富裕層に対して重く課税する、極めて自然な考え方だが、現実の社会ではむしろ累進課税は弱められる方向に動いている。
なぜ有権者の大半は中間層~貧困層なのに、民主主義社会においても累進課税強化が進まないのか。
本書では、課税の公正性の歴史を紐解いていくことで、どのようなときに富裕層課税が進むのかを明らかにしている。
本書では、課税の平等性を巡る議論の立て方として、富裕層課税を擁護する「支払い能力論(支払い能力の高いものが多く払うべき)」と「補償論(不当に得をしたものが損させられたものに償うべき)」、富裕層課税を批判する「平等論(全員同じように払うべき)」に分ける。
本書で繰り返し述べられているのは、支払い能力論だけでは富裕層課税の広範な支持を集めることは出来ず、補償論が働いたときのみ富裕層課税が強力に推進される、というものである。
補償論として有効に働いたのは、十九世紀には「間接税の逆進性の補填」であり、そして二十世紀には「戦争の負担」であり、そしてほぼそれのみであった、というのが本書の結論である。
所得税の累進課税の最高税率は、20世紀にはいるまでは非常に低く(所得税の位置づけがそもそも軽かった)、二度の大戦で急上昇し、アメリカでは限界最高税率92%などにまでなるが、その後下降傾向にある。
本書では、この挙動の原因として「戦争への補償」を挙げるが、本書の大半の部分は、その他の可能な説明を考えうる限りあげて、それをデータから棄却していくことに費やされている。
誰もが考えつく「民主主義の導入によって富裕層課税が進む」というのはデータからほとんど相関がないと指摘される。
左派政党が政権に就くと富裕層課税が進む、国内の不平等が広がると富裕層課税が進む、などの論も同様に棄却されている。
また、相続税(徴収が容易なため、大体所得税よりも一世紀ほど早くから導入されていることが多い)も同様に十九世紀には低い水準にとどまり、二十世紀に入って同様の挙動を示すことから、政府の徴税能力の不足などの論拠も棄却している。
総力戦という大規模動員が重要であり、そしてその負担を富裕層が負うために「資本の徴兵」としての富裕層課税が正当化された。
では、そもそも大規模動員はなぜ起き、なぜ最近は起きないのか。
本書では、大規模動員の始まりを鉄道の建設に見て、その終わりを高精度の空爆(レーザー誘導装置はベトナム戦争で初使用)の技術の出現に見ている。
現代の戦争はもはや「国民全体が徴兵で負担する」ものではなくなり、そのため例えばイラク戦争期にも富裕層課税は特に行われていない。
富裕層課税の縮小は1980年代から顕著に進むが、その理由についても考察している。
「富裕層課税が経済成長の足かせになる」という論はずっと昔の50年代からあるのでそれ自体新規ではないとし、グローバリゼーションによる徴税の困難さも個人に対しては(少なくともこれまでは)そこまで強くないとしている。
結局、「戦争の補償」と呼べる時代はとうに過ぎ、左派勢力がそれに代わる「課税の公正性」の明確な論拠を出せなくなっていることを本書では指摘している。
歴史から富裕層課税がどういうときに成功したかを見せてくれる、(実証が多いため)地味だがなかなか面白い本であり。
結局「補償論」でしか富裕層課税が進まないというのはなかなか難しいところである。
税の在り方を考えていくうえで、本書は明快な回答を与えるわけではないが、考えるための土台をきちんと与えてくれる一冊であろう。
この商品をお持ちですか?
