「進化論」という「論」自体やその影響については、今日でもよく話題になるので、それのもととなったダーウィン『種の起源』を読んでみた。著者の頭に詰め込まれている厖大な知識の脈絡を追うのは結構大変。私の興味は個々の事実ではなくて、どうしてダーウインがそう考えるに至ったのかを知る気分になることだが、それでもそれなりに集中しないと分からない。当たり前だが、ダーウインの記憶力と推理力は抜群だ。
1859年に出版された本書の結論だけを書けばとても簡単、いわゆる自然淘汰説だ。一番基本は、生物もまた自然の法則に従っているということ、つまり神が創ったのではないこと(当時は聖書の記述にしたがって、生物は種ごとに神が創ったと信じられていたらしい)。次には、よく「進化論」と呼ばれている考え方で、生き物は、長い時間をかけて、自然淘汰の作用による変化伴う由来をもっているということ。ここで、自然淘汰の作用とは、生存競争によって世代を重ねるにつれて生き残っていくグループとそうでないグループが生じてくることを言う。そのことは、生物の諸器官にしろ行動様式にしろ、進化の個々の段階においては個々の生物グループにとって有益なものであると見なせること、またごくわずかではあってもそれらは変異を生じるうること、有益な変異が子孫に継承されること、などが認められれば、生物史を貫く法則であろうと推論が出来る。
ダーウインの推論は、観察と実験から得られた数多の事実に基づいた合理的な思考によるものだ。この数多の事実はどうやって見つけたのかと言えば、自分で直接行ったものもあるし、当時の学者やナチュラリストや育種家などが行った厖大な蓄積の中から、合理的な意図によって選別したのだろう。観察や実験(人工的育種も含めて)の動機は、学者やナチュラリストにとっては新種の発見自体などに、育種家は有用な植物や動物を創り出すことなどにあったのだろう。
厖大な知見に基づいた推論を追っていくのも本書を読む一つの醍醐味ではあろうが、合理的な意図とか、事実自体が何であるかとか、事実と事実の関係に潜む規則の推定等々は容易ではない。特に、私のように、虫や魚や鳥等々の身体の部位やその性質や行動様式について知らないばかりか、あまり考えたことのない人にとっては尚更である。しかし、ダーウインの残した業績は後の生物研究に重要な指針を与え、また、普通の人々にとっては大いなる誤解を含めて重要な影響を与えていることは理解できる。
界⇒門⇒綱⇒目⇒科⇒属⇒種⇒亜種⇒変種⇒品種⇒亜品種、という分類は右から左へ生物の由来を溯った体系を示している。例えば、ヒトの分類学的位置づけは、動物界、脊椎動物門、哺乳類綱、霊長目、ヒト科、ヒト属、ヒト(種)となる(現世の人類はホモ・サピエンス・サピエンス)。一つの生き物は、壮大なピラミッド式体系の一つに位置づけられた。生物の分類は身体の形式や行動様式や稔性等々に基づいていたが、そのそれぞれが由来を持つ変化の結果であることが判明することで、一つの体系となった。しかも何故、生物のグループが連続ではなくて区分できるのかも理解できる。つまり、変異で生じた中間的グループが、自然淘汰によって絶滅したからである、と。そのことは生命の化石が見つかる数億年前からの地質学的知見によって、ほんの一部だけ確かめられ、もっと確かめたければそれはこれからも果てしなく続くだろう。よく、進化論によれば人間の祖先は猿だったと言う人がいるが、本書を読めば不正確な表現であることがわかる。そういう人には、何故「目」というところで先祖が停止していると思うか、と訊ねるのがいいと思う。
最後に、最終章(14章 要約と結論)で述べられているダーウインの推論のうちで二つを紹介する。一つは妥当でもう一つは問題であると思う。一つは「生物を変化させる原因の中で最も重要なのは、物理的条件の変化、それも恐らく物理的条件の突然の変化とはほぼ無関係である。」という推論(種の創世説への反論のようだが)。この推論は、人間の心が関係性の中で変化しうることの身体論的説明として妥当だろう。もう一つは「遠い将来を見通すと、さらにはるかに重要な研究分野開けているのが見える。心理学は新たな基盤の上に築かれることになるだろう。それは、個々の心理的能力や可能性は少しずつ必然的に獲得されたとされる基盤である。やがて人間の起源とその歴史についても光が当てられることだろう。」という推論。この推論は、人間の心が自然科学的に解明されるという誤謬推理であろう。この誤謬に気付かなければ重大な問題が発生しかねない。この点に関して言えば、本書より70年ほど前に書かれた『純粋理性批判』(カント著)で指摘されている、人間の理性についての洞察を知ることがとても大切だと思う。
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種の起源〈上〉 (光文社古典新訳文庫) 文庫 – 2009/9/20
チャールズ ダーウィン
(著),
Charles Darwin
(原著),
渡辺 政隆
(翻訳)
&
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その他
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『種の起源』は専門家向けの学術書ではなく、一般読者向けに発表された本である。名のみ知られるばかりで、その内容については多くを語られることのなかったこの歴史的な書を、画期的に分かりやすい新訳で贈る。
進化学はすべての生物学の根幹をなしている。そしてそのすべてのルーツは『種の起源』初版にあるのだ。端緒を開いたダーウィンの偉業、それは進化の研究を科学にしたことと、進化が起こるメカニズムとして自然淘汰説を提唱したことにある。(訳者)
