ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力報道以来、#MeToo(私も)というハッシュタグを使い世界の女性達が性被害を共有している。日本に住む女性の多くは痴漢による#MeTooの経験があるだろう。この文を読んで「そんなわけあるか」「どうせ大したことじゃない」「経験あるんだ~(ニヤニヤ)」と思う人は既に痴漢の味方側にいる。それから「男には冤罪が!」と思った人。痴漢にとってこれほどありがたい存在はない。本書(の特に第8章)を読んで、その位置から一刻も早く離れよう。
痴漢の認知の歪みを紐解く上で、著者がはっきりと男尊女卑・女性差別という言葉を出したことを一番評価したい。女性を性で支配したいという男性の欲求や、女性への性暴力表現を垂れ流しにするアダルトコンテンツに言及し、男尊女卑思考が刷り込まれた社会では認知の歪みが是正されず、加害者は再生産され続けると書いている。性犯罪は支配欲によって起こるという主張自体は新しいものではない。しかし痴漢行為は痴漢のストレス対処法(コーピング)であり、弱い者を標的にすることで、己の優位性を示そうとするという仕組みが詳しく説明されており、勉強になった。
第8章では女性が痴漢を通報しづらい環境について書かれている。多くの女性にとって身近な恐怖である痴漢が、多くの男性にとってはポルノの一ジャンルか他人事のままでは、問題の解決は遠い。痴漢に対する刑罰が軽すぎることにも本書は触れているが、取り締まる側・裁く側・メディアで取り上げる側も男性主体であり、被害者の多くが女性である性犯罪は未だに深刻な問題と捉えられていない側面はあるだろう。
男性が本書を読むべき理由は、痴漢に対して(できれば他の性犯罪についてもだが)正しい知識を持たねばならないからだ。男尊女卑社会で何も学習せずに生活していると、自然とレイプカルチャーの思想に浸かってしまう。それは何としても避けなければならない。痴漢は社会問題として、包括的アプローチがなければ撲滅を達成できないからだ。女性の立場で想像しよう。周囲の人間が「痴漢は認知が歪んでいる」「性犯罪は女性の落ち度から発生するものではない」と当然のように知っていたら、どれほど心強いだろうか。
冒頭で書いた#MeTooに応え、今では男性たちがハッシュタグを使い始めている。#HowIWillChange(自分はどう変わるか)である。性被害を否定し、矮小化し、性的消費する自分から、どう変わるか。痴漢問題を「冤罪」で相殺してしまおうとする自分から、どう変わるか。変わるためには知らねばならない。知るために本書を手に取ってほしい。
最後に、本書には具体的な性暴力の描写はないが、痴漢行為をする男の思考が詳しく書かれている。自分に都合のいい妄想をベースにした、腹が立つほど自己中心的な考えである。フラッシュバックの危険があると思われる方は無理せずに。
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