沖縄県那覇市に本社を置く沖縄ツーリスト株式会社(略称OTS)の55年史である。
単独企業の通史でありながら、戦後の沖縄観光産業全体の歴史が俯瞰できる。
それだけOTSという会社の存在感が、沖縄において大きいということもあるし、沖縄の観光産業におけるOTSがこれまで、定期観光バス事業、チャーター便事業、海洋博における海外からの視察受け入れ、そしてレンタカー事業といったように、常に他社に先駆けた事業を切り拓いてきたことが企業史にとどまらず産業史として十分な内容をもって描かれることになった背景にある。
とはいえ、題材の性質だけで企業史と産業史が絶妙にリンクするわけはなく、OTSという企業の創業から成長・発展へ、という物語のなかに、戦後の沖縄、そして日本復帰後の沖縄特有の事情を丹念に書き込んで整理していった著者の語り口の巧みさが、この本の奥行きを広めたのだろう。
著者がOTSを扱うのは2008年に出た『本土に負けない沖縄企業』につづき、二度目のようであるのだが、この本のための丹念なインタビューを重ねたことは、当時の貴重な資料や写真、証言記録などが、本文中随所に豊富に発掘・引用されていることからも伺える。
2008年以降に起こったリーマンショック、新型インフルエンザ、東日本大震災などの出来事は、インバウンド型の沖縄観光に打撃を与えただけでなく、OTSにもダメージを与え、大きな事業転換を迫った。
ただ、それを乗り越えようとしているOTSが描かれたからこそ、本書がより生き生きとしたものに感じられるのであろう。50年史ではなく55年史であるからこそ、本書がより面白くなったのかもしれない。
観光産業の土台が全くなかった沖縄の地にツーリスト企業を起ち上げ、様々な事業に挑戦してきた50年史も興味深いが、最近の沖縄観光危機に立ち向かうOTSと沖縄観光産業界の挑戦を盛り込んだ55年史にしたことで、パワーのある本ができあがったとも言える。
ちなみに本書のカバーに描かれたパッケージ旅行等のパンフレットはすべて沖縄ツーリストが催行したツアー商品の縮刷。本書を読んだ後にこの表紙を眺めると新たな発見があるのも楽しい。
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