フィリピンやインドネシアとの間に結ばれたEPAを経路とする外国人看護・介護士に関するノンフィクション・ルポ。この領域は学者や介護施設、民間NPO、業界団体など様々な立場から情報が発信されており、類書も少なくない。ジャーナリストによる本書の場合、インドネシアやフィリピン側の圧力団体や行政利権にまでタッチして直接話を聞いているし、日本側では省庁の役人や自民党の看護・介護業界系議員に直接インタビューを取っている点も評価できる。
さて、インドネシアで応募された初回の看護・介護士候補者募集に人が集まらなかったのは、年度内に関連予算を消化したい日本側の都合で広報期間が一週間程度しか無かったからだというのが、インドネシア側の(半ば公式な)見解だったりする。だが、本書ではインドネシア側で広報を担った役所が(日本への出稼ぎは儲かるため)コネで周囲の人間を集めたせいではないか、という視点が紹介される。また、インドネシアの現地教育機関で行った候補者へのインタビューで、永住志向のフィリピン人候補者と違って彼らは宗教の違いから短期出稼ぎ志向が強いという指摘も新鮮だった。(もっとも、本書で紹介されたインドネシア人候補者達の場合、日本に来てしまうと永住志向に変わっているようだが。)あくまでこれらは著者が出張取材で触れた限りの情報であり真実の程は藪の中だが、こういった「現地で足で稼いだ情報」が硬派で説得力のある一冊の土台をつくっている。
良くも悪くも制度がコロコロ変わり、看護・介護労働の移動に関するEPA対象国もベトナムやインド、タイなんかが次なる候補に挙がっている昨今である。続編を期待したい。
- 単行本: 235ページ
- 出版社: 新潮社 (2009/8/28)
- 言語: 日本語
- ISBN-10: 4104468029
- ISBN-13: 978-4104468027
- 発売日: 2009/8/28
- 梱包サイズ: 19.4 x 14 x 2 cm
- おすすめ度: 5件のカスタマーレビュー
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