物語の舞台は昭和7年の銀座。
士族出身の上流階級である花村家の令嬢・花村英子と、
その花村家に雇われた、若き女運転手・別宮(べっく)みつ子が、
学校の送り迎えをきっかけに、ちょっとした騒動や出来事を、
スマートにかっこよく、豪快に、やり過ごすお話です。
本書は、前述の若き女運転手である別宮のキャラクターが、
際立っています。
そして登場シーンがまた、いいんです。
令嬢を乗せて運転する女子学習院までの道などを覚えるため、
別宮さんは、正運転手である園田の運転でフォードの助手席に乗ります。
後部座席には令嬢である英子。
一通り走り、自宅を目指したフォードが自宅門前へさしかかると、
騒動に出くわします。
雪駄に着流しの壮士風の男が三人、白木の仕込み杖を抜き、
請願巡査とにらみ合っているのです。
大事なご令嬢に何かあってはと、園田が車を動かそうとしたとき。
別宮さんは助手席のドアに手をかけ、
自分をここで降ろしてほしいと言います。なぜなら、
「お目見得の日でございます。ただ行き過ぎるわけにはまいりません」
だからです。
ここから、別宮さんの見せ場になります。
大立ち回りを演じるアクションが展開されるわけではありませんが、
しかし、ひげ面の男たちを前に一歩も引かず、
自分には花村家の大切な令嬢を守るだけの、技量があることを、
披露するのです。
セリフもさることながら、別宮さんの立ちまわりを描写したこの冒頭に、
私はやられてしまいました。
このあと、別宮さんことベッキーと、令嬢のコンビが、
兄弟やお友達などとの身近な騒動で活躍していくわけです。
本書は270ページ弱のペーパーブック。
巻末には、参考文献、解説、著者のスペシャルインタビュー、
著者の作品リストなども収録されているため、
やや厚みを感じる一冊となっています。
文庫がでているようなので、
そちらの方が手に取りやすいかと思います。
現代が物語りの時代設定となっている小説を多く読む方や、
純粋なエンターテイメントが好みの方も、
立ち読みで中身を確認されることをおすすめします。
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街の灯 (文春文庫) 文庫 – 2006/5/10
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上流家庭・花村家にやってきた若い女性運転手。令嬢の英子は彼女をひそかに〈ベッキーさん〉と呼ぶ。そして不思議な事件が……
- 本の長さ278ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2006/5/10
- ISBN-104167586045
- ISBN-13978-4167586041
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
昭和七年、士族出身の上流家庭・花村家にやってきた女性運転手別宮みつ子。令嬢の英子はサッカレーの『虚栄の市』のヒロインにちなみ、彼女をベッキーさんと呼ぶ。新聞に載った変死事件の謎を解く「虚栄の市」、英子の兄を悩ませる暗号の謎「銀座八丁」、映写会上映中の同席者の死を推理する「街の灯」の三篇を収録。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
北村/薫
昭和24(1949)年、埼玉県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。大学在学中はミステリ・クラブに所属。高校で教鞭を執りながら、昭和59年、創元推理文庫版日本探偵小説全集を編集部と共同編集。平成元(1989)年、「空飛ぶ馬」でデビュー。平成3年、「夜の蝉」で日本推理作家協会賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
昭和24(1949)年、埼玉県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。大学在学中はミステリ・クラブに所属。高校で教鞭を執りながら、昭和59年、創元推理文庫版日本探偵小説全集を編集部と共同編集。平成元(1989)年、「空飛ぶ馬」でデビュー。平成3年、「夜の蝉」で日本推理作家協会賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2006/5/10)
- 発売日 : 2006/5/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 278ページ
- ISBN-10 : 4167586045
- ISBN-13 : 978-4167586041
- Amazon 売れ筋ランキング: - 158,169位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 2,404位文春文庫
- - 3,550位ミステリー・サスペンス・ハードボイルド (本)
- - 17,883位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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北村 薫
