やはり、マルクス・ガブリエルの言説が印象に残った。曰く、「客観的事実」というのは非常に重要であるが、今の時代はその客観的事実を否定する「ポスト真実」の時代である。「ポスト真実」の時代とは「相対主義」の時代である。「相対主義」とは、世界のどこでも通用する普遍的な意義ある概念なんてものは存在しない、存在するのは、土地ごと、文化ごとのローカルな決定だけだ、という考え方である。要するに、「真実」は幾つもあるという考え方である。「ポストモダン」の論理はまさにこの相対主義の論理であった。
「相対主義者」たちは、私たちが自明と考える価値=普遍的な価値が、時代や場所が異なる状況化では妥当性を失い、普遍的価値を信じている人は、他の集団を支配したいだけなんだ、と考える。相対主義者たちの、この「普遍性」を拒絶する態度は、他者から自分たちを分離する新たな境界線を築き、違う場所の違う文化的条件のもとで生きている人の事を、自分とはまったく異なった「他者」としてみなす。そして、究極的にはその他者の事を人間ではない存在と考えるようになり、この「非人間化」の考えは、ただちに暴力の正当化を生み出すことになる。なぜなら相手は鳥や豚のようなものだからである。その非人間化の行きつくとこまで行きついたのがナチスの強制収容所であり、現代の非人間化の典型がパレスチナのガザ地区である。
マルクス・ガブリエルのこの「客観的事実の危機」と「他者の非人間化」という二つのキーワードによる現代社会の分析は誠に鋭いものがある。明らかに事実だ思われることをネット(ガブリエルの言葉によれば、「危険な情報の高速道路」)を使って”フェイク”だと糾弾させ、明らかなフェイクをあたかも真実のように垂れ流すどこかの極右政党、そして、固有の条件に基づいて考えれば、帝国主義的な政策は正当化してもかまわないというどこかの歴史修正主義者たちの考えは、まさしくこのガブリエルの分析を地で行っていると言っても良い。
ガブリエルは、現代社会にはびこるこのような相対主義を、世界は存在しないが、それぞれの領域ごとの「意味の場」は存在するという「真実在論」によって克服しようとする。無限の多元性を強調しながらも、事実や経験の客観性をしっかりと担保する、このような「真実在論」が、嘘でぬり固められた「ポスト真実」=相対主義をこの世から、そして何よりも日本の政治の世界から駆逐してくれることを願う。
最後に、ガブリエルが引用した、ハンナ・アーレントの言葉が印象に残ったので、記しておく。「嘘の世界において、根無し草である大衆は、(現実が間違っているか間違っていないかではなく、現実そのものに合わせるという)多大な想像力によって、終わりのない衝撃を免れ、自分の家にいるかのようにくつろぐことができるのである」
資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐 (集英社新書) (日本語) 新書 – 2019/8/9
マルクス・ガブリエル
(著)
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本の長さ352ページ
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言語日本語
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出版社集英社
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発売日2019/8/9
-
寸法10.6 x 1.7 x 17.3 cm
-
ISBN-10408721088X
-
ISBN-13978-4087210880
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
利潤率低下=資本主義の終わりという危機は、資本の抵抗によって、人々の貧困化と民主主義の機能不全を引き起こしたが、そこに制御の困難なAI(人工知能)の発達と深刻な気候変動が重なった。我々が何を選択するかで、人類の未来が決定的な違いを迎える「大分岐」の時代。世界最高峰の知性たちが、日本の若き俊才とともに新たな展望を描き出す!
