「一九九〇年代以降、日本の若者たちが学校から仕事の世界へとわたっていくプロセス(=「学校から仕事への移行」)には、どのような変化が生じたのか。その変化は、若者たち自身に、また日本の学校や大学にどのような影響を与えたのか。そもそも、そうした変化は、なぜ生じたのか。僕たちは、そうした変化をどのように受けとめ、どう評価したらよいのか(pp.10-11)」を丁寧に解き明かしていく。
pp.222-223にある、著者による本書のまとめをさらに要約すると、上の問への答はおおむね次のようになるだろう。
1 いま学校や大学では、経済界の要請やそれを受けた政府の教育政策に対応して、キャリア教育・キャリア支援花盛りだが、そうした営みは学校教育本来の姿を歪めている。
2 経済界の要請の背景には、1990年代以降の企業の雇用戦略の転換があり、「学校から仕事への移行」プロセスが大きく変容していることがある。また、学校・大学は、少子化による競争の激化により、経済界や政府の動きに対して自律的に対応する抵抗力を失っていた。
3 現状に問題があるにしても、1990年代以前の「新規学卒一括就職から日本的雇用へ」という仕組みにもデメリットがあり、また、そちらに戻そうとすることも現実的でない。
4 「学校から仕事への移行」の新たなかたちを構築する必要がある。キャリア教育は、正社員以外の進路も視野に入れ、労働者の権利と働くルールについても学習させるべきである。また、中・長期的には学校教育の職業的レリバンス(職業との結びつきや関連性)を強めるとともに、労働市場を「働き方の多様さ」を認めるような方向で改革していくことが必要となる。
「キャリア教育って、結局、自分のことだけしか考えないのではないか?」という疑問をかねがね持っていたので、著者のキャリア教育批判には強く賛同する。「日本の労働者みんなが幸せになる(p.169)」ことを、(キャリア)教育の場でももっと考えていかなければならないだろう。
教育現場にいて、教育政策に関心が無いわけでもないから、薄々は感づいていた/そういうことなのだろうな思っていた部分が多く「目から鱗」という訳ではなかった。
また、職業的レリバンスを強める具体策についても、高校について「普通科高校という制度枠組みをなくして、すべての高校を総合制(普通教育の課程と職業教育の課程を併置する)の高校と職業高校(専門高校)にしていくという構想(p.201)」の実現可能性や効果については疑問も残る。
だが、「学校から仕事への移行」に関する現状と課題はすっきりと整理されているし、なにより「若者たちに共感し、寄り添い、励ましていく『伴走者』としての役割(p.8)」を果たしたいとする著者の熱意が伝わってくる文章が嬉しい。
若者向けの本だが、むしろ中高年の、特に、自分の経験からのみ若者にモノ申したがるような人に勧めたい(自戒を込めてである)。
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