つい本を買った理由からレビューを書き始めてしまいがちですが、(経緯が長くなるのと)本の評価自体には関係しないので今回は止めときます。
この本の書名にリーマンの文字は有りませんが、リーマン予想はゼータ(関数)についてのものなので、この本もリーマン予想に関係する一冊です。
この本は書名どおりの三部構成になっていて第Ⅰ部が高校生以下のレベルを前提にしたと思しき素数にまつわる話題、第Ⅱ部が大学生レベルと思われるゼータ関数に関わる話題(第9章のタイトルが「高校生のための素数定理」となっていますが、あくまで高校数学の知識だけを前提にしたという意味で、第II部自体は高校生向けではないと思います)で、著者の先生も共著者だった前著の『リーマン予想のこれまでとこれから』で詳しかったセルバーグのゼータ関数が少ししか出てこない(とはいえ一章(第11章)があてられています)代わりにラマヌジャンの話が詳しいのでラマヌジャンとリーマン予想の関係について関心があれば参考になるかと思います。
第Ⅲ部はこの本の出版当時の先端的話題で大学院向けと思しき(実際に大学院の講義で使われたこともあるようです)、著者の先生も関わっていたらしいサルナックを中心とした研究の話題です。
当時活発に研究されていたらしい先端テーマにまで話が進むので、一般読者には縁遠い学術書のように思われそうですが、予備知識は極力必要としないようにまとめられていて、著者の先生の読み物風の語り口もあって(細かい話はもちろん分かりませんが)かなり読みやすい本だと思います。
またまえがきのふたつの世界の表にも示されているとおり、素数という純粋な数学の対象と思われがちなものが、実際には「素なもの」という位置付けから素粒子物理学にも関わってくるらしい、という話は興味深いところです。
ただまえがきの比較表で統一理論に対応するのがリーマン予想となっていますが、黒川、小山両先生の他の本に出てくる話からするとラングランズ・プログラム(またはラングランズ予想)とした方が良さそうな気がします。
第III部の内容からすれば、リンデンシュトラウスや(この本では出番が少ないですが)モンゴメリーとオドリツコが表紙を飾っても良さそうですが表紙には登場しません。
また素粒子物理学と関連する話題としては黒川先生の本に出てくるウィッテンのゼータ関数というのも登場しません。
そんなわけで式の操作ばかりで理解不能な、有りがちな数学書に比べれば、総じて読み易くて分かった気にもさせてくれるのでリーマン予想に関心があればお薦めできる一冊かと思いますが、表紙の面々からも窺われるように著者の先生も関わっていたサルナック周辺の話題に偏り過ぎている気がするので星4つにしておきます。
因みに細かいところですが、この本には巻末に参考文献のページは無く、随時、欄外の註記に参考文献を記載するスタイルですが、第III部に何年の誰の成果なのかの記載があっても、それが載っている論文名が無いものが散見されるのは(もちろん実際にそれを直接読むことはあり得ませんが)多少不親切な気もします。
また前著の『リーマン予想のこれまでとこれから』に繰り返し言及されているので、この本もあった方が良さそうですが、当時の先端の話題にも触れている、この本よりどういう訳か難しかったりするので、参照してもあまり参考にはならないかも知れません。
蛇足ですが、リーマン予想(とゼータ関数)に関する本なら同様で、この本に限った話ではないと思いますが、個人的には、かなりマジな意味で総積記号の意味を理解したのがこの本の読解の糸口でした。
更に蛇足で理屈が分かっていない個人的な印象を言えば、クリティカル領域(臨界領域)の内部は量子的世界というよりはブラックホールの内部って気もします。
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素数からゼータへ、そしてカオスへ 単行本(ソフトカバー) – 2010/12/7
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《ゼータ関数》と《数論的量子カオス》への最新で画期的な入門書。リーマン予想も視野にとらえた、魅力あふれる世界へ読者を導く。
- 本の長さ229ページ
- 言語日本語
- 出版社日本評論社
- 発売日2010/12/7
- 寸法15 x 1.3 x 21 cm
- ISBN-104535785538
- ISBN-13978-4535785533
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
最先端の数論を創る人々をめぐる旅。2010年フィールズ賞“量子エルゴード性”も解説。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
小山/信也
1962年新潟県に生まれる。1986年東京大学理学部数学科を卒業。1988年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程を修了。その後、プリンストン大学客員研究員、慶應義塾大学助教授、ケンブリッジ大学ニュートン数理科学研究所所員、梨花女子大学客員教授などを経て、現在、東洋大学理工学部教授。専門は整数論・ゼータ関数論・量子カオス。理学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1962年新潟県に生まれる。1986年東京大学理学部数学科を卒業。1988年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程を修了。その後、プリンストン大学客員研究員、慶應義塾大学助教授、ケンブリッジ大学ニュートン数理科学研究所所員、梨花女子大学客員教授などを経て、現在、東洋大学理工学部教授。専門は整数論・ゼータ関数論・量子カオス。理学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 日本評論社 (2010/12/7)
- 発売日 : 2010/12/7
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 229ページ
- ISBN-10 : 4535785538
- ISBN-13 : 978-4535785533
- 寸法 : 15 x 1.3 x 21 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 620,738位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 1,030位代数・幾何