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ガブリエル,マルクス
史上最年少で、権威あるボン大学哲学正教授に抜擢された天才哲学者。既存の哲学の諸問題を乗り越える「新実在論」を提唱
ハート,マイケル
政治哲学者。新たな権力の形にいかに抵抗するかの戦略を模索し続け、ウォール街占拠運動をはじめとする社会運動の理論的支柱となっている
メイソン,ポール
ガーディアン紙などで活躍するトップクラスの経済ジャーナリスト。『ポストキャピタリズム』で、資本主義は情報テクノロジーによって崩壊すると主張し、次なる経済社会への移行を大胆に予言。欧米の経済論壇の話題をさらった
斎藤/幸平
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想。Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に―マルクスと惑星の物質代謝』)によって、ドイッチャー記念賞を日本人初、史上最年少で受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
史上最年少で、権威あるボン大学哲学正教授に抜擢された天才哲学者。既存の哲学の諸問題を乗り越える「新実在論」を提唱
ハート,マイケル
政治哲学者。新たな権力の形にいかに抵抗するかの戦略を模索し続け、ウォール街占拠運動をはじめとする社会運動の理論的支柱となっている
メイソン,ポール
ガーディアン紙などで活躍するトップクラスの経済ジャーナリスト。『ポストキャピタリズム』で、資本主義は情報テクノロジーによって崩壊すると主張し、次なる経済社会への移行を大胆に予言。欧米の経済論壇の話題をさらった
斎藤/幸平
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想。Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に―マルクスと惑星の物質代謝』)によって、ドイッチャー記念賞を日本人初、史上最年少で受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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ベスト100レビュアー
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70人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2019年8月17日に日本でレビュー済み
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この書籍の第二部「マルクス・ガブリエル」と、2019.6月に刊行された『欲望の資本主義3: 偽りの個人主義を越えて』丸山 俊一/NHK「欲望の資本主義」制作班 著の、第5章「ガブリエル:資本主義と民主主義の危機を哲学する」と併読することをお勧めする。
Post-Truthと呼ばれる社会状況が、資本主義と民主主義の危機を生むことを分かり易く説明する。
「真実などない」という社会構成主義を徹底的に否定し、「客観的な事実」への言及、正しい概念への言及を強調する。
この2冊を読んでから、ガブリエルの名著『なせ世界は存在しないのか』を読むと理解が促進される。
2019.9月に刊行される彼の著『「私」は脳ではない 21世紀のための精神の哲学』にも期待したい。
Post-Truthと呼ばれる社会状況が、資本主義と民主主義の危機を生むことを分かり易く説明する。
「真実などない」という社会構成主義を徹底的に否定し、「客観的な事実」への言及、正しい概念への言及を強調する。
この2冊を読んでから、ガブリエルの名著『なせ世界は存在しないのか』を読むと理解が促進される。
2019.9月に刊行される彼の著『「私」は脳ではない 21世紀のための精神の哲学』にも期待したい。
ベスト500レビュアー
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1)確かに、「新自由主義」=「緊縮財政至上主義」の下、緊縮財政政策が行われて2000
年頃までは、マクロ経済による回復を成し遂げた。
その一方で、富裕層と貧困層との格差は拡がり、2008年のリーマンショックに端を発する
経済危機に量的規制緩和などの金融政策を打ち出しても一向に回復の兆しを見せないでい
る。何故か!?何かがおかしい!?
2)では、このような世界経済の長期停滞から脱却するには、いかなる行動とるべきか!?
ウォール街占拠運動での理論的支柱を提唱したマイケル・ハート(=MH)氏によると、「
