ビザンツ帝国に多少関心がある私としてもいまひとつ、ビザンツ帝国の時代や雰囲気を十分に描ききれていないという点ではこの作品については不満は残るものの。
(北欧出身のヒーローやヒロインがビザンツ帝国に現われること自体は帝国の歴史と照らし合わせてみればそんなに突拍子もない設定でもないことはわかったが。)
更にビザンツ帝国の皇帝としては注目される、享楽好きの父ロマノス二世と悪女の母テオファノ(「ビザンツ皇妃列伝」の井上浩一氏はこのテオファノに同情的ではあるものの、私はやはり彼女は悪女だと思う。)とは似ない有能な君主として知られ、「ブルガリア人殺し」の異名を持つバシレイオス二世。
せっかく、このような興味深い人物までも絡んでくるというのに。
しかし、彼についても勇敢な皇帝、名君であることがほんの少し、触れられる程度でこちらとしては不満。
このように歴史小説として見ようとすればいろいろと不満は残るものの。
だがロマンス小説ではあくまでもロマンスがメインであり、歴史は背景でしかないと考えれば。
ビザンツ帝国の著名人や雰囲気を少し描いた程度でも十分なのかも。
ただ、その代わりに宦官と言えば陰湿で狡猾というイメージを大きく覆す、ダミアンの魅力、そしてヒーローであるエリクさえも凌駕するその圧倒的な存在感は注目である。
確かにもはや三人目の主役としても良い役回り。
知性と共に不本意に宦官にさせられるという屈辱の過去を持ち、また苦悩しつつも、その男らしさや凛々しさを失わない、そのダミアンの姿。
その上、見た目もとても宦官とは思えぬ二枚目振り。
見た目も魂も実に男らしいダミアン。
確かにエリクも彼なりに辛い過去に苦悩はするものの。
だが、とてもこのダミアンの比ではないと想うし。
そのため、どうせロマンス小説の予定調和としてのハッピーエンドが約束されている、ヒロインとヒーローの恋の行方よりもこのダミアンの動向や行く末ばかりが私としては気になった。
また、ロマンス小説としては異色なのは中世のビザンツ帝国が舞台というだけではなく。
ヴァルディス、エリク、ダミアンと彼ら三人ともそれぞれ辛い過去や苦悩を抱えている点。
他にもこうしたロマンス小説ではあまり死人は出ず、出たとしても完全な悪人ばかりなのだが。
だが罪もない哀れな死人が出てしまう所も違う。
全体的にかなりシリアス度が高い内容。
ここら辺は読者の好みが分かれる所かもしれない。
私の好みとしてはできれば善良な人々の死者は出て欲しくはなかったが。
珍しくビザンツ帝国が取り上げられている希少性、また、これが井上浩一氏の「ビザンツ皇妃列伝」のテオファノの息子かとバシレイオス二世を小説の中とは言え、その即位後の姿を見ることができたのも興味深い。
ダミアンの魅力のため、本書の評価は迷うものの今回は評価は星四つ。
他にもいつも章の冒頭に出てくる、ダミアンによる箴言のようなものも面白い。
それからロマンス小説自体も人どうしても気が高いと思われる、イギリスの摂政時代ばかりがこうしたヒストリカルものとしては多くなりがちなのだろうが。
それにしても特に日本で翻訳されるのはほとんどこの時代を扱った作品ばかりなのが残念。
私としてはもう少し、こうした幅広い時代を扱った作品が読んでみたい。
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絹の波間に見る夢は (マグノリアロマンス DG-) 文庫 – 2010/9/9
- 本の長さ439ページ
- 言語日本語
- 出版社オークラ出版
- 発売日2010/9/9
- ISBN-104775515861
- ISBN-13978-4775515860
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
貴族の長男との結婚が決まっていたヴァルディスは、癲癇の発作を起こしたことで家族から厄介払いされた。コンスタンティノープルの奴隷市で皇帝の宦官長であるダミアンに買われた彼女は、恐ろしい陰謀に巻きこまれていく。彼女の唯一の希望は、故郷を追放された男―皇帝の親衛隊に属するエリクだ。ギリシア語を教えてくれる彼にじょじょに惹かれていき、いつの日か、コンスタンティノープルを離れてふたりで暮らすことを願うようになる。だがヴァルディスは、将来の自由と引き換えに、逃亡が不可能なハレムへと送りこまれてしまう。エリクとの愛をつらぬくためにも、彼女は陰謀に加担せねばならず…。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
芦原/夕貴
