読了するのに2週間以上かかった本。「砂」を基軸にして内容をどれほど網羅出来るかに挑んだ本と呼べば良いのだろうが、この本がどういう本と説明すると大変難しい。
欧米諸国や中央アジアやアフリカでの砂漠から、生活の中で砂丘がどれほど影響を与えてきたといった自然現象から、地質から砂岩、そして砂つぶの70%近くは石英(シリカ:二酸化ケイ素SiO2)から出来ているという事実、それが文明でどの様な位置づけがされていたのか、文芸で砂を扱った作品の網羅(安部公房の「
砂の女
」まで出てくる。しかも結構な頻度で。勅使河原宏監督の映画「
砂の女
」は、個人的に傑作と思っている)したり、文化人類学的なフィールドワークでアボリジニやインドでの砂に書いた一筆書きの図形や、チベットの僧らによる曼荼羅、北米インディアン、ナバホ族の砂絵の儀式、砂の大きさの区分、そしてラルフ・バグノルドという軍隊の准将で、英国王立協会の特別研究員という二つの経歴を持つ人物が、実践と理論を研究を積み重ね、「飛砂と砂丘の理論」という出版までした人物の紹介もある。その本では「自然界では絶対的な大きさではなく、相対的な大きさが意味を持つ」という名言がある。地震による液状化現象、ブラジルナッツ効果(詳しくはWikipediaを参照に)、砂というものが持つ比喩、アルキメデスは砂を無限とするのではなく、数量をどう表記すれば良いかを考え出した人物であることはあまり知られていない。早すぎた天才だったことは間違いない。ローマ軍がシラクサを陥落し、アルキメデスが砂上に描いた図形をローマ兵に踏み荒らされたことを咎めたことで、その兵士に殺された逸話は有名。
著者は地質学者でイギリス生まれのアメリカ在住の人なので、アメリカを舞台にした地質学調査の内容もある。前半は砂による被害や人間が過去砂によって苦しめられた歴史も考察している。
後半になると、全世界の大陸棚、そして地球の地質における「砂」の位置を一気に広げる。砂が無ければ科学は有り得ず、石英からガラスが生み出されなければ、科学的な発見はありえず、地動説や地質学、微生物の発見も有り得なかったし、シリカの存在が、シリコンを生み、アイシャドウ、化粧品、電子基板のシリコンウエハーが無ければ集積回路も有り得ず、食料添加剤としてシリカは利用されている(食品添加物として利用される非結晶性のシリカは、体内で消化吸収されず排出されるため身体に影響はない)し、乾燥剤のゲル状物質のシリカゲルとして知られているし、石英は無色性の高く結晶化したものは水晶であり、非平衡化するとオパールや黒曜石(矢じりや石器によく出るガラス状物質)もある。砂を収集するコレクターもいるが、砂を使った地上絵や芸術作品の紹介、最後は地球から離れてタイタンや火星や金星における砂の議論、日本の小惑星探査機「はやぶさ」の話(最後の最後であるが)も出てくる。
この本は「砂」の物理学であり、考古学であり、博物学の本と言えば良いのだろうか?最近「深海――極限の世界 生命と地球の謎に迫る」といった本や「岩は嘘をつかない―地質学が読み解くノアの洪水と地球の歴史」などを読んだせいで、この本が長らく積読になっていたので読んだ次第である。人間の思考は、細部に注目した方が視野が逆に広がると、科学哲学者のマイケル・ポランニーが述べたことで、この場合、「砂」という非常に小さな「もの」に注目することで、そこに無尽蔵とも言える「世界読書」という現象が生まれるのです。
小さなものに注目する方が具体的に「世界読書」にまみえることが出来ます(これは私の最も入り込みやすい知識「方法」に過ぎないかもしれないが)だった。ハンス・ブルーメンベルク「
世界の読解可能性
」という本がありますが、「世界は本である」ということと、「世界は読まれることを待っている書物の群である」という認識は、研究者にしてみれば当たり前のことだ。だが、それに気づくと好奇心はもう止まりません。メタファー学の提唱者であったブルーメンベルクでもポランニーの様に認識論的に明確でなかった様なのだが、西洋では聖書を読むか、アリストテレスを読むかで長らく右往左往していたが、顕微鏡や望遠鏡といった視覚の延長装置が生まれたことで科学的な進歩を遂げたのも、「砂」に含まれた石英(つまりガラスによるレンズ)が遠因なのだと知れる。
小さなものを馬鹿には出来ない。微生物や細かな環境の影響を馬鹿には出来ないのは、この時世で痛感しているはずだ。むしろ徹底的に「注目」するべきかと思うのだ。
この商品をお持ちですか?
