最近の欧米諸国とイスラムの関係、そしてシリアやトルコの思惑などを
理解するのに最適な一冊かと思います。
【第一章・EUの虚像】
内藤さんの他の本でも指摘されていることですが、
実体験などを元に、EUが掲げている理想と、そのギャップが紹介されています。
ドイツでのムスリムへの罵倒や、オランダの風俗街などです。
自由や平等を謳う白愛主義の問題点ですね。
ただ、貧しい国でも難民を受け入れているのに、富めるドイツやフランスが、
という話は、経済よりコーランが通じる国かそうでないかの問題に感じます。
・・・ヒジャブを被らないことに罰則は無いというのは知りませんでした。
【第二章・国家観の齟齬】
近代的な国民国家と、イスラム的な国歌の価値観の違いと、
さらには、メルケル首相の決断の問題点やその後の影響が紹介されます。
トルコ人やクルド人が、西欧の国民国家概念に振り回されている歴史があり、
現在でも軋轢が解消できていない。
だいたいイギリスのせいですが、イギリスの尻拭いをドイツがしているというのも
なんだか違和感を感じます。
【第三章・決められない国連】
拒否権のせいで、制裁や軍事行動に踏み切れない事情が紹介されます。
また、アサド政権が何故内外から批判を受けているにもかかわらず、
政権を維持できているのか?についても、カダフィ政権下のリビアと
比較しつつ解説されます。
要は嘘をつき続けることで、見捨てる根拠を作らないことがポイントのようです。
こういうしたたかさは、小国にとっては大事なのでしょう。
【第四章・指導者エルドアン大統領】
ロシアとトルコの関係、そしてトルコ流の難民・テロリストの扱い方が紹介されます。
トルコはオスマン時代から、上手くバランスを取ってきた国ですし、
また現状を鑑みつつ、オスマン流を踏襲するエルドアン大統領の凄さが解ります。
テロリストとの対話についても、話を聞きつつ、イスラム・コーラン的な
解決を図り、欧米諸国にもイスラム問題ははイスラムで解決するスタンス。
ただ、テロリストを鉄砲玉にしているような印象もありますが、
それは手腕と言うべきですかね。
【マジックワード・安倍晋三】
以上のように、国際情勢については概ね良いのですが、国内になると何故か一変。
日本の難民受け入れの件で、シリア難民とベトナム難民の比較がありますが、
地理的に条件が全く違います。受入れが少ないという話もありますが、
では具体的に何の法律のどの条文に問題があるのか示されていません。
ドイツの法規の話では。基本法の何条と明記されていたのにです。
また、アメリカ追従については、安倍さんがプーチン大統領や習主席と会談した事や
TPP11など、安倍政権の具体的行動については、全く触れていません。
プーチン大統領と会談したが、こういう理由で失敗だ、というなら解りますが・・・
自衛隊の海外派兵も「日本の利害を計算したものになる」とありますが、
国際世論を含めた利害を計算せずに派兵なんて出来るわけ無いだろと思います。
何故一人の先生が書いている一冊の本でここまで温度差が出るのか、不思議です。
やはり、「安倍晋三」という四字熟語は、何か特別な魔力があるのでしょうか。
限界の現代史 イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序 (集英社新書) (日本語) 新書 – 2018/10/17
内藤 正典
(著)
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本の長さ256ページ
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言語日本語
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出版社集英社
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発売日2018/10/17
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寸法10.6 x 1.2 x 17.3 cm
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ISBN-104087210545
-
ISBN-13978-4087210545
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
