作者のローラ・フリン氏は,ライターということもあり,自伝にありがちな「想い」を一方的に書き綴るというのではなく,構想的にもかなり練られた作品といえる。あるいは小説として読んだほうが作者の意図により近づけるかもしれない。翻訳もこなれていて違和感なく読み通せた。
一方において,練られた構想,小説的ということは,統合失調症者を家族に持った物語を正確に知りたいと思う読者にとってはいささか冗長で,暗喩的な部分にひっかかるかもしれない。それは原題「Swallow the Ocean」にはじまり,三方を海で囲まれたサンフランシスコという舞台,学校で読んだ中国の物語(海水を飲み干す特技のある子どもの話),結びの部分で,母がまだ「正常」だった頃を思い浮かべて,自分が海に呑まれて父親に救われたという幼児体験等々。すべてが直線上に並ぶとも思えず,多少なりとも混乱を与えるだろうが,それがこの作品に厚みを与えていることは確かだ。
時に暴力的で時に作者のいちばん大切なものを燃やしてしまうような母親だが,一貫して作者からも母親からも怨念のようなものは感じられない。読み進めていくうちにいつもベージュのトレンチコートを羽織って年老いていく母親の姿が,読者としていとおしく思えてくるほどだ。これは,著者が作品中で述べているように,他の病気と違って精神の病は本人と病気との区別がつかないこと(対決の構図が描けない),魂の不滅を信じていた母親のその魂はいったいどこにあるのか等を自問するだけの知的な(抽象的な)作業空間を保持しえたことにあるのかもしれない。作者自身は,希有な経験にも関わらずしあわせな家庭を築いたようだ。
いずれにせよ,文学的要素の色濃い本書は,(翻訳では省かれたという)原書末尾の「読者ガイド」で問うているように水のイメージがつきまとう「作品」であるため,原題の「Swallow the Ocean」をタイトルに活かしたほうがよかった(「統合失調症の母と生きて」はサブタイトル?)ように思える。
日本では,夏苅郁子医師が同様の体験を綴っており(「人は,人を浴びて人になる」等),自らも精神を煩い回復までの道のりを克明に記している。両書(両者)比較や類型化は不可能である。一人一人のそのときの「想い」に共感することから,読者それぞれの何かが見えてくるだろう。
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統合失調症の母と生きて 単行本 – 2014/2/8
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私が小学生のころ、母は父のことを「悪魔の手先」と言いはじめた――。
本書は、統合失調症患者の母親に育てられた著者が、幼少期からの家族の闘いの日々を綴った回想録である。
家族の物語は1970年代のサンフランシスコから始まる。
いずれ自分も悪魔と呼ばれるのではないかと母親の言動に脅えながらすごす日々。
家を出た父が起こした親権をめぐる訴訟。
母親の目を盗み、唯一現実を逃れられた姉と妹との3人の遊び。
やがて「妄想型統合失調症」という母親の病名を知らされる。そのとき著者は、
母親に振り回されつづける自分の心の拠りどころができたと回想する。
病とともに生きつづけるのは患者本人だけではない
――この物語は、その当事者や家族の苦悩を理解する第一歩となりうるかもしれない。
医学用語を使わず、小説のような読み心地で
統合失調症とともに生きることの困難さを伝える、秀麗なノンフィクション。
本書は、統合失調症患者の母親に育てられた著者が、幼少期からの家族の闘いの日々を綴った回想録である。
家族の物語は1970年代のサンフランシスコから始まる。
いずれ自分も悪魔と呼ばれるのではないかと母親の言動に脅えながらすごす日々。
家を出た父が起こした親権をめぐる訴訟。
母親の目を盗み、唯一現実を逃れられた姉と妹との3人の遊び。
やがて「妄想型統合失調症」という母親の病名を知らされる。そのとき著者は、
母親に振り回されつづける自分の心の拠りどころができたと回想する。
病とともに生きつづけるのは患者本人だけではない
――この物語は、その当事者や家族の苦悩を理解する第一歩となりうるかもしれない。
医学用語を使わず、小説のような読み心地で
統合失調症とともに生きることの困難さを伝える、秀麗なノンフィクション。
- 本の長さ288ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2014/2/8
- ISBN-10462207799X
- ISBN-13978-4622077992
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
