TVドキュメンタリーをベースに執筆された単行本の刊行が1992年、2001年に文庫化、2014年に再文庫化された書。水俣病に関する裁判所の和解勧告を政府が拒否し続けるさなかの1990年に自死した環境庁№3の官僚の生と死を描く。財務省の決裁文書改ざんを苦に自殺した赤木氏のことを考えながら読む。
「この著作を社会派ノンフィクションというワクから良くも悪くも踏み外させている(pp.8-9)」のは「テーマやメッセージといった言葉で作品を語ったり、語られたりすることは……人間そのものの描写が弱いからにほかならない(p.9)」と著者が考えているからだという。「良心的な人間」対「冷徹な/打算的な官僚機構」という図式に話を納めたくなかったということなのだろう。
まさにそこに本作への好き嫌いが関わる。私としては、「『公共』に開かれた福祉を巡る部分(p.7)」がより浮き出す作品かと思っていたので、いささか物足りなかった。むろん、そうは言っても、水俣病をめぐる政府(特に通産省)、政治家、財界や「御用学者」、さらにはマスコミへの著者の書きぶりは厳しいものなのだが。作品への好みの問題だ。
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雲は答えなかった 高級官僚 その生と死 (PHP文庫) 文庫 – 2014/3/5
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『そして父になる』の是枝裕和監督、その原点となる傑作ノンフィクション!
本書は、世界的に評価される是枝裕和監督自ら、“原点"と位置付ける記念碑的作品である。初のディレクター作品となったドキュメンタリー番組『しかし…福祉切り捨ての時代に』(1991年)の放送後、取材を重ねて29歳で執筆したノンフィクションで、題材はある高級官僚の生と死。水俣病訴訟を担当し、1990年に自ら命を絶った官僚・山内豊徳の歩みを丹念に辿り、「人はいかに時代と向き合うべきか」を問うた普遍的な作品となっている。映画作家・想田和弘監督はこう評す。
“読後感は、上質な小説か劇映画のそれに似ていて、(中略)是枝の手による「山内豊徳」像は、フィクションとノンフィクションの区別を越えた「表現」に昇華されている"
刊行から22年――。是枝監督の“原点"はいま、何を問いかけるのか。
本書は1992年刊行の『しかし…』を改題し、2001年刊行の『官僚はなぜ死を選んだのか』をもとに加筆・修正したもので、今回の出版に際しては、是枝監督による「刊行にあたって」、想田和弘監督による「解説」を新たに収録。すでに読まれた方にも、再読を勧めたい。
本書は、世界的に評価される是枝裕和監督自ら、“原点"と位置付ける記念碑的作品である。初のディレクター作品となったドキュメンタリー番組『しかし…福祉切り捨ての時代に』(1991年)の放送後、取材を重ねて29歳で執筆したノンフィクションで、題材はある高級官僚の生と死。水俣病訴訟を担当し、1990年に自ら命を絶った官僚・山内豊徳の歩みを丹念に辿り、「人はいかに時代と向き合うべきか」を問うた普遍的な作品となっている。映画作家・想田和弘監督はこう評す。
“読後感は、上質な小説か劇映画のそれに似ていて、(中略)是枝の手による「山内豊徳」像は、フィクションとノンフィクションの区別を越えた「表現」に昇華されている"
刊行から22年――。是枝監督の“原点"はいま、何を問いかけるのか。
本書は1992年刊行の『しかし…』を改題し、2001年刊行の『官僚はなぜ死を選んだのか』をもとに加筆・修正したもので、今回の出版に際しては、是枝監督による「刊行にあたって」、想田和弘監督による「解説」を新たに収録。すでに読まれた方にも、再読を勧めたい。
- 本の長さ308ページ
- 言語日本語
- 出版社PHP研究所
- 発売日2014/3/5
- 寸法10.8 x 1.3 x 15 cm
- ISBN-104569761550
- ISBN-13978-4569761558
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商品の説明
出版社からのコメント
刊行にあたって
序章 遺書
1章 記憶
2章 救済
3章 電話
4章 後姿
5章 代償
6章 誤算
7章 食卓
8章 不在
9章 帰宅
10章 結論
11章 忘却
12章 再会
あとがき(単行本)
出典・参考文献一覧/山内豊徳年譜
文庫版のためのあとがき
解説―共振する「しかし」 想田和弘
序章 遺書
1章 記憶
2章 救済
3章 電話
4章 後姿
5章 代償
6章 誤算
7章 食卓
8章 不在
9章 帰宅
10章 結論
11章 忘却
12章 再会
あとがき(単行本)
出典・参考文献一覧/山内豊徳年譜
文庫版のためのあとがき
解説―共振する「しかし」 想田和弘
内容(「BOOK」データベースより)
自身の良心と、職責との板挟みの末の悲劇…。1990年、水俣病訴訟を担当する官僚の自殺はそう報じられた。だが妻の証言、彼の歩みを辿るうち、見えざる側面が浮かび上がってきた。なぜ彼は、詩に「しかし」の言葉を刻み、「雲は答えなかった」との結論に至ったのか。その生と死は何を問いかけるのか。若き日の是枝裕和監督が描いた渾身のノンフィクション。