コモン」=「私的所有とは対極の存在」を意識して「下からの」コミュニズムを展開する
ことである。
マネタリーベースを増やして金融機関に融資を促すような「企業に対する量的緩和」でな
く、「人々のための量的緩和」によって、いかに「ヘリコプターマネ-」を人々が享受す
るか!?
BI=ビジネス・インテリジェンスは万能薬ではないが、サンダース現象やコービン現象に
見られる「社会運動」が重要である。そうすることで、”コモン”となりうる”財”を勝ち取
っていくのである。
確かに、MH氏の見解は、政治的目論見から出発し、ある意味で楽観的態度をとる(本人も
自認している)。
しかし、人々の協働や自律性もなく、「上」から=「トランプ」から”同じもの”の施しを受
けたとしても、継続的享受という点で底の浅いものと感じるだろう。
3)次に、ポール・メイソン(=PM)氏によると、50年ごとに景気のアップダウンがおこ
る「コンドラチェフの波」に着目し、リーマンショック後の異変を提唱している。
確かに、これまでであれば、利潤率が下がったとしても加速的に資本蓄積ができれば、利
潤量を増やすことはできた。
しかし、限界費用が限りなくゼロ社会が到来している今、「ポストキャピタリズムの社会
」=「潤沢な社会」への移行は容易ではない。それこそ、IoT(Internet of Things)
=「ありとあらゆるモノがインターネットに接続する世界」によって、スマート社会が実
現すれば「潤沢な社会」に移行するだろう。
しかし、皮肉なことに、GAFAに代表されるプラットフィーム型企業は、アルゴリズムを
駆使し、情報を収集、マーケットのイニシアティブをとる。
また、国家を主導する政権は、低賃金であれ、劣悪な条件であれ、新たな雇用が創出され
続ける限り、「ブルシット・ジョブ」を推進し票を狩得する。
「潤沢な社会」を求めれば求める程に、私たちのプライバシーは丸裸にされ、「非人間性」
の極致に至る。
民主主義は自由競争の原理には反目せず、「資本主義はよいものだ」とされてきたが、こ
こにきて”老朽化”した”民主主義”に至っている。「勤労は善」とする「資本主義の倫理」
がAIによって揺らぐことだってありうる。デジタル封建制の到来なのである。
4)そこで、民主主義に再起動を掛けるマルクス・ガブリエル(=MG)氏の哲学が昨今、
着目を浴びている。
民主主義に再起動を掛ける上で、新実在論を踏まえることは必要だ。「ポスト真実」が作
り出した相対主義は、事実の「自明の理」さえも懐疑的にバイアスを掛けている。
アメリカの福音派キリスト教徒の中には、進化論や天動説を否定する人が多い。外部から
の批判に耳を傾けず自分達の「現実」に生きているのである。福音派に異議を唱える人々
も議論を重ねはしない。それぞれ別々の島宇宙に生きているので何と幸せなことか!!(
287頁)
また、フェイクニュースは炎上して一気に広まる一方で、ファクト・チェックによる訂正
はもはや多くの人々の目には届かず、デマによる印象操作だけが残る(289頁)。
そうすると、相対主義は反知性主義であることがよくわかる。
「知」=「理性」に生きる新実在論とは当然に相容れない。
その上で、新実在論は無限の多元性を示唆するが、意味の場としての“事実もどき”=“自明
の理”に収斂されている。
個人の尊厳、人類普遍の原理という普遍性の枠組みから外れることはない。そこに、わざ
わざ歴史修正主義者に代表される相対主義者は意識的であれ、無意識的であれ資本主義を
おとしめる試みをする。
だからこそ、民主主義の病理的現象には再起動が必要であり、「知」=「理性」に生きる
新実在論に基づく「資本主義の倫理」を取り戻し、「デジタル封建制」から脱却する旅は
続くのである。
5)こんな感じで、理屈をこねくり回して論じてみた。よくわかったような..よくわから
ないような..哲学を経済事象にコラボして資本主義を論ずるのは新鮮だ!!と同時に、
う-む。“哲学”ってやっぱり難しい。
年頃までは、マクロ経済による回復を成し遂げた。
その一方で、富裕層と貧困層との格差は拡がり、2008年のリーマンショックに端を発する
経済危機に量的規制緩和などの金融政策を打ち出しても一向に回復の兆しを見せないでい
る。何故か!?何かがおかしい!?
2)では、このような世界経済の長期停滞から脱却するには、いかなる行動とるべきか!?
ウォール街占拠運動での理論的支柱を提唱したマイケル・ハート(=MH)氏によると、「
コモン」=「私的所有とは対極の存在」を意識して「下からの」コミュニズムを展開する
ことである。
マネタリーベースを増やして金融機関に融資を促すような「企業に対する量的緩和」でな
く、「人々のための量的緩和」によって、いかに「ヘリコプターマネ-」を人々が享受す
るか!?
