池井戸作品は、銀行を舞台にしたものが多い。「金貸し」組織の周りでうごめく人たちの欲のぶつかり合いをわかりやすく描くのが特長だ。
この作品は、大型トラックの構造欠陥を隠ぺいしたい大手メーカー、その大手メーカーと同系列の大銀行、そして不運にも欠陥トラックで死傷事故を起こした小さな運送会社の関わりを取り上げている。
このストーリーに似た過去の「実例」を思い浮かべつつ、大きな組織と小さな組織で暗躍する人たちの生き様を純粋に楽しんだ。特に、週刊誌のスクープネタになるかどうかの瀬戸際の描写はリズム感が豊かで夢中になった。
しかし一方で、物語の後半に差し掛かるとストーリー展開に粗雑な部分が見え隠れするようになったのは残念だった。とりわけ、トラックの構造欠陥を告発した大手メーカー社員(沢田)の心情をもっと丁寧に描いて欲しかった。また、登場人物がやや多く感じられ、物語の視座が時折ぐらついている印象を受けた。星を4つにしたのはこうした違和感を感じたからである。
とはいえ、池井戸作品は「はたらく人たち」の心情を愚直に追及し、「そうせざるを得ない」世界観をわかりやすく発信して、「今日を生き抜こう」という素朴な元気に結びつく点が一番気に入っている。池井戸作品を読み重ねていくと、「人は良いことと悪いことを当たり前のようにする」ことが大変良くわかる。様々な「人のあわれ」を学べる作品といえる。
最近の作品は、わりと早くにドラマになり、映画となって楽しみ方の種類を選べるのが良い。引き続き追いかけたい作家である。
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