作者の第2作は『ぼくたちの青春は覇権を取れない。』の第2巻になるかと思いきや、その予想を大きく
裏切りリリースされたのがこの作品。(第2作相当は現在カクヨムで連載中)
この手の『作家のお遊び』的な作品は従来、実績のある中堅やベテランが行うものであり、
デビューからあまり時間が経過していない若手がやってしまう、そしてこれにゴーサインを出した
電撃文庫編集部に驚きと戸惑いを覚えるが、それでも出版にこぎ着けることができたのは、
スラップスティックな展開に隠れているいくつかの謎の提示やライトノベルの世界や読者に対する
問題提起が込められているからなのだろう。
おそらく東野圭吾『名探偵の掟』(講談社文庫)あたりが好きな人は嵌まるかも知れない。
いや、嵌められるかも知れないが。
本作は全7話の連作短編で構成されており、最難関ダンジョン『欲望の樹海』を抜けた先の一軒家に
住む賢勇者シコルスキ・ジーライフ(何とも悪意のある名前だ)と貧乳少女サヨナがゲストキャラの
問題を解決するというのがベースとなっている。
『救水(すくみず)と弟子』
『欲望の樹海』を抜け、シコルスキが住む一軒家にたどり着いた老練の騎士ハマジャック。
気持ちいいという理由だけで甲冑の下は全裸で過ごしてきたため、着脱が容易な新型の甲冑を
王城で披露する際、外した瞬間自身の全裸が露になってしまうという問題があった。
シコルスキは異界のアイテムである救水なるものをサヨナに着せてみて、これを着て甲冑を装着すれば
全裸の快適さを損なうことなく局部を隠すことができると言うが――が簡単なあらすじ。
二人の全裸の男たちが対峙するさまを通じて読者に強い印象を与えているとともに、この話が
どういう話であるかを示唆している(言い換えれば、この類の話がダメな人は今のうちに
やめておけという一種の警告であり、映画『ラ・ラ・ランド』冒頭の高速道路での
ミュージカルシーンを連想させる)。オチは……『スクール水着を着たことがある男性』なら
分かるのではなかろうか。
そして見逃してしまいがちだが、なぜシコルスキが『欲求の樹海』を抜けた先に住んでいるのか、
そして妙に異界の知識に詳しいのはなぜかという疑問を読者に提示しているのが分かる。
『賢勇者と弟子』
時間は少し戻り、賢勇者に弟子入りするべく『欲求の樹海』をさまよっていたサヨナは
キノコ狩りにやってきたシコルスキとユージンの二人組と出会う。どうやらシコルスキは
自分が探していた賢勇者のようだが飄々とした態度に信じ切ることができない。
しかし樹海を一人で行動するのは危険ということでしばしの間行動を共にすることに
したのだが――が冒頭のあらすじ。
おそらく電撃文庫初であろうポンピナーラ(あえてイタリア語にした)の描写に目がイキがちだが、
ここでもまた、そもそも(世間知らずの貴族の娘という推察がなされるものの)サヨナは何者なのか、
そしてサヨナが死のリスクを冒してまで賢勇者への弟子入りを望んだのかという謎が提示されている。
『魔王と弟子』
カグヤ・アテーリアはシコルスキとユージンの父によって倒された先代魔王である父の跡を継いで
魔王となっていたが魔物たちの掌握ができず、部下がまったくいないことをなんとかするべく
シコルスキのもとを訪れるが、どういうわけかカグヤとサヨナのメイド対決が始まってしまい――と
いうおはなし。
結局、「ぼくの考えた超人コンテスト」方式で読者に作らせた魔物たちを電撃文庫編集部に
送りつけるようけしかけ、どうせ続編など出す気は無いのでその後どうなるかなど知ったこっちゃない
という狙って作った酷すぎるオチが待っている。
幕間『運悪く死んだけど二回目の人生は異世界チートで楽勝モードな件』はいかにも
『小説家になろう』に出てきそうな俺TSUEE小説のパロディとなっており、これが次章の伏線に
なっていることが示唆されているのが分かる。
『奇祭と弟子』
サヨナはシコルスキの家のすべての部屋に立ち入りを許されているわけではないが、
書庫への入室を許可され、掃除をしようとしたらそこは地平線の先まで本棚が並ぶ広大な空間だった。
うっかりアダルトな本が収められているエリアに足を踏み入れてしまったサヨナは罰として
シコルスキとともに異世界転生者を元の世界に強制送還する奇祭が行われる村を訪れるのだが――という
ストーリー。
いわゆる「異世界転生チートもの」におけるよくあるストーリーを、転生者を半ば強制的に
受け入れさせられる異世界側からの視点から描いたものであり、言ってしまえば異世界転生ものに
対する辟易とした感じとアイロニーを隠すことなくさらけ出しているとともに、
「異世界転生チートもの」は「小説家になろう」と「カクヨム」から外に出るなという筆者のメッセージを
窺い知ることができる。
『邪教と弟子』
異界からの転生者を強制送還するという部分においてシコルスキと利害が一致するシリアスなものを
とにかく許さない人間が集う会(シリゆる会)会長。彼は家族を隻眼の男に殺され復讐心に燃える
少女・ユズをシリアス路線からコメディ路線へと引き戻すため、シコルスキに協力を求める。
シコルスキは小麦粉の落とし穴、金だらい、激辛シュークリームロシアンという
昭和のバラエティ番組に出てきそうなドッキリを仕掛けるのだが――というあらすじ。
この話だけを切り取るとただ単に仕掛け人とターゲットの話に終始しているように見えるのだが、
本書をすべて読むと今後の展開へのトリガーであるということが理解できるようになっている。
『栄武威と弟子』
旧友アーデルモーデル・ソロウがシコルスキのもとに送り込んだ手紙つきの《エアライド・スター》
