多方面に渡り業績をあげているティロールの一般向け書籍です。格差、気候変動、規制、プラットフォームなど現代社会の様々な問題に対して、経済学ではどう考えるかを冷静な語り口で教えてくれます。極論や感情論、先入観にとらわれず、ロジカルに、冷静に思考することの大切さを示してくれます。
後半の諸問題の分析の明快さもさることながら、本書の真価は、経済学の意義や経済学者の仕事ぶりなどを扱った前半にあると私は感じました。経済危機が起きるたびに無用の長物扱いされる経済学(者)と社会の不幸な断絶を埋めるため、ティロールは経済学がどんな風に物事を扱い、経済学者が日頃どんな生活を送り、何を考えているかを紹介することで社会の理解を進めようとします。批判は単なる無理解から来る部分も大きいからです。
一方で、経済学者の側に対しても「経済学者は、経済学教育を現実に即していて直観的にわかりやすいものにすべくもっと努力しなければならない。そのためには、現代の市場や企業や政府の意思決定の問題点を踏まえて教えることが必要だ」と促し、インナーサークルの評価に閉じこもりがちな「業界」に反省を促します。アクチュアルな政策立案に関与し続けながら、理論面でもノーベル賞を受けたティロールの言葉だけに格段の重みがあります。
いまの日本を見ても、オリンピックのボランティアに報酬を与えるべきか?、携帯電話の料金に政府が介入すべきか?など、経済学の考え方が応用できる問題は数多くあります。ティロールが言うように、経済学者はその知見を生かして、社会に対してアクチュアルな分析と発信を積極的に行ってほしいと思います。
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