私が小学生のころ、母は父のことを「悪魔の手先」と言いはじめた―。統合失調症患者の母親に育てられたライターが綴る、病とともに生きたある家族の記録。
著者について
ローラ・フリン
Laura M. Flynn
1966年サンフランシスコ生まれ。ウェスリアン大学を卒業後、ミネソタ大学にてクリエイティブ・ライティングでMFA取得。現在ミネソタ大学で創作を教える傍ら、社会活動家、人権擁護家として運動を続けている。 1994年から2000年までハイチに在住し、同国の民主化、人間としての尊厳を求める戦いに深くかかわった。
編著にEyes of the Heart: Seeking a Path for the Poor in the Age of Globalization (Common Courage Press, 2000)がある。
佐々木千恵
ささき・ちえ
1967年生まれ。翻訳家。駒澤女子大学講師。
訳書にフェイ『ショスタコーヴィチ ある生涯』(アルファ・ベータ 2002)、ウォルシュ『10代の子って、なんでこうなるの! 』(草思社 2005)、ワキテル『子どもと家族を援助する 総合的心理療法のアプローチ』(星和書店 2007)、サトクリフ『クイーン 華麗なる世界』(シンコーミュージック 2011)ほか。
森川すいめい もりかわすいめい
Laura M. Flynn
1966年サンフランシスコ生まれ。ウェスリアン大学を卒業後、ミネソタ大学にてクリエイティブ・ライティングでMFA取得。現在ミネソタ大学で創作を教える傍ら、社会活動家、人権擁護家として運動を続けている。 1994年から2000年までハイチに在住し、同国の民主化、人間としての尊厳を求める戦いに深くかかわった。
編著にEyes of the Heart: Seeking a Path for the Poor in the Age of Globalization (Common Courage Press, 2000)がある。
佐々木千恵
ささき・ちえ
1967年生まれ。翻訳家。駒澤女子大学講師。
訳書にフェイ『ショスタコーヴィチ ある生涯』(アルファ・ベータ 2002)、ウォルシュ『10代の子って、なんでこうなるの! 』(草思社 2005)、ワキテル『子どもと家族を援助する 総合的心理療法のアプローチ』(星和書店 2007)、サトクリフ『クイーン 華麗なる世界』(シンコーミュージック 2011)ほか。
森川すいめい もりかわすいめい
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
フリン,ローラ
1966‐。サンフランシスコ生まれ。ウェスリアン大学を卒業後、ミネソタ大学にてクリエイティブ・ライティングでMFA取得。現在ミネソタ大学で創作を教える傍ら、社会活動家、人権擁護家として運動を続けている。1994年から2000年までハイチに在住し、同国の民主化、人間としての尊厳を求める戦いに深くかかわった
佐々木/千恵
1967年生まれ。翻訳家。駒沢女子大学講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1966‐。サンフランシスコ生まれ。ウェスリアン大学を卒業後、ミネソタ大学にてクリエイティブ・ライティングでMFA取得。現在ミネソタ大学で創作を教える傍ら、社会活動家、人権擁護家として運動を続けている。1994年から2000年までハイチに在住し、同国の民主化、人間としての尊厳を求める戦いに深くかかわった
佐々木/千恵
1967年生まれ。翻訳家。駒沢女子大学講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2014/2/8)
- 発売日 : 2014/2/8
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 288ページ
- ISBN-10 : 462207799X
- ISBN-13 : 978-4622077992
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,242,821位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 27,483位英米文学研究
- - 123,708位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
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