シリア、イエメンなど中東で頻発する虐殺や弾圧、それから逃れる大量の難民、欧米で繰り返されるテロなどの問題に対して有効な手立てを失った国際社会。その背景には、アメリカ、EU、国連、領域国民国家、西欧啓蒙思想など、第二次大戦後の世界の安定を担ってきたシステムと秩序の崩壊という現実がある。この崩壊過程の末には何があるのか?トルコを中心としたスンナ派イスラーム世界の動向と、ロシア、中国といった新たな「帝国」の勃興を見据え、展望を解説する。現代の“限界”の理由を概観し、文明の衝突を超え、日本はどうあるべきかを考えるための、現代史講義。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
内藤/正典
1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学分科卒業。博士(社会学)。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学分科卒業。博士(社会学)。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 集英社 (2018/10/17)
- 発売日 : 2018/10/17
- 言語 : 日本語
- 新書 : 256ページ
- ISBN-10 : 4087210545
- ISBN-13 : 978-4087210545
- 寸法 : 10.6 x 1.2 x 17.3 cm
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 395,187位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
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- - 1,409位国際政治情勢
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上位レビュー、対象国: 日本
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2018年10月27日に日本でレビュー済み
こういう視点がありえるのかと軽い衝撃がありましたね。イスラム世界の視点に立って見てみると違った風景が現れてくる。シリア難民の問題の根底にはそもそも国境の壁を超えているイスラム世界の論理があり、欧州が難民の流入に大きく揺れながらトルコが何の動揺もなく難民を受け入れたのもイスラム世界の一体感のゆえなのだと。イスラム世界にはそもそもナショナリズムなどというものがない。そこには確かにナショナリズムの暴発に苦しむポスト冷戦時代の現代世界の混迷を乗り越える発想がある。
独裁者だと欧米から評判の悪いトルコのエルドアン大統領が目指しているものは、いわば事実上のカリフ制の再興であり、そうすることで国境を超えたイスラム世界全体からの支持を獲得しようとしているのだという指摘にはハッとさせられました。あのイスラム国が目指したのもカリフ制の再興であったように、トルコを西欧型の体制からイスラム中心の国家へと変えようとしているエルドアン大統領の出現は旧オスマン帝国空間の再生の動きとして理解されるべきなんですね。どんな形であれ、それがイスラム世界の人々にとっての悲願なのであれば、そうするべきでしょうし、少なくとも欧米は余計な邪魔はしないことですよね。
独裁者だと欧米から評判の悪いトルコのエルドアン大統領が目指しているものは、いわば事実上のカリフ制の再興であり、そうすることで国境を超えたイスラム世界全体からの支持を獲得しようとしているのだという指摘にはハッとさせられました。あのイスラム国が目指したのもカリフ制の再興であったように、トルコを西欧型の体制からイスラム中心の国家へと変えようとしているエルドアン大統領の出現は旧オスマン帝国空間の再生の動きとして理解されるべきなんですね。どんな形であれ、それがイスラム世界の人々にとっての悲願なのであれば、そうするべきでしょうし、少なくとも欧米は余計な邪魔はしないことですよね。
ベスト500レビュアー
内藤正典氏(1956年~)は、中東の国際関係を専門とする地理学者・国際政治学者。
本書は、著者曰く「私が専門とする中東とヨーロッパ、イスラーム地域を切り口に現代の「限界」を浮き彫りにしようとする試み」であり、80年代前半にシリア、90年代前半にトルコに留学した経験を活かし、「シリアとトルコとヨーロッパ諸国で起きてきた地殻変動をつないで、世界的な規模での危機の構造を描こうとした」ものである。