- カスタマーレビュー:
著者について
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1962年新潟県生まれ。1986年東京大学理学部数学科卒業。1988年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。理学博士。米国プリンストン大学客員研究員,慶応大学助教授,ケンブリッジ大学ニュートン数理科学研究所員、梨花女子大学客員教授などを経て現在、東洋大学理工学部教授。
1990年より、アメリカ数学会Mathematical Reviews誌執筆者として、120篇以上の抄録を執筆している。
1995年、学位論文「Spectra and Zeta Functions of Arithmetic Groups」により、井上科学振興財団井上研究奨励賞を受賞。
専攻/整数論、ゼータ関数論、量子カオス。
カスタマーレビュー
5つ星のうち3.3
星5つ中の3.3
23 件のグローバル評価
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数学と物理が得意な大学上級生以上にむけた内容です。解析と代数系、それに量子力学をひととおり学んだレベルであれば、あるていど興味深く読めるでしょう。ただし全体の内容は、リーマン予想に関する最近の研究の中間報告といったようなものです。関連分野の研究者や著者の関係者以外には、話の範囲が限定的で、あまり楽しめない可能性大。また薄い本の割には、なみの専門書より値段も高いですね。リーマン予想やゼータ関数そのものに興味のある人は、むしろ 『Riemann's Zeta Function』 を読んだほうが参考になるでしょう。一般むけのリーマン予想本では、 『素数に憑かれた人たち ‾リーマン予想への挑戦‾』 が分かりやすくオススメです。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2011年6月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書は3部より成る.第1部は2章から成るが,極めて初等的な内容である.第2部は第3章から第8章まで,ラマヌジャンのL関数の導入から,正規化され一般化されていく話が,数式をきちんと提示しながら興味深く語られる.ゼータに興味のある人はぜひ一読されたい.第9章は素数定理の概説である.第10章と第11章は第3部への準備である.第10章以下を読む場合は,著者の前著「リーマン予想のこれまでとこれから」を読んでからの方がよい.第3部はゼータ関数のゼロ点の分布と何らかの作用素の固有値との関連を扱う.これは研究の最前線からのレポートであり,相当難解であるが,著者が最も書きたかったことであろう.ラプラシアンの固有値問題を量子力学のシュレディンガー方程式からのアナロジーでとらえて,固有値の漸近挙動がプランク定数のゼロ極限で捉えられるのではないかという皮算用は,どうやらだめらしい.数論的な場合のラプラシアンのスペクトルは,漸近的に量子エルゴード的になっているようだ.最終章では,ゼータのゼロ点の漸近分布の相関関係がランダム行列の固有値の相関関係とそっくりだという話の詳しい説明がなされる.
固有関数uを量子力学的に解釈するとき,本書では|u|を確率,|u|^2を確率振幅と呼んでいるが,正しくはuそのものが確率振幅,|u|^2が確率(精確には確率密度)である.186ページの最下段の式はおかしい.式の変形に不要なばかりでなく,間違っている.
固有関数uを量子力学的に解釈するとき,本書では|u|を確率,|u|^2を確率振幅と呼んでいるが,正しくはuそのものが確率振幅,|u|^2が確率(精確には確率密度)である.186ページの最下段の式はおかしい.式の変形に不要なばかりでなく,間違っている.
2015年12月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「リーマン予想のこれまでとこれから」でセルバーグ跡公式関連を
多少知ることができ、本書にてさらにそれにかかわることを読むこ
ともでき、保型形式について理解が深まったと思います。また、物理
との関連性に触れられています。
お金でももらえない限り絶対に本格的にはやるまいと考えている僕の
ようなアマチュアには十分満足のいく本であったと思います。
星満点ではない理由を申し上げますと、ずば抜けた天才高校生でも
ない限り本書に書いてあることを知らなくてもいいでしょうし、ま
ずわからないと思います。もうすこし読者層を絞って読破するため
に必要な比較的上級な基礎知識(双曲幾何、抽象代数、関数解析)
にページを割いていただけたらよかったと思います。
学部で素数定理以降をやるのは(できるとは思いますが)聞いたこと
がないので、学部3・4年生で大学院を考えている人・解析数論に
興味を持っている人、セルバーグにあこがれている人等に最適な本
だと思われます。
多少知ることができ、本書にてさらにそれにかかわることを読むこ
ともでき、保型形式について理解が深まったと思います。また、物理
との関連性に触れられています。
お金でももらえない限り絶対に本格的にはやるまいと考えている僕の
ようなアマチュアには十分満足のいく本であったと思います。
星満点ではない理由を申し上げますと、ずば抜けた天才高校生でも
ない限り本書に書いてあることを知らなくてもいいでしょうし、ま
ずわからないと思います。もうすこし読者層を絞って読破するため
に必要な比較的上級な基礎知識(双曲幾何、抽象代数、関数解析)
にページを割いていただけたらよかったと思います。
学部で素数定理以降をやるのは(できるとは思いますが)聞いたこと
がないので、学部3・4年生で大学院を考えている人・解析数論に
興味を持っている人、セルバーグにあこがれている人等に最適な本
だと思われます。
2013年4月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
素数の話から始まり、素数の研究になぜゼータなのか、その理由に気付かせてくれる。ゼータのいろいろな関数を解説しているのでゼータ入門にふさわしい良書である。そして数論的量子カオスについてと題して、保型形式の存在理論、数論的量子カオスの概要、量子エルゴード性、最後にランダム行列理論と最先端の物理学と結びついた話題を解説している。ただし節の理解には筆者の前著「リーマン予想のこれまでとこれから」を読んでいることが前提として書かれれいる。