1997年来の再読だ。特に表題作の「鉄道員」と「うらぼんえ」を読みたくてまたこの本を手に取った。巻末の北上次郎の解説によると、この短
編集の読者ファンには、4つの派閥があるらしい。この短編集に入っている8作の短編のうち、「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」そして「うら
ぼんえ」の4作を推す人たちに分かれるというのだ。北上次郎は、こういう解説には割と珍しくはっきりと、「角筈にて」が頭一つ抜きんでて
いると言い切っている。
私は、やはり表題作の「鉄道員」が好きだ。職に忠実な鉄道員が、その死を迎える最後の夜に、死んだ娘がその成長段階の幼児、少女、そして
高校生として現れ、妻や娘に先立たれ孤独の生活を送る父に向って「おとうさん、なんもいいことなかったでしょ」という場面は、何度読んで
も泣けてしようがない。「うらぼんえ」も大好きな作品だ。父母に先立たれた後、祖父母に育てられるちえ子は夫に裏切られる。その夫の祖父
の初盆に田舎で行われる親族会議で、相手の親族がちえ子を責め、離婚を迫る中、死んだはずのちえ子の祖父が現れ、啖呵を切る。浅田次郎ら
しい歯切れのいい啖呵が誰も味方のいないちえ子を大いに助けるが---。これも祖父のちえ子への深い愛情が思い切り泣かせてくれる。とにか
く、この短編集は直木賞を受賞したように、どれも佳作ぞろい。人によってどれがベストかという点は意見も分かれようが、優しい気持ちになり
たいときは是非読まれることをお勧めする。
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