出口治明(1948年~)氏は、京大法学部卒、日本生命勤務後、2006年にライフネット企画(2008年からライフネット生命)を起業、同社の代表取締役社長・会長を務め、2018年から立命館アジア太平洋大学学長。歴史書、読書論、ビジネス書などの著作も多数。
私はこれまで著者の本を読んだことはなかったが、自ら50代半ばを過ぎて「還暦」を意識し始める中で、タイトルに惹かれて購入したというのが正直なところであるが、読了してみると、そのタイトルにもかかわらず、「60歳になったのだからこれをやりなさい」、「70歳になったらこれがお勧めです」というハウツー的な話はひとつも述べられていない。少々肩透かしを食った気がするのであるが、著者はそれについて、「必ずしも自分の好みではない誰かが決めたパターンにわざわざ自分からはまりにいく必要はない、人間は一生懸命自分の好きなことをするのが一番幸せだ、・・・「人・本・旅」でいろいろな人に会い、いろいろな本を読み、いろいろなところに出かけて行って刺激を受けたらたくさん学びが得られ、その分人生は楽しくなります。」と述べている。
しかし一方で、(生物学的な)人生後半において、どのように人生に向かい、社会と接していくべきかについて、多読家で歴史や社会情勢に詳しいビジネスマン・教育者として、古今東西の幅広い人物・本・事象を取り上げて、様々な示唆を与えてくれている。
いくつか印象に残った点を記すと以下である。
◆還暦からの底力を発揮する重要なポイントは、色眼鏡(その人の価値観や人生観)を外してフラットに周囲の物事を見ること。「数字・ファクト・ロジック」で、エピソードではなくエビデンスで世界を見ること。そうすれば、(年齢に関する)根拠のない不安はなくなる。
◆生殖機能を失った高齢者が生かされている歴史的、生物学的意味は、次世代を健全に育成すること。(本川達雄『生物学的文明論』による)
◆俗にいう「人脈の作り方」の類は無駄。毛筆の手紙をもらおうが、梨のつぶてだろうが、面白いと思った人にはまた会いたいと思うのが人情。人とのつながりは「自分」というコンテンツ次第。
◆人生において教養が重要である理由は、教養がある人は、教養がない人に比べて豊かで楽しい人生が送れるから。「教養=知識×考える力」であり、これは「おいしい人生」を送るためには必須。
◆世の中を理解するために必読の古典6冊は、ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』、ウォーラーステイン『近代世界システム』、アダム・スミス『国富論』と『道徳感情論』、ジョン・ロック『統治二論』、ダーウィン『種の起源』。
◆人間観には、人間は勉強すれば賢人になれるという人生観と、人間は勉強したところで所詮はアホな存在であるという人生観の2種類がある。後者に基づき、皆が概ね満足しているならそのままでいいというのが「保守主義」の考え方。一方、前者に基づき、賢人が考えた通りにやれば世界はうまくいくというのが「革新主義」である。著者は、基本的に「保守主義」を支持。
◆歴史的に優れたリーダーは、経済の成長に貢献した人。日本では、平清盛、足利義満、織田信長。
「人生楽しくてなんぼ」と語る著者が、「年齢フリー社会」、「オール・サポーティング・オールの世界」を生きるための指針を与えてくれる一冊。
(2020年5月了)
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。
