友人が贈ってくれた本、『空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― 』を読んだ。
吉野家でベジ丼を食べながら、何気に開いて読み始めたんだけれども、もう、最初っから泣けて泣けて……。日曜の午後、吉野家でぐしゃぐしゃになって泣いているオヤジを見かけても、どうかそっとしておいてあげてください。きっと、とっても素敵な本に出会ったんだと思います。
ぼくは悲しい事件を耳にすると被害者よりも加害者のほうに思いが振れてしまいがちなのだけれど、それは単に被害者の気持ちを想像するのが難しいというだけでなく、加害者になるかならないかの違いは、本当に紙一重だと思っているから。この詩集を読んでみると、本当にぼくが犯罪を起こさないでいるのは、親をはじめとした、これまで出会った人たちのおかげなんだと思わずにはいられない。
この詩集は「社会性涵養プログラム」と呼ばれる奈良少年刑務所の更生教育の一環として行われた「物語の教室」で生まれた詩を集めたもの。
まずぼくは「涵養」という言葉を知らなかった。
調べてみると「雨水や河川の水が地表から地下に浸透して地下水となること」を指すらしいが、比喩として「水が土に自然に浸透していくように、無理をせず、ゆっくりと養い育てる」という意味があるんだそうだ。
この「社会性涵養プログラム」は「ソーシャル・スキル・トレーニング」と「絵画」と「童話と詩」という3つのプログラムで構成されている。「童話と詩」を担当した編者は「言葉を中心とした情操教育をしてほしい」という以外、なにも縛りのない依頼だったと書いている。
事細かにその様子があとがきに書かれているのだけれど、簡単に書くとこうだ。
最初は童話を読む。登場人物に扮し、ロールプレイにのように朗読する。
次に詩を読む。
そして詩を書く。
たったそれだけらしい。詩の題材も自由。書けない子どもにだけ「好きな色」というテーマが出されるらしいが、他に特別なメソッドがあるわけじゃない。
詩集の後半では「母」というテーマでいくつかの詩が載っている。読んでみて改めて思う。母は偉大だと。ここに載っている詩では、ほとんどの場合、父は悪者か不在だ。現代の父親不在は深刻なのかもしれない。だからこそ父をうたった詩も読んでみたいと思った。
この教室で魔法のように子どもたちが変わっていく背景として、編者の 寮 美千子さんは教官や刑務官の存在とその役割を強調している。彼らが普段から子どもたちに注いでいる愛情と導きがあってこそ、この魔法が実現していると。
乾井教官というかたの言葉が紹介されている。
「思いを汲んで、寄り添い支え、手塩にかける」
ぼくは刑務所の刑務官や教官のイメージががらりと変わった。
本当に奇跡的な言葉がたくさん散りばめられている詩集だから、他にもたくさんの驚きと感動に出くわすはずだ。
You Tubeなどには朗読している動画もある。文字として引用もできるけれど、やはり詩は朗読して聴くと実にいいものなので、聴いてみていいなと思ったら、ぜひ本も!
その際、吉野家はもちろん、電車の中とかスタバとか、人の目のあるところで読むのはおすすめしません。
文庫本のあとがきにアマゾンの読者レビューに載っていた詩が紹介されている。僕もこんな気持ちで接する人でいたいし、社会もそうあってほしい。そう、せつに、せつに、せつに願ってやまない。(現在はレビューには掲載されていないもよう)
『やがて出て行く君たちへ』 Lehman Packer
君はいずれここを出て行くのだろう
時に暖かく
時に厳しい
世間に出て行くのだろう
つらい時、みじめに感じた時には
この詩を書いたときのことを思い出してごらん
君の心に向き合った時のことを
君の心に優しいものを見つけた時のことを
思い出してごらん
その思いを言葉に表せた時の喜びを
伝えた時に感じた胸の高鳴りを
受け止めてくれた友を
その賛辞を
思い出してごらん
世界でただ一つの詞をつむいだ君を
君に幸あれ
君の心に安らぎあれ
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