1949(昭和24)年、埼玉県生れ。早稲田大学ではミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、’89(平成元)年「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。’91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。作品に『ニッポン硬貨の謎』(2006年本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(’09年直木賞受賞)など:本データは『1950年のバックトス (ISBN-13:978-4101373324 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
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星5つ中の4.3
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トップレビュー
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2015年2月15日に日本でレビュー済み
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昭和7年という微妙な時代。この年代を舞台としてどんな物語が展開されるのか、楽しみだった。ただ、主人公の英子が女学生であるし、上流階級のお嬢様なわけだから、それほど”冒険”も出来ないであろうし、どんな事件が待ち受けてるのだろうと思ったら・・・。ベッキーさんというのは、この女の子ではなくて、新しく雇われた女性の運転手さんのことだったのね。このベッキーさんが鮮やかに事件の謎を解く、といった単純な作りではなくて、ベッキーさんの一言で疑問でなかったことが疑問になったり、英子が謎を解くヒントになったりと、単なる安楽椅子探偵ものとは違い、ふたりのやりとりからどんな結論が出てくるのだろうと、読んでいる方も会話の中に入っているような気になってくるから不思議だ。
この当時の風俗、考え方などもおもしろく、英子は素直で無垢でいいお嬢様だとは思うが、やはりそこは世間知らずのところもあり、ベッキーさんのそばでこれからどのように成長していくのか、ということも楽しみである。
そのベッキーさんだが、謎の多い女性だ。どうやら武術に長け、ピストルの腕前も素晴らしく、教養もありそう。どんな経歴の持ち主なのか。これから徐々に垣間見えてくるのだろうが、最初からわかるのは、英子をとても大切に思っている、ということ。貧しい人々の住んでいる家並みを見て「こんなところとても住めそうにない」という英子に、やんわりと、このような家に住むものに幸福はない、と思うことは傲慢である、と諭す厳しさもある。これに、生意気だなどと反発しない英子も素晴らしいと思う。
礼節の国、日本が丁寧に描かれていて、それも好ましい。ずっとシリーズ化して欲しいと思う。
この当時の風俗、考え方などもおもしろく、英子は素直で無垢でいいお嬢様だとは思うが、やはりそこは世間知らずのところもあり、ベッキーさんのそばでこれからどのように成長していくのか、ということも楽しみである。
そのベッキーさんだが、謎の多い女性だ。どうやら武術に長け、ピストルの腕前も素晴らしく、教養もありそう。どんな経歴の持ち主なのか。これから徐々に垣間見えてくるのだろうが、最初からわかるのは、英子をとても大切に思っている、ということ。貧しい人々の住んでいる家並みを見て「こんなところとても住めそうにない」という英子に、やんわりと、このような家に住むものに幸福はない、と思うことは傲慢である、と諭す厳しさもある。これに、生意気だなどと反発しない英子も素晴らしいと思う。
礼節の国、日本が丁寧に描かれていて、それも好ましい。ずっとシリーズ化して欲しいと思う。
2004年6月11日に日本でレビュー済み
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北村薫の日常の謎シリーズが昭和の時代を舞台にして
繰り広げられます。
でも日常の謎なのにその時代の日常が現代の日常とは違うため
なかなか物語にのめり込んでいくことができませんでした。
登場人物は面白いのだけど、感情移入ができないので
ほのぼのとしたストーリー展開がかえって淡々としているように感じられて
退屈な場面が何度か・・・。
でもベッキーさんの正体など、今後のストーリー展開が楽しみな要素も盛りだくさんなので
続編を楽しみにしています。
繰り広げられます。
でも日常の謎なのにその時代の日常が現代の日常とは違うため
なかなか物語にのめり込んでいくことができませんでした。
登場人物は面白いのだけど、感情移入ができないので
ほのぼのとしたストーリー展開がかえって淡々としているように感じられて
退屈な場面が何度か・・・。
でもベッキーさんの正体など、今後のストーリー展開が楽しみな要素も盛りだくさんなので
続編を楽しみにしています。
2006年6月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
北村の小説が好きだ。
著者の肌理細やかな感性がダイレクトに伝わる文章。透徹した論理で解かれていく謎。そして、聡明さと無垢さが矛盾なく同居したヒロインの人物造詣…。
本書にも先に挙げた北村小説の美点が遺憾なく発揮されている。
この本に納められている3つの短編、どれも良いけれど、やはり出色の出来は表題作『街の灯』だろう。戦前の、美しい軽井沢での上流階級の子息の華やかな社交が描かれているが、読み終えると女の…いや人間の情念の恐ろしさにゾクリとする。
この小説はお薦めです。是非読んでみてください!
