著者は本書の序文で、「 やさしい 統計」 の よう に 初歩 の 話題 や 個々 の メソッド の 使い方 を 丸暗記 する ため の 表面 的 な 実用書 と, 高度 で ひどく 難しい 専門 書 の 2 つ に 分かれ て しまっ て, それ を つなぐ 中間 レベル の 本 が 欠け て いる ので ある」と述べている。
確かにその通りかもしれない。私自身も学生時代、いきなり確率空間、確率測度云々から始まる講義についていけず統計学の単位取得を諦めたが、「袋の中の赤い球、白い球・・・」から始まった別の講義に出会ったことで、救われた経験がある。統計学については、実務になんとか使える程度の理解は持っていたつもりであるが、確率測度云々をすっ飛ばした後ろめたさ、なぜ中心極限定理が成立するのだろうかという疑問は何十年もくすぶり続けていた。本書を読んでこのモヤモヤはかなり解消された。
3章、4章の確率微分方程式、伊藤のレンマ、確率測度、ルベーグ積分等の解説は素晴らしい。こういうトピックスは喘ぎながら山を登るように一行一行を追うだけで苦行のはずだが、ぐんぐん読ませる。また、「正規分布の密度関数の二つの変曲点の距離の1/2が標準偏差に等しい」とか、「ポアソン分布やベキ分布も正規分布をベースに特殊化を行ったり、バイアス構造を入れたりする形で成り立っている」等、統計学的なトピックスについても目を開かされる発見が多かった。
一方で、ブラック・ショールズ理論周辺の金融・経済的なトピックスについては、かなり誤解を招く表現、議論が目立った。著者も序文で金融関連の記述に関してはデフォルメをしていると認めており、上級編まで読むと著者の意図が理解できる部分もあるが、特に「文系側からのアプローチ」の中にはさすがにデフォルメをし過ぎた記載が多く、返って逆効果ではないか。例えば、ジュラルミンの価格と、それと100%連動しつつ上向きに放物線のように湾曲した曲線の形で連動する契約の価格を同じと仮定して議論を進めているが、両者の価格が同じという仮定は経済合理性に適わないので(価格が上がるときにはより上昇し、下がるときには値下げ幅が小さい商品に同じ価格はつかない。)、こうした経済合理性に反した仮定に基づいて導いた結果に「文系側からのアプローチ」として経済的な意味を与えようとすると、話がかえって分かりにくくなる。
もう一つ。本書の随所に顔を出す正規分布万能論的なトーンも気になっていたが、著者のブログにある本書の「あとがきに代えて」http://pathfind.motion.ne.jp/atogaki.htmlを読んで、スッキリ。「複雑系」の視点を踏まえた本書の続編に期待したい。
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