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[高山 環]の空っぽな未来

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空っぽな未来 Kindle版

5つ星のうち 3.0 5件のカスタマーレビュー

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商品の説明

内容紹介

主人公の小山は小学生の時、早朝の校庭に机が並んでいるのを発見して騒ぎになった。二十年後、外資系企業に勤務する小山は、同級生だった織田和美と再会。小山と織田は小学生の頃ふたりで物語を作っていた。やがて二人は付き合い始めるが、「言葉が枯渇する」ことに織田は怯え始める。次第に寡黙になっていく織田は事故に巻き込まれ、小山も会社でトラブルに巻き込まれる。見え隠れする過去の記憶。過去と現在が交錯し、一組の男女がすれ違うミステリー。全編を見なおした改訂版です。

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 その日、誰よりも早く僕は学校へ行った。
 二階にある子供部屋の窓から見下ろすと、街には春の朝靄が立ちこめていた。小学生の僕にとって、早朝はとても新鮮なものだった。何かが始まる予感に世界は満ちていた。新しいものに生まれ変わるために、壊れ物を護る綿のように白い霞みは様々なものを包み込んでいた。
 家族を起こさないように、ゆっくりと静かに階段を降りて、乾いたコーンフレークに冷たい牛乳を注ぎ、スプーンですくって食べた。カーテンが閉じられた食卓は薄暗く、薄暮とは異なる種類の静けさが広がっていた。
 音を立てないように玄関のドアを開けて、学校へ向かった。
 耳が痛くなるぐらいの静寂の中、ずしりと重いランドセルを背負って、誰もいない住宅地を僕は歩いた。僕の足音だけが路傍に残った。人がいない通学路は日常と異なる場所へ繋がる通路に思えた。
 街中に入ると何台もの車が道を走り抜け、幾人かの新聞配達人が記号のように僕の前を通り過ぎた。新しい一日を始めるために多くの人が色々な準備をしていた。早起きした自分もその活動に参加しているようで嬉しく思えた。
 僕は飼育委員でウサギの係だった。学校で飼っているウサギが妊娠していて、そろそろ出産する兆しがあった。その日はウサギが心配になり、生まれていないか確認するために僕は早朝に学校へ行こうとしていた。出産時に興奮した母親ウサギが子供を殺してしまうことがあると動物図鑑で読んだからだ。
 小さい街を抜けると湖の畔に出た。湖面から湧き出るようにいっそう深い靄が水面を覆い隠していた。湖畔の道を歩くと丘が見えてきた。小学校は丘の上にある。丘の麓にある校門をくぐり、坂を登り切ると校庭に辿り着くことができる。
 靄の中に浮かぶ校門がいつもよりも巨大で恐ろしいものに感じた。決して触れてはいけないもののように。門柱に僕らの学校名と警句のような標語が書いてある。『全てにおいて、正しい振る舞いを!』
 鉄柵の隙間から手を伸ばし、閂を外して、自分が通れる幅だけ校門を開けた。ランドセルを挟まないように気をつけながら、校門を通り抜けた。見上げると、靄の奥で丘の頂上は蜃気楼のようにぼやけていた。
 その風景を見たとき、僕は不安な気持ちになった。自分の足下が少しずつ消えていく感じがした。振り向くと、今通ってきた道は朝靄の中に消えていた。恐ろしいほど遠くの方から電車の音が僕に対する何かの警告のように響いた。心臓がどきりとした。朝がはじまっているはずなのに、少しも明るくならない。白い空間の中で世界は生まれ変わることなく更なる混迷を深めているようだ。親密だった時間が徐々に冷酷なものに変貌を遂げていく。
 僕は引き返そうと思った。誰かに言われて来たわけではない、自分で決めたことだ。今日はまだ産まれないと思う。図鑑にでていた出産直前のウサギはもっとお腹が大きかったような気がする。そもそも僕が出産に立ち会えたとしても、何も出来ない。母親のお腹からでてきたウサギの足を引っ張るわけにいかない。馬ではないのだから。
 いや、僕は戻るわけにはいかない。改めて僕は思う。誰が決めた訳じゃない、自分で決めたからこそ、僕は自分の計画を確実に実行する必要がある。自分で決めたことは、自分でやり遂げなければならない。
 校門をゆっくりと閉めた後、ランドセルの肩紐に親指をかけて、僕は丘を登り始めた。踏み込む足に必要以上の力を込めた。僕が前に進むと、僕の存在に気がついたように、白い靄が僕を包み込む。世界と一緒に僕を消し去るように。目を瞑りたくなったが、僕は顔を上げ白い世界を見つめ続けた。