本書では、書名に表された、今や「限界」にあるものとして、「EUの限界と(進んでいるヨーロッパが遅れている他世界を見下した)啓蒙の限界」、「国民国家の限界」、「国連の限界」を示している。
しかし、読み終えてみると、それらは独立した問題ではなく、突き詰めれば、ヨーロッパが「共通で普遍的な価値観」と考えて疑わなかったパラダイムが、実はそうではなく、その限界と矛盾が露呈して様々な問題が起こっているのだということがわかる。大航海時代から産業革命以降の世界の大きな潮流は、他地域に先駆けて近代化を果たしたヨーロッパが、自分たちの価値や制度を他地域に押し付け、それと異なる考え方に立つ価値や制度を排除しながら相手を征服して地球規模に広げてきたということであるが、そうした「exclusiveなグローバリズム」は限界に達したのである。
著者はイスラーム地域の専門家であり、そうしたヨーロッパのパラダイムと異質のものとして、現在対立が最も表面化し危機的状況にあるとも言えるイスラームについて詳しく述べているが、問題の本質を「ヨーロッパ対イスラーム」に求めてはいない。重要なことは、世界にはヨーロッパ以外の複数のパラダイムが存在することに気付き、お互いにそれらのパラダイムを認めることである。パラダイムの相違は「違い」であって「優劣」ではない。それを認めようとしないと、自分たちのパラダイムで相手を差別し、見下し、敵意を持ち、疎外する。そして、そうした姿勢を正当化しようとすれば、衝突が起こることになる。それらを避けるためには、双方のパラダイムを尊重し、(ヨーロッパ的パラダイムが作り出した)国家という枠組みを超えて、その差異を柔らかく内側に包み込むことのできる「inclusiveなグローバリズム」をめざさなくてはいけないとしている。
また、21世紀に入ってからの「ヨーロッパ対イスラーム」の対立は、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」の理論が顕在化したものと説明されることが多いが、著者はそれについて、ハンチントンの「文明の衝突」は“理論”ではなく“シナリオ”であり、「文明の衝突」が起こったのは、その理論が正しかったからではなく、そのシナリオに沿って、イスラーム文明が西洋文明に敵対するものと見做され、意図的に引き起こされたのだと述べているが、上記の文脈を踏まえると、その見解も説得性がある。
私は、イスラームのパラダイムについての積極的な賛否は持たないが、著者の「ヨーロッパ的パラダイムによるグローバル化の限界」と「それを乗り越えるための多様なパラダイムの尊重の重要性」という主張には全面的に同意するし、非ヨーロッパ人である我々こそ、それを声に出し、世界の変革をリードしていかなくてはならないと思うのである。
(2018年11月了)
本書は、著者曰く「私が専門とする中東とヨーロッパ、イスラーム地域を切り口に現代の「限界」を浮き彫りにしようとする試み」であり、80年代前半にシリア、90年代前半にトルコに留学した経験を活かし、「シリアとトルコとヨーロッパ諸国で起きてきた地殻変動をつないで、世界的な規模での危機の構造を描こうとした」ものである。
本書では、書名に表された、今や「限界」にあるものとして、「EUの限界と(進んでいるヨーロッパが遅れている他世界を見下した)啓蒙の限界」、「国民国家の限界」、「国連の限界」を示している。
しかし、読み終えてみると、それらは独立した問題ではなく、突き詰めれば、ヨーロッパが「共通で普遍的な価値観」と考えて疑わなかったパラダイムが、実はそうではなく、その限界と矛盾が露呈して様々な問題が起こっているのだということがわかる。大航海時代から産業革命以降の世界の大きな潮流は、他地域に先駆けて近代化を果たしたヨーロッパが、自分たちの価値や制度を他地域に押し付け、それと異なる考え方に立つ価値や制度を排除しながら相手を征服して地球規模に広げてきたということであるが、そうした「exclusiveなグローバリズム」は限界に達したのである。
著者はイスラーム地域の専門家であり、そうしたヨーロッパのパラダイムと異質のものとして、現在対立が最も表面化し危機的状況にあるとも言えるイスラームについて詳しく述べているが、問題の本質を「ヨーロッパ対イスラーム」に求めてはいない。重要なことは、世界にはヨーロッパ以外の複数のパラダイムが存在することに気付き、お互いにそれらのパラダイムを認めることである。パラダイムの相違は「違い」であって「優劣」ではない。それを認めようとしないと、自分たちのパラダイムで相手を差別し、見下し、敵意を持ち、疎外する。そして、そうした姿勢を正当化しようとすれば、衝突が起こることになる。それらを避けるためには、双方のパラダイムを尊重し、(ヨーロッパ的パラダイムが作り出した)国家という枠組みを超えて、その差異を柔らかく内側に包み込むことのできる「inclusiveなグローバリズム」をめざさなくてはいけないとしている。
