本書の初版(2001年刊行)は、数ある類書の中では、質、量ともに群を抜いた存
在だった。英文契約書を作成するとき、たいへん参考になった。本書は 14年ぶり
の改訂増補版であるが、目覚ましい拡充ぶりが目をひく。頁数は初版の1.7倍に
増え、1300頁になった。
初版は、主として売買契約、ライセンス契約、サービス提供契約、販売・代理店契
約、合弁事業契約などを取り扱ったが、増補版は、秘密保持契約、事業譲渡契約、
エンターテイメント契約、雇用契約、融資契約らが加わった。
本書の用例は訳文ではない。英文そのものの信頼性はかなり高い。たとえば、期限
の利益喪失条項(acceleration clause)については、Event of Defaults の見出し
のもとに雛型が2例あげられており、期限の利益喪失条項を起草するとき、たいへ
ん参考になる。
わが国の契約書には「善良なる管理者の注意義務」という用語が頻出する。本書は
with the due diligence of a prudent merchant をあげているが、どうもしっくり
しない。英米の法律用語辞典には reasonable person [man] が見出語として載っ
ている。定義を読めば、これが「善良なる管理者」に相当することが分かる。
prudent merchant ではなく reasonable [prudent] person [man] とすべきでは
なかろうか。
最近は、和文契約書の英語版を作成する企業が増えている。最近の契約書には「反
社会的勢力の排除」条項が盛り込まれることが多い。その標準モデルを示してほし
かった。企業法務の方々は「社会運動等標榜ゴロ」などの英訳に苦労されているの
ではなかろうか。
本書採録の例文は、オーソドックスな従来型法律英文である。例えば、「するもの
とする」は shall 一辺倒。最近の傾向は shall を文脈に応じて may, must , will な
どで使い分ける。さらに言えば、古臭い legal jargon がかなり残っている。いささ
か古めかしい感を免れない。
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