昭和51年7月、「SFマガジン」掲載の「夢の棲む街」で衝撃を受けて以来の
ファンを自認していましたが、うかつにも本書が刊行されたことに1年ほど
も気がつきませんでした。まあ、山尾悠子という作家は寡作の人ですからね
(と言い訳をしてみる)。
初めて山尾悠子作品を読まれる方に紹介するとすれば...
ジャンルとしては一応ファンタジー小説だと思いますが、ライトノベルとか
深夜アニメとかでよくあるような「剣と魔法の冒険物語」みたいなものでは
ありません。そういった内容を期待された方は、たぶんガッカリするでしょう
ね。
作品の多くで、普通の小説で言うところの「主人公」が登場しない、という
ところが、特徴のひとつだと思います。もちろん登場人物はいますし、いちばん
良く出てくる人物を主人公とみなせないこともないですが、この作家の場合、
その人について描くことが主題ではないように思えます。
では何が主題かと言えば、「描写される世界そのもの」です。登場人物も、
その世界の案内人、あるいは舞台装置の一部として描かれます(重要ではない、
とまでは言いませんが)。
もうひとつ特徴を挙げるとすれば、その世界のカタストロフを描く作品が多い
ところでしょうか。幼い子供に大量の積み木を与えると、たいていの子供が、
まず自分のまわりに壁を作り、最後にそれを壊す、ということをやるそうです。
そういった、人間の根源的なところにあるようなカタルシスの表現が、山尾悠子
作品の魅力だと思います。
本書についてですが、「飛ぶ孔雀」という雑誌掲載の作品と、「不燃性につい
て」という書き下ろし作品からなります。一応、同じ世界を描写した続き物とし
て読めますが、独立した作品としても読めます。
「飛ぶ孔雀」は、京都をモチーフとした世界を描いていて、茶道や和装の用語
がたくさん出てきます。そういった方面にはまったく詳しくないので、辞書や
ネットで調べながら読みました。ネットで調べると、写真も出てくるのでわかり
やすいですね(「灰形」とか)。用語を調べながら読むのはめんどくさいと思う
人もいるでしょうけど、私はそういった読み方も読書の楽しみ方だと思っていま
す。前述のとおり世界の描写が主題なので、ディテールまで味わうということを
しないと勿体ないですね。
「不燃性について」では、お待ちかね、カタストロフが描かれます。あまり
詳しく書くとネタバレになるので書きませんが、やっぱりこれがないとね。
早く次の作品が読みたいな..と思ったら「小鳥たち」が出てました。
また出遅れた~~。
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