また、21世紀に入ってからの「ヨーロッパ対イスラーム」の対立は、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」の理論が顕在化したものと説明されることが多いが、著者はそれについて、ハンチントンの「文明の衝突」は“理論”ではなく“シナリオ”であり、「文明の衝突」が起こったのは、その理論が正しかったからではなく、そのシナリオに沿って、イスラーム文明が西洋文明に敵対するものと見做され、意図的に引き起こされたのだと述べているが、上記の文脈を踏まえると、その見解も説得性がある。
私は、イスラームのパラダイムについての積極的な賛否は持たないが、著者の「ヨーロッパ的パラダイムによるグローバル化の限界」と「それを乗り越えるための多様なパラダイムの尊重の重要性」という主張には全面的に同意するし、非ヨーロッパ人である我々こそ、それを声に出し、世界の変革をリードしていかなくてはならないと思うのである。
(2018年11月了)
殿堂入りベスト10レビュアー
著者はEU加盟国の難民・移民政策に対する欺瞞を暴きたて、EUの限界を指摘する。難民・移民サイドから見た場合はその通りであろう。元来、EUとは、ヨーロッパ石炭・鉄鋼共同体に始まる経済統合・市場統一を目的とした経済組織といって良い。しかも、アメリカ・日本に対抗する第三の経済圏としてのヨーロッパ諸国の自己利益と自己主張がある。域内では人や物の移動を自由にするが、域外諸国に対しては高関税を掛け、保護貿易政策をとる極めて保守的・閉鎖的な経済圏である。難民・移民に対するEU諸国の対応は不足する労働力の補給以外にはない。難民・移民は祖国で政治的・経済的理由により窮地に追い込まれた人々てあり、受け入れられた国で働いて生活の資を得るのが急務の課題である。この点においてEU加盟国と難民・移民の利害は一致した。国際的な人道支援や人権尊重は建前であり、本音ではない。難民・移民がEU加盟国において底辺において社会を支える労働力に甘んじてきたのは、生きていくためにやむを得ない事態であり、国連さえもどうすることも出来ない。この事態を「限界」と見なすのは正しくないと思われる。この現状から出発し、打開策を考え、一つひとつ実行するしかない。もし日本に突然100万人もの難民・移民が押し寄せてきたら、日本社会は混乱と危機に陥り、難民・移民排斥運動も起こることは間違いない。難民・移民問題は世界史的に例がなく、想定外の事態である。ヨーロッパ諸国は、アメリカ合衆国のように、移民で構成される国家ではない。宗教や文化の軋轢が生じるのは不可避である。こういう場合、世界史に学ぶことが重要であろう。EUはそのための実験なのだ。アメリカ合衆国の歴史、ロシアの歴史、オスマン帝国の歴史、古くはモンゴル帝国の歴史など、民族問題を不可避的に抱えていた多民族国家が歩んできた歴史は参考になるに違いない。国連の対応も決して限界ではない。経験値と努力が足りないだけだ。エスノセントリズム(自民族中心主義)に陥ることなく、自国ファーストを主張することもなく、打開策をどんな小さなことからでも良いから始めることだ。日本に出来ることも沢山あるはずだ。それにしても本書のように、ここまで限界を指摘した本は珍しい。イスラーム研究第一人者の著者だから書けた本だ。お勧めの一冊だ。
2018年10月26日に日本でレビュー済み
書き出しの一文から引き込まれ、一気に読み終えました。この本一冊で、私たちがどんな世界情勢の中で生かされているのか、がよく分かります。ロシア、中国、アメリカ、トルコがどのようにしてパワーバランスを保っているのかについて「なるほどな」と納得させられました。日本もこれからどんどん外国人労働者(移民)を受け入れることになるでしょう。その時に外国人移民に対して排他的感情をあらわにして殺伐とした社会を築くのではなく、日本人も外国人も共にどうやって社会を築いて行けばよいのか、についてのヒントもこの本には隠されてあります。
オススメの一冊です!
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