも確かだろう。著者
はそんな昔の米国に見られたであろう「寛容と融和」をやや懐かしんでいるようにも
見える。また、そんな歴史から現在の米国を照射しているとも読める。
それでは日本人の僕は本書から何を考えるべきなのか。これが本書を読む意義で
ある。
安易かもしれないが、日本人である僕としては「日本食」というものに隠された
記憶を考えるという作業が一番馴染むかもしれない。
僕は2017年来、三回目の海外生活を送っている。海外でいわゆる「日本食」が
人気になってきたことは肌感覚で理解できる。それは日本人としては嬉しいわけだが、
ではその「日本食」とは何なのかを自分として理解しているのか。覚束ない気もしてしまうとしたら
その日本食に秘められた「記憶」をきちんと整理できていないからだろう。卑近な例
でいうなら、「なぜ日本人は回転寿司を好んだのか」というような問いかけにも未だ
僕は答えを持っていない。
そんな「答えを持っていない」ことに気づかされたことが本書を読むという経験に
なった。実に面白いではないか。
VINEメンバー
本書はアメリカの食文化史をテーマにしており、その多文化的なルーツとともに、多彩な食文化を持っていたアメリカでなぜファーストフードが席巻するようになったのか、そしてそのファーストフードへの反攻がアメリカ国内で徐々に起き始めている事などを解説しています。
日本ではとかくアメリカの食生活の不健全ぶりや、あるいはビーガンなどをとても不自然とみなす風潮がありますが、
それらに対する、「なぜこうなのか」を理解することにより、誤解が解ける内容となっています。
また、食文化に留まることなく、食文化の変化が政治に与える影響についても著者の考えが述べられており、その点、真偽はともかく興味深い物でした。
何より、口絵で紹介されていた知らなかったアメリカ料理が興味深く、どの様な味をしているのだろうか?と関心を掻き立ててくれました。
食は多くの人の関心を引き寄せますが、その食を通してアメリカを知る。
それが出来る、面白い一冊です。
日本ではとかくアメリカの食生活の不健全ぶりや、あるいはビーガンなどをとても不自然とみなす風潮がありますが、
それらに対する、「なぜこうなのか」を理解することにより、誤解が解ける内容となっています。
また、食文化に留まることなく、食文化の変化が政治に与える影響についても著者の考えが述べられており、その点、真偽はともかく興味深い物でした。
何より、口絵で紹介されていた知らなかったアメリカ料理が興味深く、どの様な味をしているのだろうか?と関心を掻き立ててくれました。
食は多くの人の関心を引き寄せますが、その食を通してアメリカを知る。
それが出来る、面白い一冊です。
2020年1月4日に日本でレビュー済み
大変面白かったです。
アメリカの食がファーストフードだけでないことがよくわかりました。アメリカの食文化には、異文化混交性と合理性が基本にありハンバーガーなどのファーストフードもその文脈でとらえられると思います。アメリカの食は、各人種、各民族の混交。伝統社会を経ない急速な工業化、戦争、禁酒法、新移民、人種対立、自動車の普及、公民権法、郊外への中産階級の移動、ヒッピーたちによるカウンターカルチャー、失業、ドラッグ、貧富の差拡大、不法移民などさまざまな影響を受けながら今も変化し続けていることがよくわかりました。
そして、いま社会の二極化により、片やファーストフード漬けの食生活、一方では有機栽培、ビーガン、CSAなどコストはかかっても健康と安全な食を求めるという食における二極化が起きていることを知りました。
これは以前読んだ「『スポーツ国家アメリカ』に通じるものがあるな」と思っていたら、同じ著者のものでした。またアメリカの食文化はアメリカ音楽に通じるところもあるようにも思いました。これについては、『はじめてのアメリカ音楽史 』(ちくま新書 ジェームス・M・バーダマン、 里中 哲彦、 2018/12/6)を一読されることをお勧めいたします。
追記)先月のアメリカ大統領選の直前、新聞にトランプ候補の好きな食べ物が「ハンバーガー、ピザ、コーラ」とされていました。選挙を見越して大衆性をアピールしたものとは思いますが、苦笑を禁じえませんでした。
アメリカの食がファーストフードだけでないことがよくわかりました。アメリカの食文化には、異文化混交性と合理性が基本にありハンバーガーなどのファーストフードもその文脈でとらえられると思います。アメリカの食は、各人種、各民族の混交。伝統社会を経ない急速な工業化、戦争、禁酒法、新移民、人種対立、自動車の普及、公民権法、郊外への中産階級の移動、ヒッピーたちによるカウンターカルチャー、失業、ドラッグ、貧富の差拡大、不法移民などさまざまな影響を受けながら今も変化し続けていることがよくわかりました。
そして、いま社会の二極化により、片やファーストフード漬けの食生活、一方では有機栽培、ビーガン、CSAなどコストはかかっても健康と安全な食を求めるという食における二極化が起きていることを知りました。
これは以前読んだ「『スポーツ国家アメリカ』に通じるものがあるな」と思っていたら、同じ著者のものでした。またアメリカの食文化はアメリカ音楽に通じるところもあるようにも思いました。これについては、『はじめてのアメリカ音楽史 』(ちくま新書 ジェームス・M・バーダマン、 里中 哲彦、 2018/12/6)を一読されることをお勧めいたします。
追記)先月のアメリカ大統領選の直前、新聞にトランプ候補の好きな食べ物が「ハンバーガー、ピザ、コーラ」とされていました。選挙を見越して大衆性をアピールしたものとは思いますが、苦笑を禁じえませんでした。






