東日本大震災発生時、被災3県の国立大学がどのような復興支援を行ったか。本書は、著者のライフワークである、3大学の法人化改革も交えながら紹介している。3大学とも規模も研究もバラバラだが、震災以前から培った産学連携、社会貢献のノウハウを活かして、地域でそれぞれの役割を果たしたことが分かる。
社会経済や行政系に強い福島大は、震災後すぐ、福祉系の教員らが学内に避難所を開いた。中越地震で避難所運営の経験があったからこその素早い対応だった。自治体の復興計画にも多くの教員が参加しているという。岩手大は、農・工学部が産業復興に後押しし、東北大は医・歯学部が、救助・検死の最前線に立った。
最も印象に残ったのが、原発被害が続く福島大での授業再開に至る教員間の対立だった。原発爆発後、教員の相当数が県外に避難し「全学生を県外避難させるべきだ」と執行部を突き上げたが、2ヶ月後に大学を再開した。幸いにも、執行部には原子力問題に知見を持つ人がいた。放射線取扱主任者でもある材料工学者として、安全性を科学的に判断できた入戸野学長の「国立大が地域を見捨てることはできない」。反原発派の経済学者だったが、再開遅れによる学生の不利益を考えた清水副学長の「職員は全員仕事しているのに、学生の安否確認もせず教員だけ避難するのは職務放棄」。いずれの言葉にも心に響く。放射性物質の飛散状況が明確ではない3月末に、よく再開を決断したと思う。執行部がまとまらなかったら、再開はいつになったか。執行部は「避難組」の意見を封じず質問に答えた。残った研究者の多くが「避難・残留いずれの選択も尊重すべきだ」という。大学に限らず、福島は今もこの議論は続く。著者の言うように、家族、地域の分断こそ原発事故の最大の害なのかもしれないと感じた。
著者は、被災大学への復興予算格差に強い疑問を呈している。福島大と東北大で100倍の差があるという。福島大は小規模校で医療系学部もないので、ある程度の差はやむを得ない。それでも未曾有の原発災害で避難者の支援を行う大学がこれでよいのか、と問う。
500ページ以上ある本で、法人化改革や研究不正問題など震災と直接関係のない話にもかなり割いているため、やや冗長だ。ただ、取材・インタビューは豊富で綿密。福島大、東北大のように、震災直後の錯綜する状況を描いたルポ、関係者の証言は読み応えがある。
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