9~10世紀に成立したとされる『住吉大社神代記』全1巻は『記紀』の神話伝承にも登場する住吉大神(底筒男、中筒男、表筒男)の顕現、住吉大社とその神域の由来について述べた古文献です。本書は田中卓氏(皇學館大学教授)による『神代記』の校訂、訓解(書き下し文)と、基礎的研究(研究史、成立年代、資料的価値、『記紀』との関連etc)の書です。また現存する『神代記』の全文を、写真(モノクロですが)で紹介してくれている。
『神代記』が有名なのは、「是に皇后、大神と密事あり。(俗に夫婦の密事を通はすといふ)」(180)という神功皇后の異伝によってであるという印象はぬぐえない。が、実際に読んでみると、かなり危険(?)なことも記されている。つまり「朝廷に対してクーデターを起こすとき、住吉大神を斎き祀れば、血を流さずに成功するだろう」という趣旨の一文が3ヵ所(379、413、658)に見られるのだ。そのうち658行の部分に、「天香具山の埴土でつくった土器80枚によって祭祀しなさい」と住吉大神が神功皇后に述べたとあり、まるで『記紀』の神武天皇の東征を思わせ手興味深い。住吉大神の由来について述べた前半部分にこの伝承が見えないため、さらに言えば資料的価値を損ないかねないためだろう、田中氏は無視しているが、意外と、古代日本史の隠された真実を語っているのかも知れない。
実質として、『神代記』の前半は、主に『日本書紀』の原文の中で、住吉大神と関係のある部分のみを抜粋したものであり、普通の読者がわざわざ買ってまでして読むことはないと思うが、趣味で研究している人をはじめ、古代史への造詣が深い人は一読の価値はあるか。近くの図書館にあるといいんだけど。
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