マーケットプレイスに出品する

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません 。詳細はこちら
Kindle Cloud Readerを使い、ブラウザですぐに読むことができます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
金持ち課税 単行本 – 2018/6/9
購入を強化する
「本書を読めば、貧困と怒りが再分配税制で解決されそうもないことがわかるだろう」
アンガス・ディートン(プリンストン大学教授)
「素晴らしい本だ。
包括的でありながら読みやすい形で、
前世紀に、欧米と日本で、所得と遺産への高い累進課税がどのように推移したかを描いている」
トマ・ピケティ(パリ経済学校教授)
「系統的なデータ分析と歴史的なケーススタディに基づいた、社会科学研究の見本だ」
ダニ・ロドリック(ハーヴァード大学ケネディ・スクール教授)
「国はいつ、なぜ富裕層に課税するのか。今日、これほどタイムリーかつ
意見の対立する問題はない。…20世紀の高課税は民主主義の影響だったのか、
不平等への対応だったのか。…本書は、過去へさかのぼり、富裕層課税の歴史が
現在の状況に何を教えてくれるかを示していく。…我々の考えでは、社会が
富裕層に課税するのは、国民が国家は富裕層に特権を与えていると考え、
公正な補償によって富裕層に他の国民より多く課税するよう要求する時だ」
「1914年に大規模戦争時代が到来し、富裕層課税を支持する強力な新主張が
生まれた。労働者階級が徴兵されるなら、公平に、資本家階級にも同様のことが
要求される。…戦争の負担が平等でないなら、富裕層はより重税を課されるべきだ。
…しかし、大規模戦争がなくなると、そうした主張は消えていく。代わりに、
富裕層への高課税は新たな既存体制となり、富裕層への課税は「公正」だと、
何の説明もなしに主張するしかなくなっていった。そのような状況で、富裕層の
税が下がっていくのは不可避だった」(本文より)
世界的に不平等が拡大するなか、税による解決は可能なのか?
歴史から新たな回答を提示する基本書。
アンガス・ディートン(プリンストン大学教授)
「素晴らしい本だ。
包括的でありながら読みやすい形で、
前世紀に、欧米と日本で、所得と遺産への高い累進課税がどのように推移したかを描いている」
トマ・ピケティ(パリ経済学校教授)
「系統的なデータ分析と歴史的なケーススタディに基づいた、社会科学研究の見本だ」
ダニ・ロドリック(ハーヴァード大学ケネディ・スクール教授)
「国はいつ、なぜ富裕層に課税するのか。今日、これほどタイムリーかつ
意見の対立する問題はない。…20世紀の高課税は民主主義の影響だったのか、
不平等への対応だったのか。…本書は、過去へさかのぼり、富裕層課税の歴史が
現在の状況に何を教えてくれるかを示していく。…我々の考えでは、社会が
富裕層に課税するのは、国民が国家は富裕層に特権を与えていると考え、
公正な補償によって富裕層に他の国民より多く課税するよう要求する時だ」
「1914年に大規模戦争時代が到来し、富裕層課税を支持する強力な新主張が
生まれた。労働者階級が徴兵されるなら、公平に、資本家階級にも同様のことが
要求される。…戦争の負担が平等でないなら、富裕層はより重税を課されるべきだ。
…しかし、大規模戦争がなくなると、そうした主張は消えていく。代わりに、
富裕層への高課税は新たな既存体制となり、富裕層への課税は「公正」だと、
何の説明もなしに主張するしかなくなっていった。そのような状況で、富裕層の
税が下がっていくのは不可避だった」(本文より)
世界的に不平等が拡大するなか、税による解決は可能なのか?