BI=ビジネス・インテリジェンスは万能薬ではないが、サンダース現象やコービン現象に
見られる「社会運動」が重要である。そうすることで、”コモン”となりうる”財”を勝ち取
っていくのである。
確かに、MH氏の見解は、政治的目論見から出発し、ある意味で楽観的態度をとる(本人も
自認している)。
しかし、人々の協働や自律性もなく、「上」から=「トランプ」から”同じもの”の施しを受
けたとしても、継続的享受という点で底の浅いものと感じるだろう。
3)次に、ポール・メイソン(=PM)氏によると、50年ごとに景気のアップダウンがおこ
る「コンドラチェフの波」に着目し、リーマンショック後の異変を提唱している。
確かに、これまでであれば、利潤率が下がったとしても加速的に資本蓄積ができれば、利
潤量を増やすことはできた。
しかし、限界費用が限りなくゼロ社会が到来している今、「ポストキャピタリズムの社会
」=「潤沢な社会」への移行は容易ではない。それこそ、IoT(Internet of Things)
=「ありとあらゆるモノがインターネットに接続する世界」によって、スマート社会が実
現すれば「潤沢な社会」に移行するだろう。
しかし、皮肉なことに、GAFAに代表されるプラットフィーム型企業は、アルゴリズムを
駆使し、情報を収集、マーケットのイニシアティブをとる。
また、国家を主導する政権は、低賃金であれ、劣悪な条件であれ、新たな雇用が創出され
続ける限り、「ブルシット・ジョブ」を推進し票を狩得する。
「潤沢な社会」を求めれば求める程に、私たちのプライバシーは丸裸にされ、「非人間性」
の極致に至る。
民主主義は自由競争の原理には反目せず、「資本主義はよいものだ」とされてきたが、こ
こにきて”老朽化”した”民主主義”に至っている。「勤労は善」とする「資本主義の倫理」
がAIによって揺らぐことだってありうる。デジタル封建制の到来なのである。
4)そこで、民主主義に再起動を掛けるマルクス・ガブリエル(=MG)氏の哲学が昨今、
着目を浴びている。
民主主義に再起動を掛ける上で、新実在論を踏まえることは必要だ。「ポスト真実」が作
り出した相対主義は、事実の「自明の理」さえも懐疑的にバイアスを掛けている。
アメリカの福音派キリスト教徒の中には、進化論や天動説を否定する人が多い。外部から
の批判に耳を傾けず自分達の「現実」に生きているのである。福音派に異議を唱える人々
も議論を重ねはしない。それぞれ別々の島宇宙に生きているので何と幸せなことか!!(
287頁)
また、フェイクニュースは炎上して一気に広まる一方で、ファクト・チェックによる訂正
はもはや多くの人々の目には届かず、デマによる印象操作だけが残る(289頁)。
そうすると、相対主義は反知性主義であることがよくわかる。
「知」=「理性」に生きる新実在論とは当然に相容れない。
その上で、新実在論は無限の多元性を示唆するが、意味の場としての“事実もどき”=“自明
の理”に収斂されている。
個人の尊厳、人類普遍の原理という普遍性の枠組みから外れることはない。そこに、わざ
わざ歴史修正主義者に代表される相対主義者は意識的であれ、無意識的であれ資本主義を
おとしめる試みをする。
だからこそ、民主主義の病理的現象には再起動が必要であり、「知」=「理性」に生きる
新実在論に基づく「資本主義の倫理」を取り戻し、「デジタル封建制」から脱却する旅は
続くのである。
5)こんな感じで、理屈をこねくり回して論じてみた。よくわかったような..よくわから
ないような..哲学を経済事象にコラボして資本主義を論ずるのは新鮮だ!!と同時に、
う-む。“哲学”ってやっぱり難しい。
ベスト500レビュアー
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偉い学者先生の処方箋を何枚も頂いたのに、その処方箋に書いてある薬を入手する薬局がどこにあるのか探しても見つからないもどかしさを覚えました。
高邁な机上の思想信条も、現実を前にすると、もはや手遅れ、「暴走した金融マネー」「世界を覆う政治の混沌」「自然環境破壊」「原子力発電の問題」ETC・・・ETC・・・ETC・・・、かって木田元先生が哲学なんて「社会生活ではなんの役にもたたない」(木田元著『反哲学入門』P20)と延べていたことを思い出し、「大洪水よ、我が亡き後に来たれ」と、『資本論』のなかでカール・マルクスが例えた言葉をかみしめながら本書を読み終えたのです。
高邁な机上の思想信条も、現実を前にすると、もはや手遅れ、「暴走した金融マネー」「世界を覆う政治の混沌」「自然環境破壊」「原子力発電の問題」ETC・・・ETC・・・ETC・・・、かって木田元先生が哲学なんて「社会生活ではなんの役にもたたない」(木田元著『反哲学入門』P20)と延べていたことを思い出し、「大洪水よ、我が亡き後に来たれ」と、『資本論』のなかでカール・マルクスが例えた言葉をかみしめながら本書を読み終えたのです。
2019年9月22日に日本でレビュー済み
