昨年、賛否両論が巻き起こったTPP(環太平洋経済連携協定)については、東日本大震災後、議論がトーンダウンしている。本書は、ニュージーランドやオーストラリアを中心とした論者たちが、TPPの功罪を多角的に論じたものである。日本が頭を冷やした上で、TPPの問題を論じるために相応しい本である。
本書の論者は、全員がTPPに反対という訳ではなく、中立的な立場の人もいる。しかし全体的なトーンとしては、TPPは、アメリカ以外の国にとっては、デメリットの方が大きいということである。TPPにとって農業はテーマのごく一部でしかない。その範囲は、建設、教育、金融、法務、コンテンツその他、全産業に渡る。これら全てが、一気に凄まじい競争の世界に投げ出される。さらに、紛争が起こった際には、国の主権が制約され、アメリカ発グローバル企業との直接交渉に任される。
このようなTPPの本質を知れば知るほど、TPPというのは、「羊の皮を被った新しいグローバル帝国主義」ではないか、という思いがする。また、交渉の内容は秘密であり、締結後しか開示されない、というのも危険極まりない。本書は、新自由主義経済や自由貿易で先行し、その結果様々な問題が生じているニュージーランドの経験から、日本が学ぶのに役立つ本である。
【補足】ジェーン・ケルシー教授の講演動画がアップされている:
[...]。また、岩上安身氏による、ジェーン・ケルシー教授へのインタビュー動画がアップされている:[...]。ともに、本書の補足材料として参考になる。
異常な契約-TPPの仮面を剥ぐ (日本語) 単行本 – 2011/6/30
-
ISBN-104540103083
-
ISBN-13978-4540103087
-
出版社農山漁村文化協会
-
発売日2011/6/30
-
言語日本語
-
寸法21.6 x 3 x 15 cm
-
本の長さ316ページ
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
Kindle化リクエスト
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、Get your Kindle here Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、Get your Kindle here Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「規制改革」の結果、人びとの暮らしがむしろ悪化した、とする批判がニュージーランド国内で少なくなかった。が、かつて我が国でニュージーランドの改革を宣伝した人びとは、こうした問題点には口をつぐんでいる。本書では、社会学や経済学の立場から、重要な政策を自国で決定できなくなることがもたらす危険を警告している。
著者について
■日本語版への序文 ジェーン・ケルシー(Jane Kelsey) 私はこの序文を岩手、宮城、福島などにおける悲劇的な地震、津波、および原子力災害並びに私自身の国でのクライストチャーチにおける地震の暗い影の下で書いている。 このような時期は我々にとって最も大事なことを想起させる――人びとの安全と幸福、生活の持続可能性、食料主権、水、医薬品、その他の生活必需品へのアクセス、および思いやりに基づいた国際連帯、などである。 悲しむべきことに、これらの価値は自由貿易の舞台では流行らない。The Trans-Pacific Partnership Agreement (TPP、環太平洋経済連携協定)の推進者たちはこれぞ21世紀の貿易協定と説明している。しかし、上述の中核的な価値を放棄し、"市場が供給する"という信念を信奉するTPPは我々をみじめな将来に陥れるであろう。 現在までに6ラウンドの交渉会合を行なった多数の作業グループは商業上および戦術上の目的に焦点を当てたにすぎない。TPPがもたらす可能性がある影響についての社会的影響評価は全くなされていない。将来、一層の金融、経済、環境および社会の危機が起きるであろうという予測が広まっているにもかかわらず、交渉者たちは将来の政府の手をグローバルな市場の力に縛り付けることが賢明なのかどうかに疑問を感じていないように見える。 これらの疑問に答えるべく包括的で深い分析を行なおうとすると、交渉を取り巻く秘密主義によって妨げられてしまう。交渉参加国は署名時までテキストを公表しないと主張しているが、それでは我々が内容に影響を及ぼすには遅すぎるのである。 本書はこれらの問題を巡る議論を活発化するとともに、我々の将来を左右する可能性をもつ論争があることを他の人びとにも知らせ、彼らも議論に参加するように促がすために書かれたものである。我々は日本の人びとがそのような討論の場に加わることを歓迎したい。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ケルシー,ジェーン
