本書の著者である芦原義信は、東京大学建築学科を卒業後、坂倉準三アトリエを経て自身の設計事務所を立ち上げ、銀座ソニービルや東京芸術劇場などの代表作を残した建築家で、戦後いち早く都市景観の重要性について主張した人物である。『街並みの美学』は著者が60歳の時に刊行した本である。
本書は全五章で構成されている。「建築の空間領域」と題された第一章は、日本人の「内部」と「外部」空間のとらえかたを扱う。日本では靴を脱いで家に入るが、西欧では靴を履いたまま家に入る。そのような文化的差異に加え、建築の素材や工法を比較しながら、日本と西欧ではそもそもの内外の境界のとらえ方に違いがあると著者は指摘している。第二章の「街並みの構成」では、主にイタリアの広場や街路について分析を行っている。イタリアの街の地図で建物を黒、街路を白に塗り分けたものと、その白黒を逆転したものを並べて示し、反転しても地図の質が変わらないと述べている。これは建築の外壁が街路や広場の輪郭を作り出しているイタリアの空間特性に由来する。その後の三つの章では著者が世界の街を見てきて豊かだと思った街並みについて紹介と考察を行い、日本からの事例では京都の町家の街並みを取り上げている。
西欧のリノベーション建築について述べた文章で、建築の外皮だけを残し内部は近代化した街並みが成立する背景に、西欧における内外の境界のとらえ方が関わっていると著者が指摘していることは注目に値する。現在の日本でも建築の外観保存についてはたくさんの議論があるが、外観を残すだけの保存は意味がないとする考えに対して、著者は、西欧の建築の外壁には広場や街路を作る外的秩序に関わる重要な役割があると述べている。この考えは日本国内にとどまらず、海外の事例を研究してきた著者ならではの視点ではないかと思われる。
この本はややヨーロッパ理想主義的な側面をもつが、日本の街を読み解くうえでの基本的な考え方を示す必読書である。特に建築学科に通う学生は建物と道路を切り離して考えてしまうこともあるが、建築が街路をつくり街路がその地域一帯を豊かにする要素の一つであることを思い出させてくれる。一方で、40年前の本だということを忘れてはならない。著者の考えは当時の日本の大規模な街づくりに大きな影響を与えたが、現在の街づくりにすべてが当てはまるかと言われればそうではない。
最後に、この本では著者自身の体験を含めた多くの海外事例が紹介されるが、評者自身が旅行で実際に訪れたことのある街については、より深い共感と理解が得られたように感じた。よって読者は建築的な経験を積めば積むほどこの本を楽しめると言えるかもしれない。
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