著者の肌理細やかな感性がダイレクトに伝わる文章。透徹した論理で解かれていく謎。そして、聡明さと無垢さが矛盾なく同居したヒロインの人物造詣…。
本書にも先に挙げた北村小説の美点が遺憾なく発揮されている。
この本に納められている3つの短編、どれも良いけれど、やはり出色の出来は表題作『街の灯』だろう。戦前の、美しい軽井沢での上流階級の子息の華やかな社交が描かれているが、読み終えると女の…いや人間の情念の恐ろしさにゾクリとする。
この小説はお薦めです。是非読んでみてください!
2020年1月23日に日本でレビュー済み
北村薫氏の作品は初めてでした。どんな作風の方かも知らなかったのですが、読み始めてみれば、本当に美しいお話で。舞台が戦前の上流社会だということもあると思いますが。
まず出だしの文章からやられてしまいました。「家々の屋根のわずか上に、薄藍の雲の連山が見えていた。ちょうど空という水鉢に紺の絵の具を溶いて、それが沈んだような具合だった。雲の向こうはほのかな桜色に染まっていた」。なんと美しい風景描写でしょうか。
それから、ヒロインの花村英子と自家用車の運転手、園田、そしてお父様の会話が始まります。その言葉使いのまたはんなりしていること。当日は友人の有川伯爵令嬢から、雛の宴に招かれて行くところでした。これがまたなんとも言えない優雅さで、当時の上流階級というのはこんな暮らしをしていたのかと驚愕しました。集まってくる娘たちは、みな自家用車でお付の女性を連れて、雛祭にふさわしい柄の着物をまとっています。電気は切られて、篝火とぼんぼりの灯だけで屋敷が照らされ、大広間には歴代の何組もの雛人形が並べられ、桜の花びらを浮かせた白酒とお料理をいただく・・・。こういう催しが、公のもの、各界名士や大使夫人を招待したもの、そして今日の伯爵家姉妹の友人たちのためのものと、3,4日に渡って行われるのだそうです。
他にも、園遊会やら、銀座に運転手付の車で行く時にはお付もついてきて、買物をすればお付の女性が支払いをする、自分では財布を持ったこともないこと、夏になると最初は鎌倉の別荘で海水浴、8月になってさらに暑くなると軽井沢の別荘に避暑に行く、侯爵様の別荘は何万平米も広さがあって、ご自分の馬で軽井沢を散策される・・などなど、ため息が出そうな裕福ぶりです。まだ江戸や明治の気風も残っていたのでしょうか。使用人の側も、お殿様、お姫様と、はっきりと身分が違うという観念を持っていた様子です。
主人公、英子の家は華族ではなく、お父様が元士族で、財閥系会社の社長だということ、そのためか英子自身が言うように「うちはわりと開けているのだ」、と。当時としては画期的だった女性の運転手が英子に付くことになります。文武両道に秀でて、控えめだけれど思慮深い別宮、通称ベッキーさんと英子は、だんだんと心を通わせていきます。
一応ミステリ・ジャンルに分類されると思いますが、本格ミステリやもっとはらはらドキドキの小説を求める方には今ひとつかも。個人的には純文学に近いと感じました。三島由紀夫の「春の雪」を思い出しましたが、あちらが退廃と憂愁いう暗めの雰囲気なのに対して、こちらは明るくさわやかです。箱入り娘でお嬢様だけれど聡明なヒロインが、市中の事件や、軽井沢で避暑中に起きた不可解な出来事の真相を解明します。軽井沢の話は、身近で人が死ぬため緊迫感があります。そして、最初はおっとりのほほんと見えていたお話に、華やかな上流社会の息苦しさや冷たさなど裏面がちらりとほの見えてぎくりとさせられます。時代はこれから太平洋戦争に突入していくはず。先はどうなっていくのでしょうか。