University of Auckland School of Lawの教授、法律・政治および国際的経済規制が専門。研究は新自由主義とグローバル化との関係を対象としており、とくにサービス貿易協定に着目している。アジア、南太平洋、その他世界の多くのNGO、労働組合および社会正義ネットワークの活動に関与している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
University of Auckland School of Lawの教授、法律・政治および国際的経済規制が専門。研究は新自由主義とグローバル化との関係を対象としており、とくにサービス貿易協定に着目している。アジア、南太平洋、その他世界の多くのNGO、労働組合および社会正義ネットワークの活動に関与している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 農山漁村文化協会 (2011/6/30)
- 発売日 : 2011/6/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 316ページ
- ISBN-10 : 4540103083
- ISBN-13 : 978-4540103087
- 寸法 : 21.6 x 3 x 15 cm
-
Amazon 売れ筋ランキング:
- 198,471位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 126位世界の経済事情
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.5
星5つ中の4.5
2 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
ベスト1000レビュアー
52人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
ベスト500レビュアー
『異常な契約TPPの仮面を剥ぐ』というタイトルから受けるイメージから内容が「始めに結論有りき」と期待して読むと読者は戸惑うだろう。
本書は、政治、安全保障、農業、地球環境、医薬、文化、金融、知的所有権などなどの専門家である学者や研究者などがニュージーランドのTPP加入に於ける問題点をレポートした奥の深い内容のものとなっている。
各章にレポートしている論者は、自分に与えられたテーマを、研究者の目で客観性に重きをおきながら論旨を展開しているからTPPにたいしての核心に迫っていることは間違いない。
本書巻末の「環太平洋経済問題研究会」で翻訳されている「訳者解題」『ニュージーランド発、TPPについての包括的で深い分析』が、本書の要約として理解することが出来るから、下記に引用したい。
・・・・・この本の原典が出版されたのは、2010年11月であり、奇しくも我が国でTPPへ参加について検討することにした「包括的経済連携に関する基本方針」が閣議決定されたのと同じ時期である。同書の編集者ジェーン・ケルシー教授は、ニュージーランド、オークランド大学の法学教授である。ニュージーランドは、1980年代半ば以降、ロジャーノミックスと称される、急激かつ徹底した規制緩和の経済改革・行政改革を行い、世界の注目を浴びた。日本でも1990年代、ニュージーランドを手本にして市場に任せよ、規制を緩和せよと声高に叫ぶ政財界人、「有識者」が多かったことが想い起こされる。ケルシー教授は、しかし、当初から一貫して、この新自由主義の改革に批判的立場をとってきた。反対したのは彼女ばかりではない。「規制改革」の結果、公的医療は改悪され、民間医療では儲けにならない患者が切り捨てられ、銀行サービスは低下、教育費の負担の増大により学生が海外流出したなど、人びとの暮らしがむしろ悪化した、とする批判がニュージーランド国内で少なくなかった。また、民営化された郵便貯金やニュージーランド航空は、その後立ちゆかなくなり、国営化に逆戻りしている。規制改革には明らかに失敗した部分もあるが、かって我が国でニュージーランドの改革を宣伝した人びとは、こうした問題には口をつぐんでいるようにみえる。・・・・・・
この「訳者解題」でも言及しているが、本書中多くの論者のなかに、TPP反対・経済連携反対の立場を鮮明にする人も多くいたが、論者のなかには、中立的立場から分析している論者も何人かいた。
ただ、このような中立的立場のすべての論者がアメリカの利己的要求などから自国の利益を守るために何を留意するかなど多くの課題があることなどにも言及している。