著者について
是枝裕和(これえだ ひろかず)
映画監督、テレビディレクター。1962年東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。
95年、初監督映画『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞受賞。2004年、『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)受賞。
その他の監督作品に、『ワンダフルライフ』(98)、『花よりもなほ』(06)、『歩いても 歩いても』(08)、『空気人形』(09)、『奇跡』(11)などがある。12年、初の連続ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(関西テレビ・フジテレビ系)で全話脚本・演出・編集を手掛ける。
13年公開の福山雅治主演『そして父になる』は、第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞し話題となる。
映画監督、テレビディレクター。1962年東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。
95年、初監督映画『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞受賞。2004年、『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)受賞。
その他の監督作品に、『ワンダフルライフ』(98)、『花よりもなほ』(06)、『歩いても 歩いても』(08)、『空気人形』(09)、『奇跡』(11)などがある。12年、初の連続ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(関西テレビ・フジテレビ系)で全話脚本・演出・編集を手掛ける。
13年公開の福山雅治主演『そして父になる』は、第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞し話題となる。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
是枝/裕和
映画監督、テレビディレクター。1962年、東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。95年、初監督映画『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞受賞。2004年、『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)受賞。13年公開の福山雅治主演『そして父になる』は、第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞し話題となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
映画監督、テレビディレクター。1962年、東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。95年、初監督映画『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞受賞。2004年、『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)受賞。13年公開の福山雅治主演『そして父になる』は、第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞し話題となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : PHP研究所 (2014/3/5)
- 発売日 : 2014/3/5
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 308ページ
- ISBN-10 : 4569761550
- ISBN-13 : 978-4569761558
- 寸法 : 10.8 x 1.3 x 15 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 76,239位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 4位事故関連
- - 13位労働問題ノンフィクション
- - 99位刑法・訴訟法
- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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2019年10月17日に日本でレビュー済み