進化学はすべての生物学の根幹をなしている。そしてそのすべてのルーツは『種の起源』初版にあるのだ。端緒を開いたダーウィンの偉業、それは進化の研究を科学にしたことと、進化が起こるメカニズムとして自然淘汰説を提唱したことにある。(訳者)
- 本の長さ423ページ
- 言語日本語
- 出版社光文社
- 発売日2009/9/20
- 寸法10.5 x 1.6 x 15 cm
- ISBN-104334751903
- ISBN-13978-4334751906
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
『種の起源』は専門家向けの学術書ではなく、一般読者向けに発表された本である。名のみ知られるばかりで、その内容については多くを語られることのなかったこの歴史的な書を、画期的に分かりやすい新訳で贈る。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ダーウィン,チャールズ
1809‐1882。イギリスの自然史学者、著述家。イングランド西部のシュルーズベリで生まれる。地元のパブリックスクール卒業後、エジンバラ大学医学部に入学したが1年半で退学し、ケンブリッジ大学に転学。卒業後、英国海軍測量艦ビーグル号に乗り込み、5年をかけて世界を周航した。帰国後は在野の著名な自然史学者として研究と著作に従事する。1859年、『種の起源』を出版し、世界を震撼させた。’82年に自宅で死去
渡辺/政隆
1955年生まれ。サイエンスライター、JSTエキスパート。専門は進化生物学、科学史、サイエンスコミュニケーション(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1809‐1882。イギリスの自然史学者、著述家。イングランド西部のシュルーズベリで生まれる。地元のパブリックスクール卒業後、エジンバラ大学医学部に入学したが1年半で退学し、ケンブリッジ大学に転学。卒業後、英国海軍測量艦ビーグル号に乗り込み、5年をかけて世界を周航した。帰国後は在野の著名な自然史学者として研究と著作に従事する。1859年、『種の起源』を出版し、世界を震撼させた。’82年に自宅で死去
渡辺/政隆
1955年生まれ。サイエンスライター、JSTエキスパート。専門は進化生物学、科学史、サイエンスコミュニケーション(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
About this Title
ダーウィンが『種の起源』で成し遂げた二大偉業は、進化の研究を科学にしたことと、進化が起こるメカニズムを提唱したことにある。
生物の進化は、地球の長い歴史の中で一回しか起こらなかった物語である。たとえばティラノサウルスが二度と復活することはない。つまり通常の科学の方法では扱えない事実である。ではどうすればよいか。ダーウィンは、仮説を構築し、傍証を積み上げるという歴史科学の方法を確立することで進化学を科学にしたのだ。
もう一つの偉業は、進化のメカニズムとしての自然淘汰説を提唱したことである。生物には遺伝的な個体変異があり、個体変異に応じて生存繁殖率に差がでる。その結果、有利な変異をもつ個体ほど生き残る確率が高く、より多くの子孫を残す。この過程が続くことで、原種から変種が分かれ、やがて種となる。単純化すれば、これが自然淘汰の原理だ。
つまり、生物個体の生存繁殖にとって有利な遺伝的変異を保存し不利な変異を排除する、自然による選抜の過程を自然淘汰という。(「本書を読むために」より)
生物の進化は、地球の長い歴史の中で一回しか起こらなかった物語である。たとえばティラノサウルスが二度と復活することはない。つまり通常の科学の方法では扱えない事実である。ではどうすればよいか。ダーウィンは、仮説を構築し、傍証を積み上げるという歴史科学の方法を確立することで進化学を科学にしたのだ。
もう一つの偉業は、進化のメカニズムとしての自然淘汰説を提唱したことである。生物には遺伝的な個体変異があり、個体変異に応じて生存繁殖率に差がでる。その結果、有利な変異をもつ個体ほど生き残る確率が高く、より多くの子孫を残す。この過程が続くことで、原種から変種が分かれ、やがて種となる。単純化すれば、これが自然淘汰の原理だ。
つまり、生物個体の生存繁殖にとって有利な遺伝的変異を保存し不利な変異を排除する、自然による選抜の過程を自然淘汰という。(「本書を読むために」より)
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登録情報
- 出版社 : 光文社 (2009/9/20)
- 発売日 : 2009/9/20
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 423ページ
- ISBN-10 : 4334751903
- ISBN-13 : 978-4334751906
- 寸法 : 10.5 x 1.6 x 15 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 13,383位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- カスタマーレビュー:
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2012年10月5日に日本でレビュー済み
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ダーウィンの進化論はあまりに有名だから、ネットで調べれば概要がわかる。
でも、ダーウィンが進化論を書くまでに、どれだけのものを見てきたかは、ウィキペディアではわからない。
奴隷アリ:他の種類のアリを奴隷として使い、その奴隷がいないと餓死してしまうアリ
そんなのいるの?
