悲惨な出来事に対して我々はとかく二元論で考えがちである。虐待においては、生き残った子供と亡くなった子供。
亡くなった子供は世間的にかなりの同情や憐憫を受ける。亡くなった現場への花や優しい言葉などもとかくセンセーショナルだ。
それはもちろん可哀想なことこの上ないのだけど、徹底的な虐待を親などから受けて、
生き残った子供の悲惨さはこの本を見るまで真摯に考えることはなかった。
虐待児が抱え込む愛着障害。これは、半端ではない。狂ったように叫びだしたり、奇怪な行動をとる。
なかでも解離という現象は恐ろしい。人間のスイッチを切ってしまうからだ。
生きていれば、幸せになれる。そんな言葉は、この本にでてくる状況を見ると、消し飛ぶ。
むしろ生きているからこそ地獄の苦しみをあじわうこともある。それが被虐待体験なのだ。
虐待児を引き取り、その行動に悩まされる里親たちの姿も苦しい。
それでも、必死で子供たちを人間にしようとする心ある里親たちの奮闘ぶりには頭が下がるし、唯一の光だ。
最後のケースで出てくる女性は自分の娘に対して、現在進行形で殺意を抱いている。分かっていても止められない虐待の連鎖である。
彼女は自分の娘の誕生日を祝っている時、憎しみや怒りがわくという。自分は祝われたことはなかったと…。祝われている娘が憎たらしいのだ…。
この彼女の戦いは一生続くだろうけど、他人ながら幸せを願わずにはいられない。
一人の人間に幸と不幸のバランスがあるなら、金輪際不幸は訪れないくらいの苦しみを味わっているのだから…。
このようなノンフィクションにありがちな著者のいらない提言などはなく、
ひたすら具体的な人とのかかわりの中でその事象を真摯に追っていく作りがとても濃密でよかった。
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