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精神論を前提とした職業が今も日本社会には根深く息づいていると思います。確かな技術の向上がおざなりにされて、非効率だけどがんばっていることが評価されたり。自分も無意識にその思考回路に馴染んでいることに気がつき、背筋がひやっとしました。福祉の現場で加害者とも被害者ともつかない状況で言い訳に甘んじずに葛藤する山内さん、メディアとして白黒の構図に頼らずに表現しようとる是枝さんを尊敬します。戦後の福祉の変遷も垣間見ることができました。
2014年3月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この著作は、過去に1992年、2001年と発刊されたものを部分的に修正し想田監督の書評を加えて復刻されたものです。
1990年12月に自死した、環境庁(当時)ナンバー2の高級官僚、山内豊徳氏の人生を振り返りながら、戦後の日本における官僚制の歩み、水俣病をはじめとする公害問題についての国家の立場と産業界の思惑やその決着点、環境庁の設立などの昭和史を、筆者が噛みしめるように確認していく。特に、山内個人の学生時代や妻である知子氏の振返りなど、小説家志望でもありペーソスや独特のユーモアすら感じさせる山内氏が、なぜ自死せねばならなかったのかというヒューマンドキュメント的なミクロな視点から、戦後日本の行政組織、しかもそのトップである高級官僚が突きつけられる非人間的ともいえる社会機構上の冷徹なルールとそのもとで従事する人々の怜悧さを描くマクロな視点、両面の振動から、単純な犯人捜し的な図式から零れ落ちるもの、あるいは疑問点に拘り続ける13章。
私が最初に是枝さんの作品に触れたのも、ドキュメンタリー番組でした。公共放送の企画で、確か事故によって事故後の新しい記憶がとどめられない記憶障害の人とその家族を追ったものだったように記憶します。記録を見ると、たぶん「記憶が失われた時…~ある家族の2年半の記録~」という番組だったのかもしれません。ただ番組の内容はかなり鮮明に覚えていたので、後になって、2004年に「誰も知らない」というカンヌ受賞作の映画の監督であるという、その時になってまたドキュメント番組の記憶がよみがえった、そんなことがありました。「誰も知らない」では、事情により親や社会から置き去りにされた子どもたちが出てきますし、記憶障害の番組でも、医療保険制度や様々な社会の仕組みから、その存在や辛さの認知すらも、置き去りにされた人々にスポットライトがあてられていました。今回のこの著作でも、生きざまに迫っていく山内豊徳氏も、高級官僚という身分とは裏腹に置き去りにされてしまった人なのかもしれない、そんなことを思った次第。
官僚といえば、9~5時(朝9時から朝の5時)とまで言われるハードな官僚の生活面や、どのような官僚内のルールにのっとって行動しているのか、あるいは政治家と異なるのか、詳細な取材で分かりやすく解説してくれています。それと同時に、こういった組織機構がある以上、大きな変化というのは起こり得るのかどうか…本書の最後の解説で、映画監督の想田さんは、「フクシマ」のことに触れて、政治家と官僚のやり取りは、水俣病以来進歩していると言い難いんじゃないかと、いうメッセージを込めて書かれていますが、私も少し似たようなことを感じました。それと、官僚自体は、数年前から人数も増えていて変化しているとは言うんですが、どの部分が変化してどの部分が変化していないのか、改めて思いました。
見どころを三つ:
一つ目は、日本の戦後福祉行政の歩みが非常にわかりやすく説明されている点。また公害が当初、厚生省(現厚生労働省)の管轄であり、経済成長という時代の要請がいかに国策に影響を与えてきたか、昭和史の一面を分かりやすく辿ってくれているところ。
二つ目は、日本における高級官僚が、どのようなルールにのっとって仕事をしているのか、またどういう人事を妥当として行ってきたか、戦後日本の官僚という組織の「設定」をクリアにしているところ。
三つ目は、やはり山内豊徳という人の生き様と妻の知子さんのやり取りでしょうか。新婚旅行の最中に官庁から呼び出されたり、結婚のきっかけとなった見合いの席ではほとんど言葉を交わすことでなかったり、そういった山内氏の不器用さや、埼玉県庁出向時に見せた現場職員との信頼関係であったり、非常に魅力的な人材が、なぜ自死していったのか、短い冊子であるのに、単純な「図式」に収まらないスケールを感じる一冊です。
1990年12月に自死した、環境庁(当時)ナンバー2の高級官僚、山内豊徳氏の人生を振り返りながら、戦後の日本における官僚制の歩み、水俣病をはじめとする公害問題についての国家の立場と産業界の思惑やその決着点、環境庁の設立などの昭和史を、筆者が噛みしめるように確認していく。特に、山内個人の学生時代や妻である知子氏の振返りなど、小説家志望でもありペーソスや独特のユーモアすら感じさせる山内氏が、なぜ自死せねばならなかったのかというヒューマンドキュメント的なミクロな視点から、戦後日本の行政組織、しかもそのトップである高級官僚が突きつけられる非人間的ともいえる社会機構上の冷徹なルールとそのもとで従事する人々の怜悧さを描くマクロな視点、両面の振動から、単純な犯人捜し的な図式から零れ落ちるもの、あるいは疑問点に拘り続ける13章。
