一九二三年の関東大震災の後、治安警察法違反で逮捕された朴烈と恋人(獄中で結婚)の金子文子、そしてそれを取り巻く人々の物語。
当時、朝鮮の一部は日本の領土であり、日本で生活する者も多かった。しかし、日本人の中には、朝鮮の人たちを自分たちより一段低いところにいる人間だと考えている者もいた。人力車夫をしながら、日々貧しい生活をする朴烈も客からひどいあしらいを受ける。
文子は朴烈の書いた「犬ころ」という詩に惹かれて彼を訪ねる。最初は文子を面倒がる朴烈だったが、文子に押され、同棲するようになる。
同棲のさなかに関東大震災に見舞われ、当時の内務省のスケープゴートとされた朴烈が治安警察法違反で逮捕されると、文子も同じ罪であると述べ逮捕される。
日本の騒乱の原因を一部の朝鮮人の影響にしようとする流れが当時の日本にあった(朝鮮人が井戸に毒を入れたというデマが広がり自警団により多くの朝鮮人が殺害されたという史実をふまえているようである。)という考えで、作られている部分があり、特に内務大臣は日和見主義の典型的な悪役として描かれている。
それに対し、人権を重視するの弁護士が二人の弁護を名乗り出たという史実も忠実にふまえられており、興味深い。初めての出廷の日は朴烈は韓服、文子はチマチョゴリを着て、自分たちの主張を訴える。
このシーンは映画のポスターにもなっている写真撮影のシーンと共にこの作品の白眉であると言える。
この後の展開は悲惨なのであまり触れない。しかし、見た後に嫌な感じはしない。文子は悲惨な出自の中(これに関しては、作中で紹介された文子の手記『何が私をそうさせたか』に詳しい。)で信頼できる同志であり夫である朴烈と出会い、人生で最も幸せな時期がこの映画で描かれた時期だったのではないかと思ってしまう。(これは作中からはとらえきれないが、『何が私をそうさせたか』を読むと、そう感じさせられてしまう。)
韓国で制作されているので、日本をどのような国家として捉えるかに関しては多少考えるべき部分はあるかもしれないが、多様性やマイノリティを考えることを声高に叫ぶ現代の日本人は身近な問題から目を逸らさず、自国と韓国・朝鮮の人々との関わり方についてこの映画を一つのきっかけとして考えても良いかもしれない。
もちろん、上記のような難しい話は抜きにして、純粋にラブストーリーとしても美しいです。個人的な感想ですが文子役の女優さん(チェ・ヒソさん)があまりに魅力的ででクラクラしてしまいました。ちなみに私は二人の存在をブレイディみかこさんの『他者の靴を履く』で明確に意識し、気になってこの映画にたどり着きました。素晴らしい出会いでした。