(いわゆるドローンのようだ)で呼び出され、王都レオステップに住む彼を訪れたシコルスキとサヨナ。
彼は自分が発明した映像記録装置と再生装置を使い、『栄武威(えいぶい)』なるものを作りたいと
言ってきたのだが――というストーリーだがこれもまた、今後の展開を示唆するものとなっている。
『師匠と弟子』
レオステップ王城に呼ばれたシコルスキは王から雇い入れることを提示されるが、
彼はそれに断りを入れる。
夜。レオステップ王国に半ば強制的に併合された旧インゲイル聖王国の第三王女・ヴェンタリリスは
王の命を狙うべく寝室に闖入する。そんな彼女が見たのは王のXXXXXな姿だった――というストーリー。
ここで各章で提示された謎や伏線が回収されるとともに、(相対的に)シリアスな話となっている。
ただ、どうしてシコルスキに異界の知識(ワニマガジン社・COMIC快楽天に関する情報を含む)が
あるのかという本作最大の謎はどこに行ったのやら。
結論
『ぼくたちの青春は覇権を取れない。』の第2巻が楽しみです。
賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求 ~愛弟子サヨナのわくわく冒険ランド~ (電撃文庫) (日本語) 文庫 – 2019/6/8
有象利路
(著)
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本の長さ328ページ
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言語日本語
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出版社KADOKAWA
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発売日2019/6/8
-
ISBN-104049124564
-
ISBN-13978-4049124569
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「ところでコレ、ホントに出版するの?」編集長の鋭い眼光とその言葉に、相当編集の命は風前の灯火であった。本作は『賢者にして勇者である最強の称号“賢勇者”を持つ男が、弟子(おっとり巨乳美少女)とともに社会の裏に隠れた悪を断罪する』という“ザ・今時のライトノベル作品”としてスタートした。だが作家からあがってきた原稿は、全裸のイケメン(賢勇者)をはじめ、筆舌に尽くしがたい変態仲間たちが織りなすナンセンスギャグギガ盛りの―いわば「なぜか堂々としている社会悪」的な何かであったのだ(ついでにヒロインの胸も削られていた)。「だ、出版します!面白いですから!」超言い訳っぽい担当の言葉は真実か!?答えは―今、あなたの手の中にある。
登録情報
- 出版社 : KADOKAWA (2019/6/8)
- 発売日 : 2019/6/8
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 328ページ
- ISBN-10 : 4049124564
- ISBN-13 : 978-4049124569
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- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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上位レビュー、対象国: 日本
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2019年6月20日に日本でレビュー済み
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19人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2019年6月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
この小説が……と言うことで購入しました。ええ、ネタとしてですが期待を裏切らない出来でした。
レビューとしてはここだけ読めば十分です。「ライトノベルが好きでなんでも許せる方以外にはおすすめできません」。
帯に、『「自己責任」でお読みください』と書かれてあり、帯には裸の主人公のように見える男性が描かれています。
また、『電気文庫・新時代の[汚点]、爆誕』と書かれておりなかなか攻めているなあと思ったものです。
なお、表紙に描かれている女の子はヒロイン(笑)です。それ以上でもそれ以下でもないです。
さらに付け加えますとこの子は裏表紙で「本書をお買い上げいただいたみなさんに、深くお詫び申し上げます」とヒロイン(笑)名義で謝罪されています。
裏表紙側の帯に出版側の内情を語っているのも、それも赤裸々に語っているので一体この本はどこに向かっているのだろうと思ったのです。
内容について。
……ここに書くには余白が、と言いたいところですが充分スペースがありますので書くのではなくやめておきます。
この本はネタとギャグとエロで大半を占めているため元ネタを書こうとすると面倒ですので……。
ジャンプの漫画だったり、ワニマガジン社の宣伝だったり、絵師さんの宣伝……非常に多岐に。
まさに混沌とした内容でした。しかも第1話から割と酷い形の。
