ポピュリズムやフェイクニュースが世界を席巻し、中長期的にみれば、自分達にとって不利益な状況を生むに違いない選択を多くの人がすることに不思議な思いを抱いていましたが、それについての示唆を与えてくれる不思議な物語でした。
「真実は民衆の敵だ。真実ほど見るにに耐えないものはない」「そんな救いようのない真実にわざわざ目を向ける」ことなく、「誰もが理解でき、喝采できる劇のなかで、自分達も俳優として一日二十四時間、動き回る」ことを望む人々が(多く)いるとの記述には、はっとさせられました。
厳しい経済の見通しや、自己評価や他者からの評価などについて、人々は厳しい「真実」を理解する努力をして痛みに耐えるのではなく、自分にとって理解しやすく、容易に解決可能そうな手段があるか、またはそれを受け入れることにより自分の評価を向上させてくれる「物語」を選んでしまうということだと思います。
たとえ、それが現実には、自分の生活をより困窮させ、場合によっては、最終的に世界を破綻させてしまう危険性を含むのだとしても、そんな危険な選択であるとは、想像もしないままで。
現在、AIの発達による雇用の場の減少や減収、同じ原因での富の偏在化の問題があり、富の再配分によってそれらを補正するための税収も巨大多国籍企業の出現等による税逃れの横行で困難を極めているという経済状況の厳しさと見通しの悪さ、さらに一刻の猶予もなくなった環境問題という厳しい「現実」があり、それに対して、地道な多国間共同による国際徴税網の確立や、利用する資源の制限による環境への悪影響の防止施策の推進(その中でぬけがけしようとする国があれば他の国はより困窮する状況に追い込まれるという囚人のジレンマに似た状況があり、環境問題対策を厳しく断行すれば多くの即座に破綻する企業が出たり、これまでと同様の生活が営めない中で体が弱い人が亡くなっていくという事実が発生するでしょうが)という時間がかかり、弱者切り捨てとも評価し得る見栄えのよくない手法が、武力紛争や大規模な環境変動による人類やその他の種の大量死を避けるための「最善手」であると考えられます。
しかし、すでに現実に、失業や減収、体の不調に苦しみ、痛みに耐えている人々にとって、そのような複雑で理解に苦しむ、そして対策もうまくいくかわからない、仮にうまくいく場合でもどれ位時間がかかるかわからない、あるいは自分がまっさきに生きていけなくなるそんな「現実」はみたくもないのだろうと、少しですが理解できました。そんな、わけのわからないつらい話ではなく、もっと、わかりやすく簡単な「敵」を提示して、これをやっつけようといって不満を持つ人々を扇動するポピュリズムが、まさに、わかりやすい「物語」を提示するがゆえに人々に支持され、その結果として、現在、世界がさまざまな形で、敵と味方に分断され、その結果、「共同」や「協力」による正しい解決はますます遠のいていることも、非常によく理解できるようになりました。
この本が、50年も前に書かれていたということは、人間の本質はそれほどかわらないということなのでしょう。
しかし、現在、世界は刻一刻と破滅に向かっていると感じます。私たちが考えるべきなのは、いま、信じたがっている人々に提示すべきなのは、どんな物語なのか、それとも、真実を提示して理解してもらう努力をするべきなのか、早急に答えを出し行動すべきときが迫っている。そんな気にさせられました。
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