年老いた人間の内面と周囲世界が朦朧と混じり合っているというか、どれが今でどれが記憶なのか、どれが幻想でどれが真実なのかも判然としないが、とにかく小説自体は前に進んでゆく。だが文章がこの世界をふらふらとうろついているようでもあり、前に進んでいるのか後ろに戻っているのかもわからないような感覚を抱く。だが作中人物はちゃんと世の中に付いていくことはできているようであり、老いているとは言え、世界と自分の存在に対する分別のようなものはあるのである。だから文章は各々難解過ぎもせず単純過ぎもせず、結構気持ちよく読める。
言葉の選ばれ方、構文などが枯淡でかつ重みがあり、その文章センスがそのまま老境を生きる心理的な処世ともなっているようだ。そこに、この小説が心地よく読める秘密があるような気がする。
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