ただし内容はともかく作品の流れについてはしっかりとしています。物語の内容はさておき、流れは。
ノックスの十戒ではないですが、きちんと順序だてて書いていますので内容のアレさは除いて読みやすいかと。
それこそ前に出した情報を後で活用されていくのですからそこは充分評価したい点でした。
ただし、登場人物、乗り物、地の文が第4の壁を軽々と破ってきます。
メタもギャグも一通り揃っていますので、ギャグマンガを小説化したらこのような形なのでしょう、と。
面白いことは面白いです。ただし、まともな小説を求める方はご注意を。
ただし、内容のギャグの加減、メタさはともかく小説の書き方は真っ当、しっかりしています。
……だからと言ってあまり人にはおすすめしにくいですが。
ただこう言った小説がたまにはあってもいいのではないかとは思いますので、電撃文庫さんのますますの発展をお祈り申し上げます。
レビューとしてはここだけ読めば十分です。「ライトノベルが好きでなんでも許せる方以外にはおすすめできません」。
帯に、『「自己責任」でお読みください』と書かれてあり、帯には裸の主人公のように見える男性が描かれています。
また、『電気文庫・新時代の[汚点]、爆誕』と書かれておりなかなか攻めているなあと思ったものです。
なお、表紙に描かれている女の子はヒロイン(笑)です。それ以上でもそれ以下でもないです。
さらに付け加えますとこの子は裏表紙で「本書をお買い上げいただいたみなさんに、深くお詫び申し上げます」とヒロイン(笑)名義で謝罪されています。
裏表紙側の帯に出版側の内情を語っているのも、それも赤裸々に語っているので一体この本はどこに向かっているのだろうと思ったのです。
内容について。
……ここに書くには余白が、と言いたいところですが充分スペースがありますので書くのではなくやめておきます。
この本はネタとギャグとエロで大半を占めているため元ネタを書こうとすると面倒ですので……。
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まさに混沌とした内容でした。しかも第1話から割と酷い形の。
ただし内容はともかく作品の流れについてはしっかりとしています。物語の内容はさておき、流れは。
ノックスの十戒ではないですが、きちんと順序だてて書いていますので内容のアレさは除いて読みやすいかと。
それこそ前に出した情報を後で活用されていくのですからそこは充分評価したい点でした。
ただし、登場人物、乗り物、地の文が第4の壁を軽々と破ってきます。
メタもギャグも一通り揃っていますので、ギャグマンガを小説化したらこのような形なのでしょう、と。
面白いことは面白いです。ただし、まともな小説を求める方はご注意を。
ただし、内容のギャグの加減、メタさはともかく小説の書き方は真っ当、しっかりしています。
……だからと言ってあまり人にはおすすめしにくいですが。
ただこう言った小説がたまにはあってもいいのではないかとは思いますので、電撃文庫さんのますますの発展をお祈り申し上げます。
2020年1月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
キャラの名前と設定にインパクトがあり購入しましたが、中身は内輪ネタ、楽屋ネタばかりで末期の吉本芸人の様です。
第四の壁の使い方はデッドプールの様に個人が要所要所で使うならまだしも、ほぼ全編ほとんどのキャラが使用してる状態であり収集がつかず技巧として破綻しており、内容的には作者の関係者に向けた私信程度でありストーリーを補足するものではありません。
例えるなら雰囲気のよさそうな店に入ってみたら店員は商品を勧めるどころかこちらを無視したまま常連客と駄弁ってる。…といった感じです。
この作品は悪ふざけが過ぎた同人誌レベルです。
第四の壁の使い方はデッドプールの様に個人が要所要所で使うならまだしも、ほぼ全編ほとんどのキャラが使用してる状態であり収集がつかず技巧として破綻しており、内容的には作者の関係者に向けた私信程度でありストーリーを補足するものではありません。
例えるなら雰囲気のよさそうな店に入ってみたら店員は商品を勧めるどころかこちらを無視したまま常連客と駄弁ってる。…といった感じです。
この作品は悪ふざけが過ぎた同人誌レベルです。
2020年1月4日に日本でレビュー済み
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下品と下劣とメタ発言の連発。
同人ならともかく、これが大手の出版社から正規に販売されて本屋で売ってるというのが信じられないレベルです。
でも達者な文章力とテンポで読まされてしまうのがクヤシイ。。。
正式にフランス書院から抗議されてしまえ(笑)。
悪い意味でオトコノコ向きの本であり、ノリが受け入れられれば面白いです。
ただ他人には勧められないかなあ・・・あなたが密かに好意を持ってる文学美少女に、あなたがこの本を読んでることを知られたら、多分軽蔑されるでしょう。
そういう本です・・・あとは察して。
同人ならともかく、これが大手の出版社から正規に販売されて本屋で売ってるというのが信じられないレベルです。
でも達者な文章力とテンポで読まされてしまうのがクヤシイ。。。
正式にフランス書院から抗議されてしまえ(笑)。
悪い意味でオトコノコ向きの本であり、ノリが受け入れられれば面白いです。
ただ他人には勧められないかなあ・・・あなたが密かに好意を持ってる文学美少女に、あなたがこの本を読んでることを知られたら、多分軽蔑されるでしょう。
そういう本です・・・あとは察して。