先月末に早川書房から刊行された公式アンソロジー『伊藤計劃トリビュート』、同社より発行の二号連続に亘る特集を組む『SFマガジン』に続いて、
本書は来月より順次公開予定の劇場アニメ情報・監督インタビューから、公式・非公式問わず伊藤計劃が遺した
ありとあらゆる媒体を元に多数のクリエイター・評論家が彼の本質に迫る論評。
その他、想像豊かなイラストレーションも付録された「ファンブック」と呼称するにはあまりにも豪華かつ重厚な一冊。
開幕見開きの町田肇氏が手掛けた『虐殺器官』での「死者の国(屍者の国?)」の造形たるや凄まじい。
今にも眼前に人工的な腐敗臭と退廃が感じ取れるイマジネーションと新版表紙を務めたredjuice氏とは趣旨の異なったヴィジュアルは
公式での処女作媒体となったハヤカワSFシリーズJコレクションの表紙を彷彿とさせる。
横田沙夜女史のトァンの振り向き姿だが、淡いステンドグラスの様な画風で描かれるこの横顔はなんとも可愛らしくも美しい(鬱くしい?)
『ハーモニー』のビジュアルではこれが一番好みかもしれない(笑)
『屍者の帝国』は中山成子女史の普段のアートワークからは想像も出来ない程にワトソンの横顔とリリスの口元が艶かしい一枚。
「MGS4:ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」はなんとikuyoan氏!
pixivやカズヒラ・ミラーの担当CVである杉田智和氏のラジオでご活躍は予予存じ上げていたが、
ここでお見かけするとは思いもよらなかった…
そして、私が最も喝采を贈りたいのがusi氏の『The Indifference Engine』
AKを片手にシガレットを燻らし、人を殺す、戦争を継続する、自分を証明するその為に。
見下ろす瓦礫の山と血流が焦がす機械板、この上下の好対照は数あるヴィジュアルイメージの中でも特に秀逸で脱帽せざるを得ない。
本題となる『Project Itoh』トリロジー(厳密には屍者の帝国は異なるが便宜上)並びに『The Indifference Engine』を筆頭とする
至極の短篇集の徹底解剖やデビュー以前のエッセーやSS、同人誌や漫画、
中盤での「不毛のタイトル地獄」や「グローバルファイナンスと愛の園」の様なクソしょうもない(褒めてます)閑話も含め
気になるところは幾らでもあるのだが、際限ないので可能な限り『虐殺器官』にフォーカスする。
まず、当該作品はジャンル分けをする時点から複合的な認識を感じさせる。
早い話が『虐殺器官』とは、SFをベースに国際謀略・冒険小説であり、フレデリック・フォーサイスの『ジャッカルの日』の様な人狩り、
尚且つミステリーのエッセンスが入ったちょっとばかし流血量と死体の数が多い「ボンクラ青春小説」でもある。
では、小松左京賞の最終選考で最大の問題点として挙がった「虐殺の器官」の正体については、
ここで他の方々の考察や論評を元に自分なりの結論を出すとすれば、それは「良心」に他ならないと言える。
小財満氏の評論の最後に伊藤氏は自分の事を「オプティミスト(楽観主義者)」と言ったらしい。
そう考えると『ハーモニー』にも同じ事が言えるが、「あの」黙示録の如しラストへの見方も自ずと変わってくる。
ここで私的な意見を申し上げれば、伊藤計劃の遺作は『屍者の帝国』ではなく、
『メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』ではないだろうか?
「これはMGS4のノベライズであると同時に全くの別物だ!」という読了時の感覚が未だに強烈な読後感を齎している故にそう言わざるを得ない。
伊藤氏は発売当時、大多数のファンから大ブーイングだった『MGS2』(2001年発売)の事実上の新主人公だった
「雷電」に一番感情移入していたとの事だが、それも自分にも深く共感できる。
(当時小学生だった私はゲームの主旨や小島監督の意図については何一つ理解できず、無限バンダナで敵兵を虐殺するばかりだったが)
また、オタコン…ハル・エメリッヒを語り手としての役割を当てた事も、
正に「人が他者の物語を語り継ぐ事の意味」を、劇中劇の如く成し遂げたと言っても過言ではないだろう。
「”真実“は語り継がれた瞬間から”物語“になる、創られた物語こそが人々の心を動かすからだ」
-オセロット METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN
そして、『魔法少女まどか☆マギカ』の考察書「成熟という檻」を著した山川賢一氏が
『PSYCHO-PASS』『楽園追放』の原作者であり、ニトロプラス所属のシナリオライター・虚淵玄氏のインタビューを行った。
私自身も震災直後から『魔法少女まどか☆マギカ』が『ハーモニー』との一種の同一性を感じた旨を記した事があったが、
2011年11月ユリイカ臨時増刊号から4年を経て、漸くこの様な場が設けられたのも実に感慨深い。
ミスター虚淵の「役人が怖い」という発言も、『PSYCHO-PASS』に於いて劇場版では治安維持を目的に露骨な内政干渉を行った
主要な省庁である厚生省公安局の強大過ぎる権限描写にも如実に感じ取れるものがある。
「人は己自らがフィクションであることから逃れられない」…この言葉を胸に全国の伊藤計劃原理主義者の皆々様。
先日のトリビュートやSFマガジンを読み込んだ上で自分なりの考えを元に、今秋からの劇場アニメを心待ちに致しましょう。
こんなものを書きたいが為に物置を漁って、貴重な自由時間を割いた為にボンクラな私はすっかり老蛇です。
『屍者の帝国』の劇場アニメを手掛けるのは牧原亮太郎監督、
制作会社はIGポート(プロダクションIG)の系列会社であるウィットスタジオ。
『ギルティクラウン』の絵コンテ・演出を担当し、一昨年中編アニメ映画『ハル』が初監督作となった。
(『ハル』の主人公担当演者は当該作品の主役・ワトソンを務める細谷佳正氏)
公開日が『虐殺器官』と入れ替わりになったが、先に「円城塔」の劇化を拝めるのなら私的には好待遇とみている。
ただ、杞憂である事を祈りつつ…「劇場アニメ」という媒体で映像化されるのは喜ばしい事ではあるのだが、
尺の問題やその他の制約を鑑みると、「テレビアニメ」としてノイタミナの1クール・11話という形式でも良かったのではないかと思った。
…それにしても、小島秀夫監督がKONAMIから放逐され、プロダクションを解体された上に
当該作品に自身の名を冠する事すら許されなくなった事実を彼が知ったら一体どう考えるだろうか?
欲を言えば、小島氏や円城塔のインタビュー・寄稿を読んでみたかったと思う次第である。
緊急追記:『虐殺器官』の制作元であるマングローブが倒産、公式サイトより公開の延期が発表…なんということだ。
三作品の中でも最も高い完成度を誇る制作会社だと思っていたが、「表現技法の追求」という言葉に対して、
あまりにも制作現場の奮闘と悲哀を省みずに手前勝手で好都合な解釈をした自分を恥じる他ない。
どうか稀代の作家によって創り出した処女作が水泡に帰する事だけは避けられるように願うより致し方ない。
追々記:「Project Itoh」チーフプロデューサーである山本幸治氏が11月中に新スタジオ「ジェノスタジオ」を設立との情報が入った。
監督である村瀬修功を筆頭にメインスタッフは全て続投、2016年内の完成・公開を目指すとのことでとりあえず安心。
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。

Kindle化リクエスト
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。