 いつもはあっという間に着く校庭までの坂道がとても長く感じた。死刑囚が歩く最後の通路もこんなに長いのではと想像する。周りの森では僕を狙って得体の知れない魔物が息を潜めているように思えた。
 やがて地面が平坦になり、校庭の隅に僕はたどり着いた。靄の上に校舎の頭だけが出ている。校庭に着いたことで僕は軽く安堵した。ここは僕が馴染みのある場所だ。ここまで来れば何も僕には近づけない。校庭の端にある飼育小屋へ行くために、校庭の中央を横切ろうと再び一歩踏み出した。
 少し進むと、腰の上辺りに何か硬いものが当たった。体に軽い痛みが走る。ここは校庭の真ん中だ。障害物は何もないはずだ。唯一思い当たるサッカーゴールは校庭のもっと端にあるはずだし、僕の腰よりもはるかに背が高い。ぶつかったものに掌を置くと、つるっとした冷たい感覚が指先に伝わった。馴染みのある感触。机の天板だ。自分たちがいつも使っている学校の机だ。僕は驚いた。机は教室にあるもので、校庭にあるものではない。運動会など特別な行事以外、それはあり得ないことだ。お弁当を持ってくるのが特別な日だけなのと同じく、小学校の生活では決まりきったルールだ。そして、学校生活においてルールを守ることは何よりも重要なはずだ。
 世界を包み、消し去ろうとする靄に向かって、僕は目を凝らした。少しの風が吹き、靄が流れた。山頂で雲が山肌を走るように白い靄が天板の高さで水平に滑った。靄が切れ、白い空間からたくさんの机が現れた。そして椅子。僕らが毎日使っている椅子と机が靄の底で整然と校庭に連なっていた。
 僕はびっくりした。校庭に机が並んでいる。大体一クラス分あるようだ。二つで一組になった机と椅子が綺麗に整列している。教室と同じ並び。本来教卓がある場所には教卓ではなく生徒と同じ低い机がある。
 昨日の下校時に机はなかった。誰かが夜のうちに運び出し、校庭に並べたのだ。誰が何のために並べたのだろうか。あるわけがない場所に並ぶ机たち。つるつるとした天板の上と、椅子の脚を通り抜ける白い靄。何かが始まり、何かが終わる光景を連想した。その瞬間、靄の奥で何かが動いたように見えた。
 怖くなり、動いたものを確認することなく僕は全速でその場を後にした。夢中で丘を駆け下りた。そのとき、僕はウサギのことも自分が作ったきまりのこともすっかり忘れていた。

登録情報

  • フォーマット: Kindle版
  • ファイルサイズ: 1162 KB
  • 紙の本の長さ: 199 ページ
  • 同時に利用できる端末数: 無制限
  • 販売: Amazon Services International, Inc.
  • 言語: 日本語
  • ASIN: B00ZZXFFD4
  • Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能): 有効
  • X-Ray:
  • Word Wise: 有効にされていません
  • おすすめ度: 5つ星のうち 3.0 5件のカスタマーレビュー
  • Amazon 売れ筋ランキング: Kindleストア 有料タイトル - 67,727位 (Kindleストア 有料タイトルの売れ筋ランキングを見る)
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5件のカスタマーレビュー

5つ星のうち3.0

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5件中1 - 5件目のレビューを表示

2015年7月4日
形式: Kindle版Amazonで購入
3人のお客様がこれが役に立ったと考えています
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2015年6月29日
形式: Kindle版Amazonで購入
2人のお客様がこれが役に立ったと考えています
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2016年10月2日
形式: Kindle版
3人のお客様がこれが役に立ったと考えています
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2016年10月24日
形式: Kindle版
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