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この本の白眉は何と言っても「あの」マイケル・ハートとの対談であろう。キャッチーなタイトルや表紙とは裏腹に、内容は非常に骨太かつ濃密なものだ。斬新な政策を提示するような新しき政治リーダーを求める姿勢を退け、リーダーなき水平的な社会運動を重視する姿勢は、対立を避け「和をもって尊し」とする日本の左派には極めて斬新に映るだろう。ただ、日本でも護憲運動や野党連合のようなものがあるではないかと言う人もいるかもしれない。しかしこの本で想定されているのはそうした選挙や政策立案を闘いの場に設定する「政治主義」ではなく、エコロジーやテクノロジーといった我々の生活を再生産していくのに不可欠な〈コモン〉をいかに守り、民主的に管理するのかというものである。痛烈な日本の左派への批判である。ハートが次々に言及する新たな形態の社会運動からは、こうした理論的なものの具体的な展開を見ることができる(むしろ運動を緻密にネグリ/ハートが理論化していると言うべきか)。わずか100頁弱の対談ではあるがこれまでの日本の課題をまざまざと見せつけられると同時に、「社会」運動のポテンシャルがよく感じられるものであった。
また、この本を読んでガブリエルの思想に対する見方が変わった。正直、昨年のガブリエルブームの中で彼の新実在論の核心をつかむことができず、彼が出演するTV番組を見てもなぜ資本主義や民主主義についてのコメントを積極的に行うのか、彼の思想との連関が分からなかった。しかしこの本の対談の中で、真実がいくつも存在すると主張するポストモダンを批判し、それに対して普遍的原理を擁護しようとする彼の思想が、明確な反差別姿勢につながっていることが分かり、その連関の一端をつかむことができた。とりわけ8月のあいちトリエンナーレに対する東浩紀氏のようなポストモダン系の人が見せた、相対的な価値観を重視する姿勢から差別に明確に反対することはせず、慰安婦像の問題を党派性の問題に還元してしまうような姿勢を見れば、ガブリエルの思想は今の日本にとっても非常にアクチュアルなものとして映るだろう。
また、この本を読んでガブリエルの思想に対する見方が変わった。正直、昨年のガブリエルブームの中で彼の新実在論の核心をつかむことができず、彼が出演するTV番組を見てもなぜ資本主義や民主主義についてのコメントを積極的に行うのか、彼の思想との連関が分からなかった。しかしこの本の対談の中で、真実がいくつも存在すると主張するポストモダンを批判し、それに対して普遍的原理を擁護しようとする彼の思想が、明確な反差別姿勢につながっていることが分かり、その連関の一端をつかむことができた。とりわけ8月のあいちトリエンナーレに対する東浩紀氏のようなポストモダン系の人が見せた、相対的な価値観を重視する姿勢から差別に明確に反対することはせず、慰安婦像の問題を党派性の問題に還元してしまうような姿勢を見れば、ガブリエルの思想は今の日本にとっても非常にアクチュアルなものとして映るだろう。
2019年10月30日に日本でレビュー済み
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文句なしの五つ星。
とくに、政治哲学者マイケル・ハートとの議論。
何度も読み返し、自分にできることを考えています。
(考えない人が、処方箋がない、と批判的レビューを書いているようですが、それぞれの現場・持ち場で出来ることを考えるヒントは十分に書かれています)
〈コモン〉というのは、たとえば水やエネルギーなど多くの人が、本来、共通に分かち合って、管理してくべきもののこと。
ところが、そういったものが「民営化」=「私有化」され、資本主義のもと、利潤を生み出す手段になってしまっています。(水道の民営化はその典型)
地球環境そのものを<コモン>として扱う。
その視点で、いまの環境危機や気候変動の意味が、よく分かってきます。
資本主義、気候変動、環境、貧困、長時間労働・・。
新聞をにぎわせる様々な問題点が、じつはつながっていることもマイケル・ハートとの議論を読んで、理解できるようになりました。
ぜひ多くの人に読んでもらいたい一冊でした。
とくに、政治哲学者マイケル・ハートとの議論。
何度も読み返し、自分にできることを考えています。
(考えない人が、処方箋がない、と批判的レビューを書いているようですが、それぞれの現場・持ち場で出来ることを考えるヒントは十分に書かれています)
〈コモン〉というのは、たとえば水やエネルギーなど多くの人が、本来、共通に分かち合って、管理してくべきもののこと。
ところが、そういったものが「民営化」=「私有化」され、資本主義のもと、利潤を生み出す手段になってしまっています。(水道の民営化はその典型)
地球環境そのものを<コモン>として扱う。
その視点で、いまの環境危機や気候変動の意味が、よく分かってきます。
資本主義、気候変動、環境、貧困、長時間労働・・。
新聞をにぎわせる様々な問題点が、じつはつながっていることもマイケル・ハートとの議論を読んで、理解できるようになりました。
ぜひ多くの人に読んでもらいたい一冊でした。