音楽好きにとって、「好きな音楽について語られている本」を読むことは大きな楽しみ。
この本はよくある名盤ネタで、12名の執筆者によって構成されている。
特徴としては、装幀も、書き方もかなり砕けていて、リラックス感満点なのだが、
作曲家の吉松隆氏、ピアニストにして文章家の青柳いずみこさん、新潮文庫版『ベートーヴェン』執筆者である
平野昭氏など、著名一流の方々が参加されていること。
第一章は「誰でも知っている名曲」
ベートーヴェンの「運命」「第九」、チャイコフスキー「悲愴」から始まる。
1曲について、推薦CDが2枚。
クラシック音楽の内部にいて、それを知り尽くしている人たちが書いているので、
文章がおもしろい。
CDコメントの欄の最後に、関連映画、演劇、本などが紹介されているのもいい。
ただし自分のようにカラヤンの指揮をスルーしている人間にとっては、
この3曲すべてカラヤン盤がピックアップされているのはつらい(選者:吉松氏)。
氏は、ドボルザーク「新世界から」で決定盤のクーベリックを外し、ワーグナーでも、シェーンベルクでもカラヤンなのは、
失望を通り越して、軽い怒りすら覚える。総じて吉松氏のセレクトは時代性が古く、意外性も魅力も情報量も少ない
(「田園」はワルターとベーム)。曲紹介の文章はさらりと書かれているが、わるくはない。
つぎのモーツァルトの後期交響曲では、平野氏によってガーディナーが取り上げられていて、
コメントもピリリとしている。平野氏は、「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」でも
コープマンを採りあげるなど、セレクト眼が適確で、情報の鮮度も高く、うれしくなる。
各曲に割かれている文章量は多くはないのだが、その分、時折見かける頭でっかちな観念的文章はなく、
紹介されるエピソードなどは味わい深い。
たとえばチャイコフスキー:ピアノ協奏曲第一番、
「第1楽章と終楽章の主要な主題には、ウクライナ民謡が用いられている。特に第1楽章のそれは、
作曲家自身がウクライナの田舎で愛情込めて聴いた盲人のリラ弾きのもの。こうした素朴な人々が歌う言葉の抑揚、
旋律の中に、協奏曲を生み出す豊かな力があることを、作曲家は知っていた」斉藤毅氏
この本購入のお目当てだった青柳氏のセレクトと文章。ここでいずみこさんはピアニストとしての実際の弾き方、
弾く時の出来事などを多く書き、セレクトとしてはポゴレリチ、グールドに重点がある。どのページも好ましい。
- 単行本: 256ページ
- 出版社: 学習研究社; 改訂新版 (2010/3/17)
- ISBN-10: 4054045030
- ISBN-13: 978-4054045033
- 発売日: 2010/3/17
- 梱包サイズ: 18.8 x 13 x 2 cm
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