マーケットプレイスに出品する
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません 。詳細はこちら
Kindle Cloud Readerを使い、ブラウザですぐに読むことができます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
砂 単行本 – 2011/7/29
| マイケル・ウェランド (著) 著者の作品一覧、著者略歴や口コミなどをご覧いただけます この著者の 検索結果 を表示 |
米国自然史博物館のジョン・バロウズ賞受賞の最高傑作、待望の邦訳。
波、潮流、ハリケーン、古代人の埋葬砂、ナノテクノロジー、医薬品、化粧品から金星の重力パチンコまで、不思議な砂のすべてを詳細に描く。
砂は、さまざまな想像力をかきたてる。
砂にはロマンがあり、美があり、詩がある。そして、私たちの生活の一部でもある。
砂がなかったら、世界はどのようなものになっていたか想像してみたことがあるだろうか。
砂の粒子がたくさん集まると、砂特有の動きをするし、模様もできる。
砂が、どのように転がり、弾み、集まり、そして移動していくかという、砂の動きに関する研究は、とても複雑で奥が深い。
さらに砂は、生物の大絶滅が地球の歴史のどの時点で起きたのかも物語る。
本書は、物理学、化学、地質学、数学、歴史、神話、文学、芸術、民話など、さまざまな側面から砂に焦点をあて、果てしなく広がる砂の世界を私たちに垣間見させてくれる。
これまで、ゆっくりと砂を見たことがなかったなら、まず本書を読んで、その不思議な世界に思いを馳せてから砂を見てみると、きっと新たな発見があるに違いない。
「本書は、砂について書かれた実に楽しい本だ。
子どものころ、砂浜で遊んだことのある人は多いと思うが、本書を読めば、地球上にあるもっともありふれた物質が、実に興味深い数多くの秘密を抱えていることを知るだろう」
リチャード・フォーティ(『生命40億年全史』『地球46億年全史』の著者)
- 本の長さ440ページ
- 出版社築地書館
- 発売日2011/7/29
- ISBN-104806714259
- ISBN-13978-4806714255
この商品を買った人はこんな商品も買っています
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
波、潮流、ハリケーン、古代人の埋葬砂、ナノテクノロジー、医薬品、化粧品から金星の重力パチンコまで、不思議な砂のすべてを詳細に描く。米国自然史博物館のジョン・バロウズ賞受賞の最高傑作、待望の邦訳。
著者について
ネイチャーライティングに贈られる最も権威ある賞、米国自然史博物館のジョン・バロウズ賞を本書で受賞した地質学者。
ハーバード大学で修士号、ケンブリッジ大学で博士号を取得し、アラビア半島のオマーンで行なわれたイギリスの地質学調査に参加。
米国の大学で研究生活をしたのち、国際的なエネルギー業界に籍をおき、長年、世界各地の地質調査に携わる。
また、ロンドン地質学会、米国地質学会、王立芸術協会の会員として、数多くの講演を行なったり、論文を執筆している。
現在は、ロンドンとフランスを拠点に、おもに中央アジアやエジプトでの国際的なプロジェクトにかかわるなど、世界をまたにかけて活躍している。
ハーバード大学で修士号、ケンブリッジ大学で博士号を取得し、アラビア半島のオマーンで行なわれたイギリスの地質学調査に参加。
米国の大学で研究生活をしたのち、国際的なエネルギー業界に籍をおき、長年、世界各地の地質調査に携わる。
また、ロンドン地質学会、米国地質学会、王立芸術協会の会員として、数多くの講演を行なったり、論文を執筆している。
現在は、ロンドンとフランスを拠点に、おもに中央アジアやエジプトでの国際的なプロジェクトにかかわるなど、世界をまたにかけて活躍している。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ウェランド,マイケル
