新潮文庫版も持っているのですが、実業之日本社文庫版も買いました。
著者による実業之日本社文庫版限定のあとがきや、人生において取り戻すことのできない青春の輝きともの悲しさを感じさせる文庫カバー絵も好感が持てることから、二冊買ってもいいと思わせる魅力的な作品です。
特に本書では伊坂幸太郎の持つセンスの良いユーモアが爆発しています。
登場人物のネーミングからして顕著で、鳥類を思わせる髪型の男の名前が「鳥井」だったり、僕「北村」が「西嶋」に麻雀に誘われ集まったメンバーが「東堂」と「南」で、東西南北の苗字をそろえるためだけに麻雀のメンツが選ばれていたことが判明したり、常連の定食屋の店名が「賢犬軒(けんけんけん?)」など遊び心満載です。
そしてこの5人のいずれも存在感があり個性が光っています。
決して成功はしないけど真剣勝負で逃げずに克服しようとする「西嶋」。麻雀では、勝負に勝つことよりも平和を意味する「ピンフ」にこだわり、やることなすこと格好悪く合コンでは浮いた存在で、周囲の嫌悪や軽蔑を振り切って果敢に這いつくばりながらも前進を続け堂々としている。
そんな女性に絶対もてそうにない西嶋のことを妙に気に入っているのが絶世の美女「東堂」。常にクールな顔で、あらゆる男が彼女にいどみ撃沈している。
鳥井の幼馴染の「南」は穏やかな性格ながら、ちょっとした超能力者で、テーブルの上の茶碗くらいなら手を触れずにすっと動かすことができ、それを鳥井は日常の一部として受け入れている。
本書のタイトル「砂漠」にはいろいろな意味が込められているのでしょうが、ブティックで働く「鳩麦さん」は「社会」を「砂漠」に例え、「砂漠」に足を踏み出したことがない僕らにこう言います。
「学生は小さな町に守られているんだよ。町の外には一面、砂漠が広がっている。町の中にいて一生懸命、砂漠のことを考えるのが、君たちの仕事かもよ。言っておくけどね、砂漠は酷い場所だよ」
大学生時代の4年間は、人生における最大の休暇だともいわれますが、思いっきり遊ぼうと思えば思い存分遊ぶ時間はあるし、目的を持って勉強しようと思えば勉強もできるし、とにかく金を稼ごうとバイトに明け暮れることもできるし、麻雀卓を囲み無意味な時間をたっぷり過ごすことも自由だ。
そしてそれは「砂漠」にでるまでに許された最大の贅沢だ。
その中でも「最大の贅沢は人間関係における贅沢である」との本書大学長の言葉が本書の本質をついている。
ああ、なんて魅力的で贅沢な人間関係なんだろう。
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