こんな話を聞いた。山の麓にある樹齢50年余りの杉の木を10本、地元の森林組合を通じて切ってもらったら、30万かかったという。1本あたりの費用は3万円である。それで幾らで売れた?何と1本あたり3千円だそうな。結局、27万円もの出費で、10本の杉の木を処分”していただいた”ということになる。先祖?が子孫のためにと思って植えてくれた木を、近くに家が何軒かでき、太陽の光を遮るようになったため、仕方なく切ったところがこのザマ?である。麓の木でさえこうなのだから、山の中の木を切ったら一体いくらかかるのか、想像もつかない。木を切った人たちも遠く離れた地方の人たちばかりであったそうな。これでは誰も木を切ろうとしないだろう。今や、木や山が完全な”負動産”と化している。お上がマスコミ等を通じて喧伝するような「宝の山」なんかでは決してない。
また、こんな話も聞いた。木を間引くために、木を植えて何年かした後に、一部分の樹皮をぐるっと剥いで木を枯らす「まき枯らし」という伝統的手法があるそうな。ところが、北国のとある山でこの「まき枯らし」の風景が地元のマスコミで報じられたところ、地方の森林当局から、そういう方法は邪道であり、木がいつ倒れてくるかわからない危険があるから、きちんとチェーンソーで間引く方法でやってくれとクレームがついたそうな。しかし、今や林業をやる人はお年寄りばかりで、チェーンソーを使うこと自体が危険なことだろう。だからこういう方法でやっているのだ。森林当局はチマチマしたことで文句だけは言うが、その地域での林業の在り方とか、もっと大きな物語については何も語らない(というか、語れない)。まさにお役所仕事ここに極まれりである。
この本は今の日本の林業がおかれている状況を赤裸々に描いた好著である。私の見聞きしたささやかな事例と、この本に書かれている林業を取り巻く「絶望的」な状況(補助金漬け、死傷者続出、低賃金、討伐、非科学的な施策等)を重ね合わせると、暗澹たる気持ちになる。
今、日本の農村では、鹿や猪は普通に現れ、熊が現れたニュースもあちこちで聞く。この頃では、高崎山でもないのに、猿の軍団?が頻繁に現れ、年寄りばかりの家の玄関を開け、冷蔵庫の果物を奪って瞬く間に消え失せる。全て山が荒れ果ててしまったからである。この間の台風では千葉県でたくさんの杉の木が倒れたが、実は関西でも昨年の台風で、若い脆弱な杉の木が一山何百本のスケールで倒れ、未だに放置されたままになっている。これから、日本の山の荒廃はますます進み、その保水能力も失われていく一方だろう。
一体日本の林業はどうなるのだろう。おそらく林野庁のお役人たちは林業の本当の実態など何もわかっていないのだろう。いやわかってはいるが、手のほどこしようがないため、現状を覆い隠そうと、マスコミ等を通じて「林業は成長産業」などと、いかにもバラ色の未来があるかのように脚色しているだけなのかもしれない。アメリカから買うF35一機分でもいいから林業対策に費用を回さないと、今に日本は国土の7割を占める山に滅ぼされてしまうのではないか、そんな気がする昨今である。
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