・・・こういう面白い観察がたくさん載っています。
ダーウィンは、楽しかったんだろうな。そんなダーウィンの集中がつたわってくるような作品です。
上下あって、読むのは疲れるけれど、細かなところは飛ばして、面白い実例だけ見るのも良いと思いました。
ちなみに、ダーウィンはお金持ち、でも、悲しい過去も背負っているのが後書きでわかります。
でも、ダーウィンが進化論を書くまでに、どれだけのものを見てきたかは、ウィキペディアではわからない。
奴隷アリ:他の種類のアリを奴隷として使い、その奴隷がいないと餓死してしまうアリ
そんなのいるの?
・・・こういう面白い観察がたくさん載っています。
ダーウィンは、楽しかったんだろうな。そんなダーウィンの集中がつたわってくるような作品です。
上下あって、読むのは疲れるけれど、細かなところは飛ばして、面白い実例だけ見るのも良いと思いました。
ちなみに、ダーウィンはお金持ち、でも、悲しい過去も背負っているのが後書きでわかります。
ベスト500レビュアー
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まさに歴史を変えた名著の新訳版。一文が長くて分かり難い原文を直訳していた従来訳に比べ、生物科学の知識に基づいて原文を簡潔に区切って提示した訳者の力量により、その真価が明快に読み手に伝わって来る。上巻は全14章の内、第7章「本能」まで。
冒頭で、「遺伝を司る法則については全く分かっていない」と断りを入れているように、遺伝子の存在・構造は勿論、同時代の"メンデルの法則"さえ知らなかったダーウィンが、観察力と洞察力のみで結論を導いた過程と偉大さが伝わって来る。しかも、上述の条件下で、親から子へと伝わる何らかの形質、自然による変異の存在、生殖器官の特殊機能、累積作用の重要性等の認識を持っていた事は驚嘆に値する。広い意味での"生存闘争"も豊富な事例を基に考察されている事が良く分かる。これらを外挿する形で、第4章で本書の中核を成す「自然淘汰」の概念を導入する構成も巧みと言える。両性生物の利点の核心(=遺伝メカニズム)に直感的に迫っている点も瞠目に値する。また、集団における変異(新種)の発生・浸透率、眼のような極度に完成度が高く複雑な器官の形成過程、淘汰の対象が個体か種か(ダーウィンは個体レベル論)と言った今日的問題も視野に入れていた事が分かる。
一方、第1章を「飼育栽培下における変異」から始めている辺りに、ダーウィンの慎重さと配慮が感じられる。動植物の品種改良の話から始めたのは分かり易さと共に、自身の説のインパクトを鑑みて読み手のショックを和らげる意図があったと思う。特に、神による創造説とは真っ向から対峙する説であるから、宗教界からの反発・弾圧は必至であり、これへの対応には苦慮した事と思う。生物科学のみならず、思想界や宗教界、世界観、社会科学にまで影響を及ぼした、まさに記念碑的著作である事を改めて感じた。
冒頭で、「遺伝を司る法則については全く分かっていない」と断りを入れているように、遺伝子の存在・構造は勿論、同時代の"メンデルの法則"さえ知らなかったダーウィンが、観察力と洞察力のみで結論を導いた過程と偉大さが伝わって来る。しかも、上述の条件下で、親から子へと伝わる何らかの形質、自然による変異の存在、生殖器官の特殊機能、累積作用の重要性等の認識を持っていた事は驚嘆に値する。広い意味での"生存闘争"も豊富な事例を基に考察されている事が良く分かる。これらを外挿する形で、第4章で本書の中核を成す「自然淘汰」の概念を導入する構成も巧みと言える。両性生物の利点の核心(=遺伝メカニズム)に直感的に迫っている点も瞠目に値する。また、集団における変異(新種)の発生・浸透率、眼のような極度に完成度が高く複雑な器官の形成過程、淘汰の対象が個体か種か(ダーウィンは個体レベル論)と言った今日的問題も視野に入れていた事が分かる。
一方、第1章を「飼育栽培下における変異」から始めている辺りに、ダーウィンの慎重さと配慮が感じられる。動植物の品種改良の話から始めたのは分かり易さと共に、自身の説のインパクトを鑑みて読み手のショックを和らげる意図があったと思う。特に、神による創造説とは真っ向から対峙する説であるから、宗教界からの反発・弾圧は必至であり、これへの対応には苦慮した事と思う。生物科学のみならず、思想界や宗教界、世界観、社会科学にまで影響を及ぼした、まさに記念碑的著作である事を改めて感じた。





