鷲田大人の絶妙の聞き手を得て石黒という稀有の人材の仕事・研究が浮かび上がってくる。
.アンドロイド(人型ロボット)には、センサーの感度により人の気配で振り返るという人間の動きを実装している。
人は、観察するとき五感のチャンネルを使う。しかし、食事の際は、盛り付け、香りは二の次ぎに「うまい」に集中する。うまい以外は、意識下で働いている。
現在のアンドロイド段階でも意識的にはアンドロイドとわかっていても、意識下では人間だと受け止めているところがありそうである。
それは、人がアンドロイドを見るときの眼の動きが物を見る時のそれと全く違っていて、人を見るときの眼の動きと非常によく似ているのである。
無意識の働きは、今後の研究にとって重要となる。脳科学・認知科学も重要なパートナーである。それらがロボット工学と融合することにより仮説の検証も可能となる。
.ジェミノイド(本人もどきのアンドロイド)を動かしたとき、どうしても自分とは思えなかった。反発さえ覚えた。ところが、みんなはそっくりだと言ってゲラゲラ笑った。自分の声の録音を聴くと他人の声に聞こえるのと同じだろう。
動きや癖に関しては、他人の方が余程よく知っているのだ。
乱暴に言うと七八割くらいしか自分の事を理解していないのかもしれない。残りの二三割は、多分これで大丈夫だろうという予測の下で動いているのかもしれない。
この予測があるからこそ、複雑な体を不自由なく制御し、複雑な社会の中でその一員として認められているのだと思う。
これが、「のり代」の役割を果していて、そこに人間の本質に関する非常に重要な秘密が隠されているよに思う。
.ジェミノイドの操作は、ジェミノイドと訪問者の二つのモニター映像がインターネットを介して送られてくる。操作する側は、パソコンの前に座ってモニターを見ながら話すだけである。口と首の動きが画像処理され、解析されその動きがインターナットでジェミノイドの口に同期し言葉を発することで訪問者と実際に会話が出来る。殆ど、違和感はない
このように、遠距離操作が可能であるということは、脳と体とは密接に繋がってはいないのかもしれない。
.ジェミノイドの開発は、技術の産物であるが芸術に近い。優れた芸術作品はそこに強く人間を意識させてくれる。技術は、芸術から生まれる。
.人間は、数年で自分の体を操れるようになるがロボットの場合はそうはいかない。
脳は、1ワットしか電気を消費しないがスパコンは5万ワットを消費する。この差をうめる必要があるが、鍵は「生体ゆらぎ」という生物特有のノイズ(ランダムな動き)であろう。人工物は高いエネルギーでノイズを押さえ込んでいる。
ゆくゆくは、人間の中身が機械でも再現できるという予感はある。ロボットが将来人権を持つようになる可能性だってある。
.ジェミノイドの実験でわかるように、人格はロボットに乗り移ることができる。ロボット演劇に於いてもロボット然としたロボットに観客は心を感じる。
恐らく、心は無いのだろう。在るというのは、互いに在ると思い込んでいるためだろう。だから、相手に心があると思い込ませればロボットも心を持つ事ができる。
感情は、喜怒哀楽ときれいに分かれるものではない。ごちゃごちゃになっているものを母親が鏡となってステレオタイプに反応してくれ、それによって赤ちゃんは自分の感情を覚えていく。とても社会的なもので歴史的制度、その社会で流通している意味によって分けられている。ロボット演劇の経験は、ロボットに心を埋める必要はなく振る舞いを通して互いに感じあえれば、結果としてそれが心となるのであった。つまり、他者が映し出してくれるものであった。心とは、社会的関係で作られるものである。
.人間は、自分自身もあまり解かっていない。自分のことを他人ほど知らない。心とか感情とかは、社会的関わりの中で確信できるもので実体はない。相手に在ると思うから自分にも在ると思うのである。もし、世界の中で自分一人しかいなかったら内面は無いのである。
.言語の発生は、色々なものとちゃんと繋がりを持ちたいという事ではないか。でなければ、動物の鳴き声で十分だったはずである。
その結果、人間は分けて、文化を創った。しかし、境界を超えることも快感でありそれは食・性・宗教にもいえる。
二人は、阪大総長と教授の関係にあるが微塵も感じさせない。
石黒さんは、パイオニアとしてユニークそのものの人である。二人の対談は、成功している。そして、辿り着いた処は、人は他を喜ばせるために生きているということだった。
生きるってなんやろか? (日本語) 単行本 – 2011/3/11
石黒 浩
(著)
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鷲田 清一
(著)
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2%以上
ポイント
詳細
-
本の長さ208ページ
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言語日本語
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出版社毎日新聞社
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発売日2011/3/11
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ISBN-104620320196
-
ISBN-13978-4620320199
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「やりたいことが見つからない」「自分にしかないものがほしい」―これからわたし、どうしよう?人生をさまよいはじめた君たちへ、ほかならぬ「自分」を生きるためのヒント。タブーに切り込む“変人”学者コンビが贈る、“規格外”の異色対談。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
石黒/浩
1963年、滋賀県生まれ。山梨大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。現在、大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授。文部科学省グローバルCOEプログラム「認知脳理解に基づく未来工学創成」拠点リーダー。ATR知能ロボティクス研究所フェローおよび客員室長
鷲田/清一
1949年、京都生まれ。京都大学文学部卒業、同大学院博士課程修了。大阪大学文学部教授を経て、現在、大阪大学総長。哲学・倫理学専攻。1989年『分散する理性』(『現象学の視線』に改題)と『モードの迷宮』でサントリー学芸賞、2000年『「聴く」ことの力』で桑原武夫学芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1963年、滋賀県生まれ。山梨大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。現在、大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授。文部科学省グローバルCOEプログラム「認知脳理解に基づく未来工学創成」拠点リーダー。ATR知能ロボティクス研究所フェローおよび客員室長
鷲田/清一
1949年、京都生まれ。京都大学文学部卒業、同大学院博士課程修了。大阪大学文学部教授を経て、現在、大阪大学総長。哲学・倫理学専攻。1989年『分散する理性』(『現象学の視線』に改題)と『モードの迷宮』でサントリー学芸賞、2000年『「聴く」ことの力』で桑原武夫学芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 毎日新聞社 (2011/3/11)
- 発売日 : 2011/3/11
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 208ページ
- ISBN-10 : 4620320196
- ISBN-13 : 978-4620320199
-
Amazon 売れ筋ランキング:
- 589,823位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 1,346位哲学・思想の論文・評論・講演集
- - 12,245位倫理学入門
- - 22,289位自己啓発 (本)
- カスタマーレビュー:
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ベスト500レビュアー
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2011年10月23日に日本でレビュー済み
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阪大総長の鷲田清一氏とロボット工学の石黒浩との対談集。自分は他人との関わり合いでしか知ることが出来ないので、他人との関わり合いを多く経験することが大切であるということ。
また、今おかれている安定した状況に満足するのではなく、色々と揺れ動く経験が重要であるとのこと。ただ、食べて寝るだけでは動物と同じなので、とにかく考える必要ががある、という石黒氏の指摘には納得させられた。
また、今おかれている安定した状況に満足するのではなく、色々と揺れ動く経験が重要であるとのこと。ただ、食べて寝るだけでは動物と同じなので、とにかく考える必要ががある、という石黒氏の指摘には納得させられた。