本当は、この本についてコメントしたいことが山ほどあるのだが、どうしても言いたいことだけ述べておきたい。グローバル経済になって日本でも食料自給率が大変低い国であることを考えれば他人事ではいられない。そこでは最下層の農業労働者や家畜の現場を考えるにつれ、そういった食料を食べている我々はどうすればよいか、と悩むけれど見て見ぬふりをするか、諦めるか、絶望するかあまり良い考えが浮かばない。
集約的農業によって、環境破壊と土壌汚染が進み、世界規模の地球温暖化や生物の多様性の減少も進み、もはやこのシステムを何とかしなければあと100年もすれば人類どころか、多くの生物の絶滅は避けられない。
とは言っても、私でもこの本を読んで居ても立っても居られない気持ちになったのだが、ちょっと待って欲しい。何より社会活動や政治的活動でそれを食い止めることが本当に出来ると考えているのであれば、この本をしっかり熟読して欲しい。ロビー活動や経済界による政治献金や癒着、大企業にとって有利な法律の数々は、もはや全世界に広がっていてそれを食い止める術は考えにくい。
集約的農業は長期的に見れば、ハイリスク・ハイリターンである。余程の資本力と奇跡的な偶然性でも無ければ飢饉になったり、病原菌に侵食されたり、土壌汚染が進み、やがては土地が痩せ収穫が下がり、莫大な肥料を費やしてさらにコストがかかり、ついには土地を放棄したり、逃亡したり、自殺したりするケースが全世界で後を絶たないそうだ。何故フード・ビジネスが全世界を席巻する様になったのかは、この本の最も読ませるところだ。
だが、私は政治的な解決こそこのシステムを変えることなど出来ないと見切っている。不買運動とか、バズるとかでも不可能だ。それはこの本を読めばわかる。要は新たな批判もその「システム」が囲い込んでしまうからだ。
私は自給自足の生活しかこの「不幸なシステム」を食い止める術は無いと思っている。地産地消が叫ばれて久しいが、それですら大手スーパーやショッピングモールなどが囲い込みをしているし、有機農業にしても、農薬成分を放出する遺伝子組み換えF1品種による有機農業なわけで、さらに土壌汚染を進行させているだけで根本的な解決にはなっていない。まずは「資本」という貨幣のくびきから解き放たれることを本気で考える必要がある。
スーパーやコンビニで「それとなく」自由に買っていると思い込んでいる食料を疑うと、実は選択の余地がほとんどない程限定された環境に追い込まれ「買わされている」ことに気づかないといけないのだ。従って出来ることは、そういった商品に対して「沈黙」と「無視」しかない。そして自ら食するものに責任を持つこと、そして根源的に何を食べるべきかを、哲学的「ではなく」、「科学」的に研究することしか突破口が無いと思う。
そのことにいち早く気づいた土壌学者のデイビッド・モントゴメリーは、「
土の文明史
」という名著を書き、さらに「
土と内臓 微生物がつくる世界
」、「
土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話
」などを読むのをお勧めしたい。私がどう考えているかがわかっていただけるはずだ。さらに、集約的農業で使われるF1品種について書いた、野口勲「
タネが危ない
」とか、清水泰行「
「糖質過剰」症候群~あらゆる病に共通する原因~
」や夏井睦「
炭水化物が人類を滅ぼす【最終解答編】 植物vs.ヒトの全人類史
」といった本を読み、普段食べているものを疑うことを覚えるべきだ。確かにユヴァル・ノア・ハラリで家畜の集約的飼育に嫌悪感を述べた「
ホモ・デウス(2巻セット)
」もあるが、人類の「悪」を書いている割に片手落ちな感が否めない。あとは、微生物学の本を色々と読んでみると良い。
昨今のコロナ禍で死亡者の数や感染者の数が多い国程、この不幸なフード・ビジネスに毒されていることが分かる。そこで食されているものが免疫力を下げ、肥満と糖尿病を増加させていることは明らかで、今回のパンデミックで貧困層はまたもや犠牲者になっているが、無差別に犠牲者が出ることでフード・ビジネスの産業が活性化しないならば長期的に見ればよかったのかもしれないと、怖い考えが浮かんでしまう。
肥満と飢餓――世界フード・ビジネスの不幸のシステム 単行本 – 2010/8/31
ラジ・パテル
(著)
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ISBN-104861822904
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ISBN-13978-4861822902
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出版社作品社
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発売日2010/8/31
