肩の力が抜けて、主人公で語り手の芽衣が5歳年下の音生(ねお)に翻弄されるように、私もこの作品のいいなりになって、引っ張られて、ははは~と、気のぬけた笑いをもらして読み終わりました。
途中までは、音生の奔放というか勝手気儘さに、なんやこの子は~!と、腹たててましたが、気づけばそれは、惹かれていってしまってる・・・と言い換えられることになります。黙って座れば人だかりができてしまうほどの、美貌の持ち主・音生は、くるくると頭もよく働けば、口も達者。悪口雑言の限りを尽くし、嫌悪や不満をバンバン言いまくる、美しい女の子。会社を辞めた芽衣を誘って(むちゃくちゃ強引に)、トルコへ、四国へ、沖縄へと、ふらふら現実逃避っぽい旅をします。途中で、音生が自己のキャラクターを、苦労した母からの薫陶により形成したことを告白する件りがあるまでは、理解に苦しみました。
主人公の私・葉山芽衣は、面食いで優柔不断で、僻みっぽい26歳として描かれていて、それはないだろう・・・というほど情けない人物に仕立てられているのですが、私は、芽衣がトルコの夕陽や、永井くんを頼って行った四国の山中の景色や闇の描写や、沖縄の海の色、等々をこうしか言い様がないだろうという感じで表現する、その心の言葉に、結構感動させられました。当然、風景だけを語っているわけではなく、揺れる気持ちにかぶさるように描かれるそれらが、日常や現実を一時捨てている、今の頼りなさを浮き上がらせているからです。音生と二人の、ふらふら旅行・・・行きつく先はわからないまま、話は終わってしまいます。多分二人とも、居るべき場所に戻らない限り、何もつかめないし、始まらないことは重々承知。でも、その居るべき場所が、そもそもない、という、不思議な事態に陥ってしまっているのも、重々承知。
イヤでも、いつか戻っておいでよね、そんな気持ちで本を閉じました。
青空感傷ツアー (河出文庫) (日本語) 文庫 – 2005/11/1
柴崎 友香
(著)
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本の長さ174ページ
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言語日本語
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出版社河出書房新社
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発売日2005/11/1
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ISBN-104309407668
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ISBN-13978-4309407661
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
超美人でゴーマンな女ともだち音生と、彼女に言いなりな私。音生にひきずられるように、大阪→トルコ→四国→石垣島と続く、女二人の凸凹感傷旅行はどこへ行く?抱腹絶倒、やがてせつない旅の空。映画「きょうのできごと」原作者による、各紙誌で絶賛された、ウルトラ・キュートな話題作。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
柴崎/友香
1973年、大阪府生まれ。行定勲監督によって映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1973年、大阪府生まれ。行定勲監督によって映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2005/11/1)
- 発売日 : 2005/11/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 174ページ
- ISBN-10 : 4309407668
- ISBN-13 : 978-4309407661
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 974,018位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 208位芥川賞受賞(150回-)作家の本
- - 2,791位河出文庫
- - 28,583位日本文学
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2006年8月4日に日本でレビュー済み
まず、文章は手放しで褒めましょう。江国香織系というか、とにかくまったりとしていて、読んでいて非常に心地がいい文章で、もうとにかくうますぎる。
微妙な感情の表し方と、目が覚めるような風景描写、主人公がときどきぽつんともらす何気ない心理、関西弁の会話、すべての要素が怖いくらいに綺麗に統率されていて、この人の作品を彩っている。
たしかね、『音生』というキャラクタは最初むかつくのだが、読んでいるうちになれるというか、しだいにそのうざさが消えていく。たとえば、こんな描写。
「永井くんに会いに行こう」
それは、自分がものすごくいいことを思いついたので絶対に褒められるはずだと思っているような笑顔だった。
前後の文脈がわからないので、このシーンのすごさがわからないと思うけれど、ぜひ自分で手に取って読んでほしい。これはね、もう反則です。とにかく、『小説』が好きな人すべてにおすすめ。
微妙な感情の表し方と、目が覚めるような風景描写、主人公がときどきぽつんともらす何気ない心理、関西弁の会話、すべての要素が怖いくらいに綺麗に統率されていて、この人の作品を彩っている。
たしかね、『音生』というキャラクタは最初むかつくのだが、読んでいるうちになれるというか、しだいにそのうざさが消えていく。たとえば、こんな描写。
「永井くんに会いに行こう」
それは、自分がものすごくいいことを思いついたので絶対に褒められるはずだと思っているような笑顔だった。
前後の文脈がわからないので、このシーンのすごさがわからないと思うけれど、ぜひ自分で手に取って読んでほしい。これはね、もう反則です。とにかく、『小説』が好きな人すべてにおすすめ。
2005年6月10日に日本でレビュー済み
失業中で面食いで僻みっぽくて優柔不断な主人公・芽衣。
芽衣に“自分が接している世界にこんなきれいな子が実際にいることに感動した”と言わしめた究極の美女・音生。
失業女(芽衣)と失恋女(音生)の傷心旅行物語。
ちょっとした友人に過ぎなかった二人が3年ぶりに再会し、
音生に振り回される形でトルコ・四国・沖縄と旅をするのなかで、
二人が次第に親友になっていく過程を描いています。
誰もがふりむく美人で、わがままに思えるほどに素直な音生。
一見、同性に嫌われそうなタイプですがいつしか音生にたまらなくひかれている自分に気づきました。
しかし、音生・・・
このキャラクターだけに頼っている作品なんですよね。
正直、話の流れとしては面白いものではなく、
読者も芽衣と一緒に音生に振り回される・・・それが心地よいだけ?