ケンブリッジ大学卒業。地質学専攻。ハーバード大学で修士号を、ケンブリッジ大学で博士号を取得。オマーンで行なわれたイギリス地質学調査に同行。米国の大学で教鞭をとりながら研究生活を送ったのち、国際的なエネルギー業界で二〇年間、技術部門と管理部門にたずさわるなど、世界各地のさまざまな地質を見ながら仕事をしてきた。また、ロンドン地質学会、米国地質学会、王立芸術協会の会員として数多くの講演を行ない、学術論文や書籍の書評を執筆している
林/裕美子
兵庫県生まれ。信州大学理学部生物学科卒業。同大学院理学専攻科修士課程修了。おもに生命科学分野の英日・日英の技術翻訳を得意とするHAYASHI英語サポート事務所を運営。環境科学への興味から、宮崎の海岸問題を扱う市民団体「ひむかの砂浜復元ネットワーク」を立ち上げ、市民調査で砂浜の動きなどを調べて海岸行政への提言を行なっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
ケンブリッジ大学卒業。地質学専攻。ハーバード大学で修士号を、ケンブリッジ大学で博士号を取得。オマーンで行なわれたイギリス地質学調査に同行。米国の大学で教鞭をとりながら研究生活を送ったのち、国際的なエネルギー業界で二〇年間、技術部門と管理部門にたずさわるなど、世界各地のさまざまな地質を見ながら仕事をしてきた。また、ロンドン地質学会、米国地質学会、王立芸術協会の会員として数多くの講演を行ない、学術論文や書籍の書評を執筆している
林/裕美子
兵庫県生まれ。信州大学理学部生物学科卒業。同大学院理学専攻科修士課程修了。おもに生命科学分野の英日・日英の技術翻訳を得意とするHAYASHI英語サポート事務所を運営。環境科学への興味から、宮崎の海岸問題を扱う市民団体「ひむかの砂浜復元ネットワーク」を立ち上げ、市民調査で砂浜の動きなどを調べて海岸行政への提言を行なっている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
Kindle化リクエスト
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
登録情報
- 出版社 : 築地書館 (2011/7/29)
- 発売日 : 2011/7/29
- 単行本 : 440ページ
- ISBN-10 : 4806714259
- ISBN-13 : 978-4806714255
- Amazon 売れ筋ランキング: - 629,413位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 864位地球科学 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
5つ星のうち5.0
星5つ中の5
2 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2012年8月9日に日本でレビュー済み
中身が濃く、全く読み飛ばすところがありません。
疲れるほど充実しています。
地質学系の本は古くなるのが遅いほうだと思いますが
特にこの本は長く残るでしょう。
個人的記述はストイックなほど少ないのですが
(そこが古くならないであろう理由の一つでもありますが)
棺の中に砂時計を入れていたところがあり、その理由が
人生の残り時間が少ないことを思い出させるためという記述があって
それに対し「そんな必要はないと思う」とコメントがついていました。
印象的でした。
砂を大量に移動させることの危険性がよく理解できます。
海底での砂の大雪崩など目眩のするほど大きな規模の現象に
ドキドキさせられます。
砂と呼ぶのに材質を定義する必要がないというのが最大の驚き。
疲れるほど充実しています。
地質学系の本は古くなるのが遅いほうだと思いますが
特にこの本は長く残るでしょう。
個人的記述はストイックなほど少ないのですが
(そこが古くならないであろう理由の一つでもありますが)
棺の中に砂時計を入れていたところがあり、その理由が
人生の残り時間が少ないことを思い出させるためという記述があって
それに対し「そんな必要はないと思う」とコメントがついていました。
印象的でした。
砂を大量に移動させることの危険性がよく理解できます。
海底での砂の大雪崩など目眩のするほど大きな規模の現象に
ドキドキさせられます。
砂と呼ぶのに材質を定義する必要がないというのが最大の驚き。