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寸法4 x 13 x 19 cm
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本の長さ427ページ
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
世界の農民と消費者を不幸にするグローバル・フードシステムの実態と全貌を明らかにし、南北を越えて世界中で絶賛された名著。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
パテル,ラジ
米国在住のエコノミスト、ジャーナリスト。1972年、ロンドン生まれ。英オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)を卒業後、米コーネル大学で博士号を取得。世界貿易機構(WTO)、世界銀行に、エコノミストとして勤務した。その一方で、アクティビストとしても活躍しており、1999年のWTO閣僚会議(米シアトル)の際の、数万人が参加し世界の注目を集めた抗議行動のオルガナイザーの一人である。世界銀行やWTO、G8やG20などの国際会議の際には、「会場の内外」で的確な批評を展開する論客として多いに注目を集めた
佐久間/智子
アジア太平洋資料センター理事。1996年~2001年、「市民フォーラム2001」事務局長。2002年~2008年、「環境・持続社会」研究センター理事。現在、女子栄養大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員などを務めており、経済のグローバル化の社会・開発影響に関する調査・研究および発言を行なっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
米国在住のエコノミスト、ジャーナリスト。1972年、ロンドン生まれ。英オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)を卒業後、米コーネル大学で博士号を取得。世界貿易機構(WTO)、世界銀行に、エコノミストとして勤務した。その一方で、アクティビストとしても活躍しており、1999年のWTO閣僚会議(米シアトル)の際の、数万人が参加し世界の注目を集めた抗議行動のオルガナイザーの一人である。世界銀行やWTO、G8やG20などの国際会議の際には、「会場の内外」で的確な批評を展開する論客として多いに注目を集めた
佐久間/智子
アジア太平洋資料センター理事。1996年~2001年、「市民フォーラム2001」事務局長。2002年~2008年、「環境・持続社会」研究センター理事。現在、女子栄養大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員などを務めており、経済のグローバル化の社会・開発影響に関する調査・研究および発言を行なっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 作品社 (2010/8/31)
- 発売日 : 2010/8/31
- 単行本 : 427ページ
- ISBN-10 : 4861822904
- ISBN-13 : 978-4861822902
- 寸法 : 4 x 13 x 19 cm
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Amazon 売れ筋ランキング:
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2020年12月3日に日本でレビュー済み
著者のラジ・パテルはオックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、コーネル大学で学位を取得し、WTOと世界銀行に勤務した経験をもつエコノミスト。
現在の食糧供給のシステムは、大国が貧国の農業従事者に壮絶な搾取を行いながら、児童労働を看過しながら、スーパーマーケットに欲望を喚起するあらゆる工夫を詰め込みながら、巨大企業が国家にロビー活動をしながら作られたものだと丹念に暴きだす。ブラジル、メキシコ、インド、アフリカで巨大な多国籍企業や穀物メジャーがやっていることはあまりにも非人道的で、奴隷の名がついていないだけで実質奴隷制度だろうという感想をもたざるを得ない。
そして、このようなフードシステムは脱却すべきであることを強く納得させたうえで、代替となるフードシステムを提案する。そこでは、「現状のフェアトレードは被搾取農家の延命措置にはなっても救済措置にはならない」と断じていたりと、現代のSDGsに挙がっているような論点を否定するような箇所もあった。個人的には、SDGsでも挙げられているエシカル消費やESG投資といった行動は、現行フードシステムをけん制しうるのだろうかと期待しながら読んでいたため、それを無力と一蹴されたことにはショックもあった。