私が最初に是枝さんの作品に触れたのも、ドキュメンタリー番組でした。公共放送の企画で、確か事故によって事故後の新しい記憶がとどめられない記憶障害の人とその家族を追ったものだったように記憶します。記録を見ると、たぶん「記憶が失われた時…~ある家族の2年半の記録~」という番組だったのかもしれません。ただ番組の内容はかなり鮮明に覚えていたので、後になって、2004年に「誰も知らない」というカンヌ受賞作の映画の監督であるという、その時になってまたドキュメント番組の記憶がよみがえった、そんなことがありました。「誰も知らない」では、事情により親や社会から置き去りにされた子どもたちが出てきますし、記憶障害の番組でも、医療保険制度や様々な社会の仕組みから、その存在や辛さの認知すらも、置き去りにされた人々にスポットライトがあてられていました。今回のこの著作でも、生きざまに迫っていく山内豊徳氏も、高級官僚という身分とは裏腹に置き去りにされてしまった人なのかもしれない、そんなことを思った次第。
官僚といえば、9~5時(朝9時から朝の5時)とまで言われるハードな官僚の生活面や、どのような官僚内のルールにのっとって行動しているのか、あるいは政治家と異なるのか、詳細な取材で分かりやすく解説してくれています。それと同時に、こういった組織機構がある以上、大きな変化というのは起こり得るのかどうか…本書の最後の解説で、映画監督の想田さんは、「フクシマ」のことに触れて、政治家と官僚のやり取りは、水俣病以来進歩していると言い難いんじゃないかと、いうメッセージを込めて書かれていますが、私も少し似たようなことを感じました。それと、官僚自体は、数年前から人数も増えていて変化しているとは言うんですが、どの部分が変化してどの部分が変化していないのか、改めて思いました。
見どころを三つ:
一つ目は、日本の戦後福祉行政の歩みが非常にわかりやすく説明されている点。また公害が当初、厚生省(現厚生労働省)の管轄であり、経済成長という時代の要請がいかに国策に影響を与えてきたか、昭和史の一面を分かりやすく辿ってくれているところ。
二つ目は、日本における高級官僚が、どのようなルールにのっとって仕事をしているのか、またどういう人事を妥当として行ってきたか、戦後日本の官僚という組織の「設定」をクリアにしているところ。
三つ目は、やはり山内豊徳という人の生き様と妻の知子さんのやり取りでしょうか。新婚旅行の最中に官庁から呼び出されたり、結婚のきっかけとなった見合いの席ではほとんど言葉を交わすことでなかったり、そういった山内氏の不器用さや、埼玉県庁出向時に見せた現場職員との信頼関係であったり、非常に魅力的な人材が、なぜ自死していったのか、短い冊子であるのに、単純な「図式」に収まらないスケールを感じる一冊です。
2020年6月5日に日本でレビュー済み
悲しい物語り。やるせなさ。山内という人の素晴らしさと強さと脆弱さ。粘り強さを持ちながら脆さがあるのか。激務過労による平常心が損なわれたのか。死を選ぶ放棄なら、職務責任の放棄を選ばなかった、選べなかったことは弱さなのか強さなのか、それ以外に原因を求められることなのか。
妻の和子さんがかわいそうすぎて、それもやるせない。山内さんが妻に甘えないのか、甘えられないのか。それは強さなのか弱さなのか。安冨流に言うなら他人に依存できない未熟さなのか。
誠実であるがゆえに立場と自己の理念との板挟みになり死を選ぶほかなくなった山内さん。
妻の和子さんがかわいそうすぎて、それもやるせない。山内さんが妻に甘えないのか、甘えられないのか。それは強さなのか弱さなのか。安冨流に言うなら他人に依存できない未熟さなのか。
誠実であるがゆえに立場と自己の理念との板挟みになり死を選ぶほかなくなった山内さん。
2014年3月10日に日本でレビュー済み
この本を一読すると5回は泣けます。組織に身を置いて管理職に就いている人は全員読んでほしい。一人の人間として真摯に生きようとしたとき、豊かな感受性を保ったまま組織の論理を受け止めようとしたとき、主人公はこうした結論しか出せなかった。出すように追い込まれてしまった。
本書は自殺した主人公を肯定も否定もしません。しかし巨大な組織、官僚化された組織というものが、いかに個人を殺してしまうのか。その点への深い洞察が織り込まれていると思いました。そして主人公の人生は、没後に書き残したものと、夫人の証言によって明らかにされていくのですが、若き是枝監督の筆は、53歳で死を選んだ高級官僚とその妻の思いとに見事にシンクロし、主人公その人が自分で書いたのでは、と思えるほどです。
カンヌ受賞作品『そして父になる』で話題をさらった是枝監督の、人間を見つめる視線の原点に触れられる傑作です。
本書は自殺した主人公を肯定も否定もしません。しかし巨大な組織、官僚化された組織というものが、いかに個人を殺してしまうのか。その点への深い洞察が織り込まれていると思いました。そして主人公の人生は、没後に書き残したものと、夫人の証言によって明らかにされていくのですが、若き是枝監督の筆は、53歳で死を選んだ高級官僚とその妻の思いとに見事にシンクロし、主人公その人が自分で書いたのでは、と思えるほどです。
カンヌ受賞作品『そして父になる』で話題をさらった是枝監督の、人間を見つめる視線の原点に触れられる傑作です。