神社を通して古代の歴史や宗教観を幅広く読み解いた著作。
学術的な内容を多く含みながらも意外に読み易く仕上っているのは、恐らく本書が朝日カルチャーセンター(1983-85年、大阪)で開催された講座を元にしているからであろう…複雑な古代史も非常に優しい語り口で一つ一つ丁寧に解説してくれるので、初心者でも楽しく読む事が出来るに違いない。
さて、日本の古代宗教を読み解く上で押さえておかなければならない基本を、著者は下記の三点に纏めている。
1.日本は多神教であり、様々な神格が存在する
2.日本の神は元々は人里に住んでいた訳ではなく、祭りの時だけやって来る
3.神は「目に見えない」とされた事から、嘗て偶像崇拝はなかった
以上を再確認してみると成程、日本には様々な神を祀った神社が存在する事、或いは山、巨木、石、岩等など、自然物そのものに神が宿っているという概念が存在する事、更には、仏像に比べると明らかに神像の数が少ない事が理解出来るであろう。
そして本書はこうした“原始宗教”を出発点として、大神神社、伊勢神宮、宗像大社と住吉大社、石上神社、鹿島・香取神宮を具体的に取り上げる。
それぞれの神社に祀られている神や神話の紹介は然る事ながら、当時の国家の実情を踏まえた上での各神社の存在意義、そして政変との関係、更には後世に変化した信仰や庶民への広がり等にも言及しているので、改めて、神社…強いては日本の神々が日本人の心に如何に密接に寄り添って来たかという事を考えさせられるのではなかろうか。
因みに、日本の古代は血で血を洗う主権争いが最も激しかった時代だが、実は神社には武器庫があった事にも触れているので、当時の神社が純粋な信仰心の枠を超えて政治的な役割も担っていた事を学び、改めて現実的な側面を見せ付けられたように思う。
その他、後半で扱っている「神社のランク」も面白い。
勿論、伊勢神宮が頂点である事くらいは漠然と解るであろうが、実は様々な神社が神階(神様の序列)を与えられているにも拘らず、伊勢神宮に位がないのは天皇が位階を持たないのと同じ…と指摘しているのは、今更ながら大いに納得させられた次第である。
記紀神話や各地の風土記から和歌集に至るまで多くの古記録を紐解いている上に先行研究や著者の見解も幅広く語ってくれるし、必要に応じて写真や図説の掲載もある所も丁寧な編集だったように思う。
大元となった講座は1980年代ではあるものの、決して時代の古さを感じさせるような内容ではないので、今読んでも多くを学ぶ事が出来るであろう…古代史愛好家の方達には是非とも手に取って頂きたい一冊である。
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