本書の内容として、現行フードシステムの所業を暴きだし、強く批判した点については大きく感化されたが、9章で提示されていた代案についてはまだ十分に咀嚼できてはいない。現在読んでいる別の本によると、現行のフードシステムを”脱却”すべきだという立場の人間と、現行のフードシステムを”浄化”すべきだという立場の両方も存在しているようだ。
Stuffed and Starvedが出版されたのは2008年ということで、当時から社会情勢にある程度変化はあったかもしれないが、依然として途上国の農家は厳しい立場に置かれ続けているように思う。この問題については、情報を刷新しつつ、もっと追いかけていきたい。そんな強い気持ちを持たされるような、力のある一冊だった。
現在の食糧供給のシステムは、大国が貧国の農業従事者に壮絶な搾取を行いながら、児童労働を看過しながら、スーパーマーケットに欲望を喚起するあらゆる工夫を詰め込みながら、巨大企業が国家にロビー活動をしながら作られたものだと丹念に暴きだす。ブラジル、メキシコ、インド、アフリカで巨大な多国籍企業や穀物メジャーがやっていることはあまりにも非人道的で、奴隷の名がついていないだけで実質奴隷制度だろうという感想をもたざるを得ない。
そして、このようなフードシステムは脱却すべきであることを強く納得させたうえで、代替となるフードシステムを提案する。そこでは、「現状のフェアトレードは被搾取農家の延命措置にはなっても救済措置にはならない」と断じていたりと、現代のSDGsに挙がっているような論点を否定するような箇所もあった。個人的には、SDGsでも挙げられているエシカル消費やESG投資といった行動は、現行フードシステムをけん制しうるのだろうかと期待しながら読んでいたため、それを無力と一蹴されたことにはショックもあった。
本書の内容として、現行フードシステムの所業を暴きだし、強く批判した点については大きく感化されたが、9章で提示されていた代案についてはまだ十分に咀嚼できてはいない。現在読んでいる別の本によると、現行のフードシステムを”脱却”すべきだという立場の人間と、現行のフードシステムを”浄化”すべきだという立場の両方も存在しているようだ。
Stuffed and Starvedが出版されたのは2008年ということで、当時から社会情勢にある程度変化はあったかもしれないが、依然として途上国の農家は厳しい立場に置かれ続けているように思う。この問題については、情報を刷新しつつ、もっと追いかけていきたい。そんな強い気持ちを持たされるような、力のある一冊だった。
2010年10月8日に日本でレビュー済み
なぜ、莫大な資金援助をしてもなお、飢餓がなくならないのか。
なぜ、農家は自分の農地で自分の食料を栽培できず、土地を追われ、自殺に走るのか。
自分で植えたはずの作物が、なぜ彼らの生活を支える糧とならなかったのか。
農家から私たちの食卓を結ぶ食料供給システムの根幹をなす残酷な関係が、
詳細かつ裏付けのある資料と共に冷静に分析されています。
またスーパーマーケットの「豊富な選択肢」についても言及し、
私たちがどのように、何を食べているかが、白日のもとに晒される、そんな印象を持ちました。
この手の書籍でありがちな、第三者視点の正義感からのシュプレヒコールのような文体は
うんざりさせられることが多いのですが、
企業とは相反する立場にいるにもかかわらず、偏り穿った表現は見られず、読みやすいです。
また、消費者の問題にも言及しています。
訳者が指摘するように最終章の冒頭も重要ですが、
それ以上に秀逸なのは、最終章における実践の提案だと私は思います。
この書籍で、実名で指摘される多くは多国籍コングロマリット企業で、日本は関係ないと思いがちですが
日本が持つ問題も、訳者によって巻末でまとめられておりますので他岸の火事では終わらないかと(笑)
当事者意識をもつかどうかを問う以前に、もう既に当事者であることを思い出させてくれます。
原著は2005年に出版されたため、リーマンショックについては記載されていません。ご注意ください。
なぜ、農家は自分の農地で自分の食料を栽培できず、土地を追われ、自殺に走るのか。
自分で植えたはずの作物が、なぜ彼らの生活を支える糧とならなかったのか。
農家から私たちの食卓を結ぶ食料供給システムの根幹をなす残酷な関係が、
詳細かつ裏付けのある資料と共に冷静に分析されています。
またスーパーマーケットの「豊富な選択肢」についても言及し、
私たちがどのように、何を食べているかが、白日のもとに晒される、そんな印象を持ちました。
この手の書籍でありがちな、第三者視点の正義感からのシュプレヒコールのような文体は
うんざりさせられることが多いのですが、
企業とは相反する立場にいるにもかかわらず、偏り穿った表現は見られず、読みやすいです。