東京生まれ。早稲田大学法学部卒。文芸翻訳者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
東京生まれ。早稲田大学法学部卒。文芸翻訳者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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ハーレクイン分野のロマンス小説でビザンツを扱ったものがあるとは知りませんでした。ハーレムや宦官が登場したりするようなので、ビザンツとオスマンを同一視したアナクロなオリエンタリズム・ペーパーバックスというイメージがあったので敬遠していたのですが、うっすらとした興味がいつまでも持続するので読んでみました。ノルマン人傭兵と、コンスタンティノープルに奴隷として売られてきたノルマン人女性とのロマンスと活劇の話。
全体としては先入観通りの話ではありました。1960年代イタリアのソードサンダル映画の二時間ドラマ版という感じです。文庫で一ページあたりの文字数は多くはないとはいえ約420頁あるのですが、2/3くらいまでは冗長で、登場人物の名前と地名や建築物名等固有名詞を一括変換すれば、宦官のいる国であればどの時代のどの地域の小説にも瞬時に変更できそうな感じの内容で、正直イマイチです。しかし290頁以降は、ソードサンダル風とはいえ一応ビザンツモノとなっていて、少しとはいえバシレイオス二世が登場します。バシレイオスは”ブルガリア人殺し”と呼ばれているため、1015年から25年の間の話だと特定できます。コンスタンティノープルの雰囲気はあまりでておらず(『 ビザンツの鷲 』の方がまし)、この点もいまひとつとはいえ、バシレイオス二世時代を扱った小説が読めて満足です。バシレイオス二世の描かれぶりは、可もなく不可もなく、という感じ。コンスタンティノープルの住民なのにラテン名の人名がいくつも登場したり、地の文では「ビザンツ帝国」と出てきてしまうのですが、会話文では「新しいローマ」「東の帝国」という感じで、首都も主人公のノルド語のミクラガルド(偉大な都)と呼ばれているなど、そこそこトリップできました。模擬海戦の場面はなかなかの迫力ですし、主人公の二人の間に立つ宦官ダミアンがいい味出しています。同じくバイキングもののローズマリー・サトクリフ作『 ヴァイキングの誓い 』では若き日のバシレイオス二世が登場しており、いつの間にか日本語でバシレイオスニ世が登場する小説が登場していて嬉しい限り。
バシレイオス二世が登場する作品としては、『ヴァイキングの誓い』と漫画『 Theophano: A Byzantine tale 』と並んで貴重な作品となっています。
全体としては先入観通りの話ではありました。1960年代イタリアのソードサンダル映画の二時間ドラマ版という感じです。文庫で一ページあたりの文字数は多くはないとはいえ約420頁あるのですが、2/3くらいまでは冗長で、登場人物の名前と地名や建築物名等固有名詞を一括変換すれば、宦官のいる国であればどの時代のどの地域の小説にも瞬時に変更できそうな感じの内容で、正直イマイチです。しかし290頁以降は、ソードサンダル風とはいえ一応ビザンツモノとなっていて、少しとはいえバシレイオス二世が登場します。バシレイオスは”ブルガリア人殺し”と呼ばれているため、1015年から25年の間の話だと特定できます。コンスタンティノープルの雰囲気はあまりでておらず(『 ビザンツの鷲 』の方がまし)、この点もいまひとつとはいえ、バシレイオス二世時代を扱った小説が読めて満足です。バシレイオス二世の描かれぶりは、可もなく不可もなく、という感じ。コンスタンティノープルの住民なのにラテン名の人名がいくつも登場したり、地の文では「ビザンツ帝国」と出てきてしまうのですが、会話文では「新しいローマ」「東の帝国」という感じで、首都も主人公のノルド語のミクラガルド(偉大な都)と呼ばれているなど、そこそこトリップできました。模擬海戦の場面はなかなかの迫力ですし、主人公の二人の間に立つ宦官ダミアンがいい味出しています。同じくバイキングもののローズマリー・サトクリフ作『 ヴァイキングの誓い 』では若き日のバシレイオス二世が登場しており、いつの間にか日本語でバシレイオスニ世が登場する小説が登場していて嬉しい限り。
バシレイオス二世が登場する作品としては、『ヴァイキングの誓い』と漫画『 Theophano: A Byzantine tale 』と並んで貴重な作品となっています。