本作の面白さは既に伝説級で、何度観ても画面にかぶり付いてしまう日本映画の傑作。
黒澤作品の中でも異色中の異色作だが、世界的にも驚愕の映画だったらしく、ベネツィア国際映画祭で初めて日本作品が金獅子賞を受賞した。翌年アカデミー賞名誉賞も獲得し、11作目にして初めて黒澤明の名が世界に轟いた瞬間だ。
全ての人類史に喧嘩を売るが如き野心的なテーマ、モノクロながら自然光を活かした鮮烈な画面と躍動的かつ溜めもあるカメラワーク、同じ役柄を全く異なる性格で4回演じる達者な役者達、映画用の格好良い殺陣ではなく素人同士の敢えてみっともない決闘を撮るセンス、そして主役は事件当事者達ではなく陪審員的な傍観者、何れもが当時の映画のセオリーを無視していたのだろう。
特に四者四様の自画自賛ストーリーこそ鍵だ。大映と黒澤の制作意図は人間のエゴイズムを嘲笑的に暴くだけだったかも知れないが、欧米映画関係者が日本作品として観た視点は全く違った筈だ。それは「歴史は勝者によって記される」の太古からの欺瞞に挑戦する、敗者日本の未曾有の大胆な試みに映ったからだ。原作通り「歴史の真実は常に藪の中」を、日本が撮ったのだから同じ敗者のイタリアのベネツィアで化学反応を起こした事はある意味で必然だったと言える。それが偶然の産物だったのは大映は映画祭への出品を辞退したのに、イタリア映画制作会社の社長が惚れ込んで無理矢理出品したからだ。だからグランプリ授賞式に日本人が誰も出席しない珍事が起きたし、黒澤も授賞を知らなかった。つまり大映も黒澤も、日本ですらヒットしなかった作品で世界に勝負する気はさらさら無く、ましてや世界的には黒澤は未だ無名なのに世界に訴える大それた作品とは思っていなかった。が、人間と歴史への高尚なアンチテーゼに世界が勝手に盛り上がったのだ。
黒澤の類い稀な映像表現が有ってこその話だが、現実とは何と面白いのだろうと一人合点している。
また、芥川龍之介等の日本文壇が世界に対しても普遍的に通用するメッセージを書き遺してくれた偉業にも感謝したくなる。邦画を世界に知らしめた歴史的作品を丁寧にリマスターしてくれた角川映画、他二団体の英断にも感謝したい。
観る人の立場や主観でこれほど印象の違う作品は恐らく他に類をみない。無理矢理、観客も陪審員に引きずり込むとは何とも罪深い異色の傑作だ。
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