私が本書を読んで感じたことを簡潔に代弁している本書の第一章「ニュージーランドにとっての政治的示唆」(ブライアン・グット著)に於ける<訳者によるサマリー>から下記に引用したい。
・・・・・ニュージーランドでは、TPPのメリットが喧伝される一方、そのデメリットには注意が払われていない。しかし、ニュージーランドの経済統計や経済情勢を分析すると、ニュージーランドがTPPを締結した場合、便益を享受できないばかりか、恐るべき被害を受けることがわかる。米国人はTPPを、米国市場を徹底的に保護する一方で、米国に対する譲歩を引き出す手段と考えているからだ。仮にTPPを締結してしまうと、ニュージーランドは、経済面で大打撃を受けるだけでなく、民主主義が弱体化し、国家の独立が脅かされる等、政治面でも回復不能を招くことになるだろう。・・・・・
TPP問題を、ニュージーランドと日本を同列で論ずることは出来ないかもしれないが、日本政府は、「まず署名して質問は後で」という理念先行のアプローチではなく、本書の各章で提示されているような多くの問題点を精査し、国民が理解するよう政府の説明責任を終えるまでTPP交渉を延期するべきだと本書を読んだ私は痛感したのである。
本書は、政治、安全保障、農業、地球環境、医薬、文化、金融、知的所有権などなどの専門家である学者や研究者などがニュージーランドのTPP加入に於ける問題点をレポートした奥の深い内容のものとなっている。
各章にレポートしている論者は、自分に与えられたテーマを、研究者の目で客観性に重きをおきながら論旨を展開しているからTPPにたいしての核心に迫っていることは間違いない。
本書巻末の「環太平洋経済問題研究会」で翻訳されている「訳者解題」『ニュージーランド発、TPPについての包括的で深い分析』が、本書の要約として理解することが出来るから、下記に引用したい。
・・・・・この本の原典が出版されたのは、2010年11月であり、奇しくも我が国でTPPへ参加について検討することにした「包括的経済連携に関する基本方針」が閣議決定されたのと同じ時期である。同書の編集者ジェーン・ケルシー教授は、ニュージーランド、オークランド大学の法学教授である。ニュージーランドは、1980年代半ば以降、ロジャーノミックスと称される、急激かつ徹底した規制緩和の経済改革・行政改革を行い、世界の注目を浴びた。日本でも1990年代、ニュージーランドを手本にして市場に任せよ、規制を緩和せよと声高に叫ぶ政財界人、「有識者」が多かったことが想い起こされる。ケルシー教授は、しかし、当初から一貫して、この新自由主義の改革に批判的立場をとってきた。反対したのは彼女ばかりではない。「規制改革」の結果、公的医療は改悪され、民間医療では儲けにならない患者が切り捨てられ、銀行サービスは低下、教育費の負担の増大により学生が海外流出したなど、人びとの暮らしがむしろ悪化した、とする批判がニュージーランド国内で少なくなかった。また、民営化された郵便貯金やニュージーランド航空は、その後立ちゆかなくなり、国営化に逆戻りしている。規制改革には明らかに失敗した部分もあるが、かって我が国でニュージーランドの改革を宣伝した人びとは、こうした問題には口をつぐんでいるようにみえる。・・・・・・
この「訳者解題」でも言及しているが、本書中多くの論者のなかに、TPP反対・経済連携反対の立場を鮮明にする人も多くいたが、論者のなかには、中立的立場から分析している論者も何人かいた。
ただ、このような中立的立場のすべての論者がアメリカの利己的要求などから自国の利益を守るために何を留意するかなど多くの課題があることなどにも言及している。
私が本書を読んで感じたことを簡潔に代弁している本書の第一章「ニュージーランドにとっての政治的示唆」(ブライアン・グット著)に於ける<訳者によるサマリー>から下記に引用したい。
・・・・・ニュージーランドでは、TPPのメリットが喧伝される一方、そのデメリットには注意が払われていない。しかし、ニュージーランドの経済統計や経済情勢を分析すると、ニュージーランドがTPPを締結した場合、便益を享受できないばかりか、恐るべき被害を受けることがわかる。米国人はTPPを、米国市場を徹底的に保護する一方で、米国に対する譲歩を引き出す手段と考えているからだ。仮にTPPを締結してしまうと、ニュージーランドは、経済面で大打撃を受けるだけでなく、民主主義が弱体化し、国家の独立が脅かされる等、政治面でも回復不能を招くことになるだろう。・・・・・
TPP問題を、ニュージーランドと日本を同列で論ずることは出来ないかもしれないが、日本政府は、「まず署名して質問は後で」という理念先行のアプローチではなく、本書の各章で提示されているような多くの問題点を精査し、国民が理解するよう政府の説明責任を終えるまでTPP交渉を延期するべきだと本書を読んだ私は痛感したのである。