歴史から新たな回答を提示する基本書。
- 本の長さ320ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2018/6/9
- 寸法13.4 x 2.3 x 19.6 cm
- ISBN-104622087014
- ISBN-13978-4622087014
この商品を買った人はこんな商品も買っています
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
世界的に不平等が拡大するなか、税による解決は可能なのか?歴史から新たな回答を提示する基本書。
著者について
ケネス・シーヴ Kenneth Scheve
スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所政治学教授。専門は政治経済の国際比較。
共著書 Globalization and the Perceptions of American Workers (Peterson Institute for International Economics, 2001)
デイヴィッド・スタサヴェージ David Stasavage
ニューヨーク大学政治学部ジュリアス・シルバー教授。専門は政治経済学、民主主義、格差、国家債務。
著書 States of Credit: Size, Power, and the Development of European Polities (Princeton University Press, 2011) ほか。
立木勝(たちき・まさる)
翻訳家
スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所政治学教授。専門は政治経済の国際比較。
共著書 Globalization and the Perceptions of American Workers (Peterson Institute for International Economics, 2001)
デイヴィッド・スタサヴェージ David Stasavage
ニューヨーク大学政治学部ジュリアス・シルバー教授。専門は政治経済学、民主主義、格差、国家債務。
著書 States of Credit: Size, Power, and the Development of European Polities (Princeton University Press, 2011) ほか。
立木勝(たちき・まさる)
翻訳家
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
シーヴ,ケネス
スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際問題研究所教授(政治学)および上級フェロー
スタサヴェージ,デイヴィッド
ニューヨーク大学ウィルフ・ファミリー政治学部ジュリアス・シルヴァー教授
立木/勝
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際問題研究所教授(政治学)および上級フェロー
スタサヴェージ,デイヴィッド
ニューヨーク大学ウィルフ・ファミリー政治学部ジュリアス・シルヴァー教授
立木/勝
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1分以内にKindleで 金持ち課税――税の公正をめぐる経済史 をお読みいただけます。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2018/6/9)
- 発売日 : 2018/6/9
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 320ページ
- ISBN-10 : 4622087014
- ISBN-13 : 978-4622087014
- 寸法 : 13.4 x 2.3 x 19.6 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 456,400位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 2,211位経済学 (本)
- - 17,994位投資・金融・会社経営 (本)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.0
星5つ中の4
4 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
ベスト500レビュアー
35人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2019年1月13日に日本でレビュー済み
累進課税で金持ちに課税することに、金持ちでない人の支持が広がらない、ということが書かれています。大戦中や戦後には金持ち課税が広がったが、その後緩和されてきたとのこと。
累進課税は、金持ちに不当に重税をかけることになる、という誤解があるのではないでしょうか。所得税の累進課税は、平等、公正な仕組みだと思います。
所得が100万円の人、1000万円の人、1億円の人、10億円の人がいるとします。100万円の人には所得税はかかりません。でも、これはどの所得の人も同じで、1000万の人も1億円の人も10億円の人も、100万円分には所得税はかかりません。1000万円の人には残り900万円に所得税がかかりますが、100万円の人も1000万円の人も、最初の100万円については税金も手取りも平等です。1億円の人は税率が上がりますが、1000万円については、収入1000万円の人と同じ税額と手取りです。残り9000万円の税率が高くなります。10億円になると、もう税率は上がらないようですが、高率で所得税をかけたとしても、1億円については、収入1億円の人と同額の所得税なのだから、残り9億円からたっぷり税金を払っていただいても、1億円以下の所得の人が同情(?)する必要など全くないのです。