読後に何も残っていない。
まさに「音生ありき」な作品。
芽衣に“自分が接している世界にこんなきれいな子が実際にいることに感動した”と言わしめた究極の美女・音生。
失業女(芽衣)と失恋女(音生)の傷心旅行物語。
ちょっとした友人に過ぎなかった二人が3年ぶりに再会し、
音生に振り回される形でトルコ・四国・沖縄と旅をするのなかで、
二人が次第に親友になっていく過程を描いています。
誰もがふりむく美人で、わがままに思えるほどに素直な音生。
一見、同性に嫌われそうなタイプですがいつしか音生にたまらなくひかれている自分に気づきました。
しかし、音生・・・
このキャラクターだけに頼っている作品なんですよね。
正直、話の流れとしては面白いものではなく、
読者も芽衣と一緒に音生に振り回される・・・それが心地よいだけ?
読後に何も残っていない。
まさに「音生ありき」な作品。
2004年10月8日に日本でレビュー済み
美人で我侭でバイオレンスな音生。男女問わず「こんな女いやだ~!」って思ってしまいそうだけど、じっくり読んでみると音生って女の子の理想かも。完璧な容姿、我侭に思えるほどの素直さ、自由奔放な思考と行動力。これまでの “キレイな女”の類には存在しない強烈なキャラクターに、気づいたらハマッてる…。一方、優柔不断でお人好し、だけど男の理想は高い主人公、芽衣。“どこにでもいる普通の女”だけに共感できる部分も多いけど、ちょっとイライラしてしまいそう。そんな気持ちを読者に代わって音生がバッサリ斬ってしまうのも爽快。そして、斬られたままじゃ納得いかずに反撃する芽衣。長い旅を通して、ただの友達から親友に発展するストーリーは、ケンカして殴り合った末に芽生える男の友情のような…。女二人の傷心旅行『青空感傷ツアー』は失恋した時に読むと、きっと元気になれる一冊。
2004年10月8日に日本でレビュー済み
美人で我侭でバイオレンスな音生。男女問わず「こんな女いやだ~!」って思ってしまいそうだけど、じっくり読んでみると音生って女の子の理想かも。完璧な容姿、我侭に思えるほどの素直さ、自由奔放な思考と行動力。これまでの “キレイな女”の類には存在しない強烈なキャラクターに、気づいたらハマッてる…。一方、優柔不断でお人好し、だけど男の理想は高い主人公、芽衣。“どこにでもいる普通の女”だけに共感できる部分も多いけど、ちょっとイライラしてしまいそう。そんな気持ちを読者に代わって音生がバッサリ斬ってしまうのも爽快。そして、斬られたままじゃ納得いかずに反撃する芽衣。長い旅を通して、ただの友達から親友に発展するストーリーは、ケンカして殴り合った末に芽生える男の友情のような…。女二人の傷心旅行『青空感傷ツアー』は失恋した時に読むと、きっと元気になれる一冊。
2004年4月2日に日本でレビュー済み
保坂和志が帯に推薦文を寄せている。「…作者は、普通の意味では、人間のこともこの世界のことも信じていない。しかしそれは「信じる」という行為に「甘える」という不純な心情が混じり込んでいるから、そう見えるだけで、この作者こそ、本当の意味で、人間やこの世界を、信じて、肯定している。」
これにひかれて購入したが、がっかり、である。残念ながらそのように感じることはできなかった。読み終わっても、で?それで? と私は思った。
この物語を最後まで読み進めることが出来たのは、音生(ねお)とい傍若無人キャラゆえである。関西弁で罵詈雑言を吐き出す彼女の魅力的なこと! 口先だけのふがいない主人公も登場する男の子たちも、ほとんど彼女の言いなり。爽快である。しかし、爽快なだけ。罵詈雑言を吐くにしても、悪口を言うには技術が要求されることはいうまでもない。爽快なだけでは足りない。
音生というキャラひとりで成り立っているような小説だから、それをのぞくと特に見どころはない。主人公のあり方はある意味では現代的なのかもしれないし、自分の一部を投影させることもできるかもしれない。でも、この主人公は最後まで「物語の語り手」以上の役割を果たしていないように思えるので、この主人公についてははっきり言って感想なし。結局この主人公は「世界」=「自分の思いどおりにならない社会」に迎合するのだろう。音生に対してそうしているように。
最後に装丁について。きれいな空を鈍い金色の花模様が覆う。この鈍い金色部分の先の見えない閉塞感・不安感は、なかなか内容にあっていてナイスではないだろうか。
これにひかれて購入したが、がっかり、である。残念ながらそのように感じることはできなかった。読み終わっても、で?それで? と私は思った。
この物語を最後まで読み進めることが出来たのは、音生(ねお)とい傍若無人キャラゆえである。関西弁で罵詈雑言を吐き出す彼女の魅力的なこと! 口先だけのふがいない主人公も登場する男の子たちも、ほとんど彼女の言いなり。爽快である。しかし、爽快なだけ。罵詈雑言を吐くにしても、悪口を言うには技術が要求されることはいうまでもない。爽快なだけでは足りない。
音生というキャラひとりで成り立っているような小説だから、それをのぞくと特に見どころはない。主人公のあり方はある意味では現代的なのかもしれないし、自分の一部を投影させることもできるかもしれない。でも、この主人公は最後まで「物語の語り手」以上の役割を果たしていないように思えるので、この主人公についてははっきり言って感想なし。結局この主人公は「世界」=「自分の思いどおりにならない社会」に迎合するのだろう。音生に対してそうしているように。
最後に装丁について。きれいな空を鈍い金色の花模様が覆う。この鈍い金色部分の先の見えない閉塞感・不安感は、なかなか内容にあっていてナイスではないだろうか。