古き良き日本の美しさに一時酔いしれることができました。2冊目、3冊目と話がどんどん展開するようですので、さらに続けて読んでいきたいと思います。
まず出だしの文章からやられてしまいました。「家々の屋根のわずか上に、薄藍の雲の連山が見えていた。ちょうど空という水鉢に紺の絵の具を溶いて、それが沈んだような具合だった。雲の向こうはほのかな桜色に染まっていた」。なんと美しい風景描写でしょうか。
それから、ヒロインの花村英子と自家用車の運転手、園田、そしてお父様の会話が始まります。その言葉使いのまたはんなりしていること。当日は友人の有川伯爵令嬢から、雛の宴に招かれて行くところでした。これがまたなんとも言えない優雅さで、当時の上流階級というのはこんな暮らしをしていたのかと驚愕しました。集まってくる娘たちは、みな自家用車でお付の女性を連れて、雛祭にふさわしい柄の着物をまとっています。電気は切られて、篝火とぼんぼりの灯だけで屋敷が照らされ、大広間には歴代の何組もの雛人形が並べられ、桜の花びらを浮かせた白酒とお料理をいただく・・・。こういう催しが、公のもの、各界名士や大使夫人を招待したもの、そして今日の伯爵家姉妹の友人たちのためのものと、3,4日に渡って行われるのだそうです。
他にも、園遊会やら、銀座に運転手付の車で行く時にはお付もついてきて、買物をすればお付の女性が支払いをする、自分では財布を持ったこともないこと、夏になると最初は鎌倉の別荘で海水浴、8月になってさらに暑くなると軽井沢の別荘に避暑に行く、侯爵様の別荘は何万平米も広さがあって、ご自分の馬で軽井沢を散策される・・などなど、ため息が出そうな裕福ぶりです。まだ江戸や明治の気風も残っていたのでしょうか。使用人の側も、お殿様、お姫様と、はっきりと身分が違うという観念を持っていた様子です。
主人公、英子の家は華族ではなく、お父様が元士族で、財閥系会社の社長だということ、そのためか英子自身が言うように「うちはわりと開けているのだ」、と。当時としては画期的だった女性の運転手が英子に付くことになります。文武両道に秀でて、控えめだけれど思慮深い別宮、通称ベッキーさんと英子は、だんだんと心を通わせていきます。
一応ミステリ・ジャンルに分類されると思いますが、本格ミステリやもっとはらはらドキドキの小説を求める方には今ひとつかも。個人的には純文学に近いと感じました。三島由紀夫の「春の雪」を思い出しましたが、あちらが退廃と憂愁いう暗めの雰囲気なのに対して、こちらは明るくさわやかです。箱入り娘でお嬢様だけれど聡明なヒロインが、市中の事件や、軽井沢で避暑中に起きた不可解な出来事の真相を解明します。軽井沢の話は、身近で人が死ぬため緊迫感があります。そして、最初はおっとりのほほんと見えていたお話に、華やかな上流社会の息苦しさや冷たさなど裏面がちらりとほの見えてぎくりとさせられます。時代はこれから太平洋戦争に突入していくはず。先はどうなっていくのでしょうか。
古き良き日本の美しさに一時酔いしれることができました。2冊目、3冊目と話がどんどん展開するようですので、さらに続けて読んでいきたいと思います。