億単位の収入の人は、給料だけではなくて、利子配当所得の割合が大きくなるようです。なぜか利子配当所得の税率は低いので、ある所得額(数億)以上になると、税金負担率が下がっていくようです。
もっとお金持ちに税金をたくさん払ってもらってもいいのではないでしょうか。消費税は低所得者ほど負担率が高くなる逆進性があります。ベーシックインカムを導入するなど、もっと広くお金が行き渡るようにするべきです。
お金持ちだって、自分だけため込んで、みんなが貧乏では、いいことないでしょうに。
累進課税は、金持ちに不当に重税をかけることになる、という誤解があるのではないでしょうか。所得税の累進課税は、平等、公正な仕組みだと思います。
所得が100万円の人、1000万円の人、1億円の人、10億円の人がいるとします。100万円の人には所得税はかかりません。でも、これはどの所得の人も同じで、1000万の人も1億円の人も10億円の人も、100万円分には所得税はかかりません。1000万円の人には残り900万円に所得税がかかりますが、100万円の人も1000万円の人も、最初の100万円については税金も手取りも平等です。1億円の人は税率が上がりますが、1000万円については、収入1000万円の人と同じ税額と手取りです。残り9000万円の税率が高くなります。10億円になると、もう税率は上がらないようですが、高率で所得税をかけたとしても、1億円については、収入1億円の人と同額の所得税なのだから、残り9億円からたっぷり税金を払っていただいても、1億円以下の所得の人が同情(?)する必要など全くないのです。
億単位の収入の人は、給料だけではなくて、利子配当所得の割合が大きくなるようです。なぜか利子配当所得の税率は低いので、ある所得額(数億)以上になると、税金負担率が下がっていくようです。
もっとお金持ちに税金をたくさん払ってもらってもいいのではないでしょうか。消費税は低所得者ほど負担率が高くなる逆進性があります。ベーシックインカムを導入するなど、もっと広くお金が行き渡るようにするべきです。
お金持ちだって、自分だけため込んで、みんなが貧乏では、いいことないでしょうに。
2018年9月14日に日本でレビュー済み
ハードカバーの分厚い本ですが、本書の結論は冒頭の第一章で出尽くしており、その後はひたすらそれがいかに正しいかを検証していく内容となっています。
本書の主張を簡単に言うと
「富裕層への税率が上がるのは、一般庶民が徴兵された全面戦争のときだけ」
ということです。
今日の日本では甚だしく誤用されている「血税」という言葉は、本来「徴兵」を意味するものです。
まさに「血で払う税」なのです。
全面戦争の時代において、一般庶民はみんな「血税」を払っているのに、富裕層は徴兵逃れをしているどころか、軍事産業の経営で大儲けをしている。
この不公平は、高額な税率で埋め合わせをさせるべきだ。
これは金持ち自身も納得せざるを得ない、ぐうの音も出ない正論と言えます。
そして実際に富裕層への最高税率は劇的にあがりました。
しかし、全面戦争の時代が終わったら?
一般庶民だって血税なんて払わないし、むしろ愛国心なんてものはバカらしいと言わんばかりの雰囲気となっています。
このような時代に、金持ちだけが高額な税率を課せられる理屈は自然に消滅してしまったのです。
その結果富の集中が加速し、世界に不平等が広がっても、それは富裕層だけの責任ではないのです。
まさに一般庶民にとっては「不都合な真実」という事でしょう。
「なぜ富裕層は高額な税率を課せられるべきなのか?」という政治哲学的な論題では、尤もらしい理屈を述べることはいくらでも出来ます。
しかし、本書のテーマは「その理屈が支持を集めて政治的勝利を得られるのか?」という、極めて政治的で現実的なテーマを扱った内容となっています。
「個人の自由」ばかりがことさら重要視される時代において、自由と平等が両立できないジレンマを考えるのに、いいヒントを与えてくれる本だと思いました。
本書の主張を簡単に言うと
「富裕層への税率が上がるのは、一般庶民が徴兵された全面戦争のときだけ」
ということです。
今日の日本では甚だしく誤用されている「血税」という言葉は、本来「徴兵」を意味するものです。
まさに「血で払う税」なのです。
全面戦争の時代において、一般庶民はみんな「血税」を払っているのに、富裕層は徴兵逃れをしているどころか、軍事産業の経営で大儲けをしている。
この不公平は、高額な税率で埋め合わせをさせるべきだ。
これは金持ち自身も納得せざるを得ない、ぐうの音も出ない正論と言えます。
そして実際に富裕層への最高税率は劇的にあがりました。
しかし、全面戦争の時代が終わったら?
一般庶民だって血税なんて払わないし、むしろ愛国心なんてものはバカらしいと言わんばかりの雰囲気となっています。
このような時代に、金持ちだけが高額な税率を課せられる理屈は自然に消滅してしまったのです。
その結果富の集中が加速し、世界に不平等が広がっても、それは富裕層だけの責任ではないのです。
まさに一般庶民にとっては「不都合な真実」という事でしょう。
「なぜ富裕層は高額な税率を課せられるべきなのか?」という政治哲学的な論題では、尤もらしい理屈を述べることはいくらでも出来ます。
しかし、本書のテーマは「その理屈が支持を集めて政治的勝利を得られるのか?」という、極めて政治的で現実的なテーマを扱った内容となっています。
「個人の自由」ばかりがことさら重要視される時代において、自由と平等が両立できないジレンマを考えるのに、いいヒントを与えてくれる本だと思いました。