また、消費者の問題にも言及しています。
訳者が指摘するように最終章の冒頭も重要ですが、
それ以上に秀逸なのは、最終章における実践の提案だと私は思います。
この書籍で、実名で指摘される多くは多国籍コングロマリット企業で、日本は関係ないと思いがちですが
日本が持つ問題も、訳者によって巻末でまとめられておりますので他岸の火事では終わらないかと(笑)
当事者意識をもつかどうかを問う以前に、もう既に当事者であることを思い出させてくれます。
原著は2005年に出版されたため、リーマンショックについては記載されていません。ご注意ください。
2010年11月11日に日本でレビュー済み
「なぜ世界で、10億人が飢え、10億人が肥満に苦しむのか?」――本書は、私たちの日常的な食を通じて、肥満と飢餓という一見対極に見える(けれども世界中で同時進行している)現象が、多国籍食料企業を独り勝ちにする不平等・持続不可能なグローバル・フードシステムの帰結であること、そして私たちにはそのシステムを変革する必要性と可能性があることを、豊富なデータと明晰な考察を通じて、わかりやすく教えてくれる。
本書を読んで痛感するのは、食の生産者と消費者が、市場の価格(駆け引き)を通じてしかつながれないような、一種の敵対的な関係に縛られ続ける限り、私たちが倫理的な食生活を営むのは殆ど不可能だということである。私たちが口にする一杯のコーヒーも、豆を買い叩かれるウガンダの農民にとっては飢餓の原因になりうるし、加工食品の四分の三に含まれる大豆(一キロあたり一トンの水を必要とする)は、アマゾンの先住民が暮らす肥沃な土地を枯らしてしまう。一方でもちろん、国産品だからといって安心できるほど日本の農家が恵まれた立場にあるわけでもないだろう(本書の日本語版解説も秀逸である)。
けれども、著者が主張するように、ともに選択肢を奪われている生産者と消費者が、食に関する自己決定権(「食料主権」)を取り戻すことで、食の流通を独占する企業に搾取されることなく、ともに支え合うことのできる公正なフード・システムを確立していく取り組みは、決してストイックで絶望的な挑戦というわけではない。その証拠に、スローフードに代表されるような、むしろ貪欲で楽しい食の変革は、日本でも確実に広がっている。
日本政府は最近TPP(環太平洋パートナーシップ協定)について「関係国との協議を開始する」方針を決定し、世論調査でも61%の人々が参加を支持しているという(11月8日付読売新聞)。議論の行方を冷静に見極める上でも、ぜひ押させておきたい一冊である。
本書を読んで痛感するのは、食の生産者と消費者が、市場の価格(駆け引き)を通じてしかつながれないような、一種の敵対的な関係に縛られ続ける限り、私たちが倫理的な食生活を営むのは殆ど不可能だということである。私たちが口にする一杯のコーヒーも、豆を買い叩かれるウガンダの農民にとっては飢餓の原因になりうるし、加工食品の四分の三に含まれる大豆(一キロあたり一トンの水を必要とする)は、アマゾンの先住民が暮らす肥沃な土地を枯らしてしまう。一方でもちろん、国産品だからといって安心できるほど日本の農家が恵まれた立場にあるわけでもないだろう(本書の日本語版解説も秀逸である)。
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2011年10月8日に日本でレビュー済み
なぜ世界で、10億人に飢え、10億人が肥満に苦しむのか。肥満と飢餓が同時進行するメカニズムを解き明かすのが、本書だ。
肥満と飢餓には共通点がある。どちらも「貧困」が背景にある点だ。貧しさは、飢餓だけでなく肥満も増加させる。筆者はいう。食料を支配するごく少数の「世界的なフードシステム」が、消費者の生活まで操作して「社会的肥満」を生み出していると。
400ページを超す大部だ。忙しい向きには、読む順序にこつがある。序章で問題意識をつかんだら、まずは最終ページに飛ぼう。環境問題や国際関係の専門家でもある訳者による解説で、身近な我が国自身のフードシステムを知ることができる。
そして次に、著者自身による最終章だ。その前半部に、本書の主眼は凝縮されている。残る各章は、その後でもいい。困窮する農民、大国の思惑、化学工業による変化、消費者を支配するスーパー……。どれもがもはや、知らないではいられない問題となっているだろう。
食べ物は、農家には安すぎるが、消費者には高すぎる。矛盾の解決は容易でない。
「農業とは、自然の営みではない。社会と環境に介入する社会関係の総体なのだ」
という、寸鉄を刺すような著者の警句が重い。
肥満と飢餓には共通点がある。どちらも「貧困」が背景にある点だ。貧しさは、飢餓だけでなく肥満も増加させる。筆者はいう。食料を支配するごく少数の「世界的なフードシステム」が、消費者の生活まで操作して「社会的肥満」を生み出していると。
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